魔王による魔法教室
(よし、イメージは固まったか?)
「うん……。」
ラーヴァの声に、琴子が少し自信無さげに答える。
(そんなに自信無さげにしなくても大丈夫だ。お前の中にある魔力は俺のもんだからな……。大丈夫、自信を持て。)
「う……うん!」
(それじゃあ声に出しても、心の中で思ってもいいから「リクエイト」って唱えるんだ。で……唱えた時にきっちりイメージが固まっていれば、ほぼ確実にコートを創ることが出来る。)
「それじゃあ……リクエイト!」
琴子がそう叫ぶと、琴子の足元から、何やら黒いドロドロしたスライムのようなものが、床から染み出すようにして現れた。
「え……なにこれ、思ってたのと違うんだけど……」
(まぁ、魔力の元が魔王産だからな。キレイな光が溢れて、そこからコートが現れる~なんて、そんな事にはならねーよ)
次第にそのドロドロは、だんだんと薄くなり、スライムのようにプルプルした表面は、ギュギュ!!と言う音と共に、完璧な布地となった。
「お……お~~、凄い、完璧に同じコートだ……。」
(よし、成功だな……。きっちりお前にも魔法が使えて良かったぜ)
「……?どういうこと?」
琴子が作り出したコートを羽織ながら尋ねる。
(いや、白竜討伐にもしお前も行く事になったら、少なくとも自分の身は自分である程度は守れる様になっていた方が良いよなって思ってな。ちゃんと魔法が使えるか確かめたんだよ)
「それは嬉しいんだけど…まず私が白竜討伐に行かなければ良いんじや……」
(なっ!てめぇ!そんなんだとこの危険がいっぱいのこの世界じゃ一生箱入り娘だぞ!)
「……」
(おい黙るな!一方的に俺がお前を苛めてるみたいだろ!)
「琴子様、少しよろしいでしょうか」
(うわぁ!ビックリしたぁ!!)
琴子の隣に、急に現れたベルゼブブ。
「な、何事ですか……?」
「いえ、朝食の皿をお下げするのと、白竜討伐のメンバーが決まったので、とりあえずそれも連絡しておこうかと思いまして」
「ほ……ほう。それで、誰が決まったのだ?」
「はい、まずは本人の強い希望でガイム、そして念のため治療魔法が使えるボルグ。それと、もし可能であればガランを連れていこうと考えているのですが……」
ベルゼブブの言葉が止まる。
(ガランか……。確かにあいつは強いが、性格に難ありだ。ベルゼブブが連れていくかどうか悩むのも分かる)
ラーヴァが、ベルゼブブの様子を見て言う。
「……ガランさんとは……一体、どんな人なのですか?」
琴子は、ベルゼブブにそう聞いてみた。
「……ガランは、この魔王軍の中でも一番の「自分勝手」なんです。誰の言うことも聞かない。自分の心の声に従っていると言っていますが……。」
はぁ、とベルゼブブはため息をつきながら言った。
まるで、できの悪い子供の事を友達に語る、母親のようだ。
(ま、ガランの事はあまり期待しない方が良いだろうな。なにせ俺の言うことも聞かないやつだ。)
「そこまでなのか……。少し会ってみたい気もするがなぁ……」
「……して、琴子様は何をされておられたのですか?」
「ん?今は魔法の訓練をしておったのだ。……そうだ、なにかオススメの魔法はないかの?ベルゼブブ」
「そうですね……」
琴子の問に、少し考えたベルゼブブは、
「それでは、魔法を解除する呪文、「ハキ」と言う呪文はいかがでしょうか。魔力さえあれば、特に何をしなくても唱えるだけで発動する魔法ですので、最初に覚える魔法としては良いかと」
「成る程、「ハキ」か!よし!やってみるぞ!」
(おーおーやってくれ!そしてこの封印もついでに解いてくれ!)
「ええい!ハキ!」
(……?)
琴子が魔法を唱えた。
………。
「まぁ、琴子様には現在魔法はかかっていないと思いますので、唱えても意味はありませんが……」
「まぁそうか……。ありがとうの!ベルゼブブ!」
「いえいえ。」
そう言うとベルゼブブは、朝食の皿を持って寝室から出ていった。
(……なぁ、琴子。お前本当に何か魔法をかけられて無いよな?)
「う…うん、大丈夫だと思うけど……」
(そうか、ならいい。変なこと聞いたな。)
そう言いながらラーヴァの表情はスッキリしないままだった。
その日は夜にスズナが、白竜討伐は明日のお昼出発ですよ~と、まるでピクニックに行くかのようなテンションで伝えに来たぐらいで、特に何もなく、平和な日だった……。
読んでいただきありがとうございます!
少しの間更新頻度が下がります・・・。