白竜ヲ討伐セヨ-1
太陽が空の一番高くにあがった、ちょうど昼間。
晴天のおかげなのか、全体的にほんわかとした大通りの中の一角、魔王城の前だけ、どんよりとした重く黒い雰囲気が漂っていた。
「道行く人達がこちらを見ていく気がするのだが……気のせいか?」
(どう考えても気のせいじゃ無いだろ。ベルゼブブ達が戦闘モードになって、その戦闘モードの魔力やらなんやらが自然と溢れ出しちまってるから、そこら辺のやつらから見たらやべーやつ等の集まりにでも見えてんだろ)
「そのやべーやつに私も入っているのか……」
「琴子様、そろそろ行きましょうか」
後ろからかかった声に振り向くと、普段の服の上に胸や肩、肘と言った体の要所に鎧を着けたベルゼブブがこちらを向いて立っていた。
「しゃあ!!ぶっ倒したらぁ!!」
「ほっほっ、ガイム。あまり先走り過ぎて死ぬんじゃないぞぉ」
「当たり前だ!先走って白竜ぶっ倒してやらぁ!」
「……」
ほぅ……とため息をつくボルグ。話が通じないと見切りをつけたようだ。
「そういえば……ガランは来ておらんのか」
「はい……。すいません、連れてくることが出来ませんでした……」
ベルゼブブの顔色が一気に沈む。
「いっいや!!そこまでの事じゃないぞ!そこまでじゃ!」
「……」
「よっ!よーし!それじゃあ出発じゃあー!!」
「しゃあ!!」
「ほっほっ」
「……」
無理やり大きい声を出して士気を上げようとしたが、ベルゼブブは落ち込んだままだった……。
リレリオンの中でも一番の大都市、フィンセの町の周りは、背の高い木の少ない草原地帯だ。
そんな草原を北に登って行くと、白竜が現れた北の山脈につく。
「ではボルグさん、お願いします」
「ん?何をお願いするのだ?」
「北の山脈まで歩いて行くのはさすがに時間がかかりすぎます。なので、「足」を用意しようかと……。それでは。」
「承知したぞい!……ほれぃ!召喚じゃあ!」
ボルグがそう言い、持っていた杖を高くかざすと、緑色の草の絨毯の上に、ブゥンと直径四メートル程の巨大で幾何学的な紋様をかたどった円、いわゆる魔法陣が琴子達の前に現れた。
その魔法陣の中心の空間が歪み、中から人間の物ではない、鱗に覆われた巨大な赤茶色い手が現れた。
その手が地面を掴み、グググッ、と地面から這い出る様にして、魔法陣の中から飛び出してきた。
「コルルルル……」
「こ……これは……」
「ふぉ!琴子様!サラマンダーでございますよ」
琴子のあまりにも驚いた様子に、ボルグが楽しそうに笑う。
赤茶色の鱗を持った、巨大な蜥蜴。
人間とは違う、爬虫類特有の目には、燃え盛る炎のような光が宿っている。
「サラマンダーより移動速度の速い魔物は他にもおりますが…琴子様を守るためにも、少し戦闘力の高い魔物をチョイスしましたのじゃよ~。」
「ありがとうございます、ボルグさん。では琴子様、サラマンダーの背に」
ベルゼブブが琴子の脇に手を入れ、ひょい、とサラマンダーの広い背中にのせる。
「わっ……ちょっと暖かい」
(サラマンダーは火の精だからな。常に体の中で炎を作ってるんだよ)
サラマンダーの背に乗った琴子が、声を漏らした。
そしてベルゼブブ達全員が乗ると、
「こるるる!!」
サラマンダーが喉を鳴らした。それがサラマンダーの出発の合図だったようだ。
ズガッ!と地面を蹴り、砂ぼこりが舞う。サラマンダーが勢い良く草原を真っ直ぐ北に駆け出した。
サラマンダーが自身の炎で防いでくれていたのか、背中に乗っていた琴子達にあまり風は来なかった。
サラマンダーに気付き、襲ってきた草原に群れで住んでいた小さな緑色の体の鬼、ゴブリン達はサラマンダーの体に到達するまでに、サラマンダーの炎によって一匹残らず消し飛ばされた。
そして、三十分もすると北の山脈の麓にある森、「サフバルの森」に到着したのだった。
読んでいただきありがとうございます!
今回は間の話なので、少々つまらないかも知れませんので、すいません!