プロット2
これはとある少年の心の中。無数に散らばる記憶の欠片の一つ。
「ぐすっ……うぅ……ぅ……」
まだ幼い、小さな少年は泣いていた。
「お兄様、泣かないで」
その横で少年と同じくらいの歳の少年の妹が介抱していた。
「ごめん、な……。情けない兄ちゃんで……。もう少ししたら、元の兄ちゃんに戻るから、だから……そっとしといてくれないか……」
「ううん。私、離れないよ。だってお兄様、目を離したら今にも消えてしまいそうだもの……」
妹は優しく兄の背中を撫でる。悲しくて、寂しくて、情けなくて、暖かくて、様々な感情がごちゃ混ぜにになった。それでも、全てを優しく包むような妹の優しさに兄の心は大分軽くなった気がした。
「ありがとな……。お前は、強いんだな……」
「だって、私まで泣いたら誰がお兄様を支えてあげるの?」
「はは、それは兄ちゃんの台詞だろ。お前も辛かったら泣いていいんだぞ」
今度は兄が優しく妹を抱きしめ、頭を撫でた。妹は兄の胸に顔を当て、静かに声を震わせた。
「お兄様。私達、これからどうなるの?離れ離れに、なっちゃうの……?」
妹は兄の胸で涙を流す。兄は誓った。妹だけは、最後の家族だけは守ってみせると。
「ずっと、ずっと一緒に決まってるだろ。だから、泣くな。可愛い顔が台無しだ」
妹の目元にたまる涙を指ですくい、兄は温かな陽だまりのような笑顔で妹を元気づけた。
♢
「おはようございます。皆さんのクラスに今日から編入生が来るの!ミーフィル君、自己紹介をお願い」
緩いウェーブがかった長い白髪に桃色の瞳を持つ女性がユウの背中に優しく手を当てる。
このおっとりとした優しそうな女性はユウの担任の先生になるリュミル・エレオノールだ。
エレオノールは目元を緩め、ほら、と優しい微笑みでユウの自己紹介を促した。
ユウはすぅ、と軽く息を吸い呼吸を整える。学校なんて久しぶりで、しかも二年生からの編入。クラスの中ではもう友達やグループができているだろうそれにユウは馴染めるか不安だった。
――大丈夫、大丈夫……。
ユウは頭の中で何度も復唱していた台詞を言うため、勇気を出して口を開いた。
「このたび、編入することになったミーフィル・ユウです。高等部は事情があり、通ってませんでした。今回二年生から入るということで勉学や日常生活で差支えがあると思いますが、わからないこと等があれば助けてくれると嬉しいです。今日からよろしくお願いします」
ユウはぺこりと頭を下げ、そしてできるだけ人当たりのよくできるよう笑顔を作って挨拶した。挨拶が終わった途端、クラスが騒つく。ユウは何かまずいことを言ったと内心とても焦っていたがそれは勘違いだった。
「ミーフィル・ユウってあのラウンズの……?」
「白騎士様なの!?」
「キャーっ!カッコいい!」
どうやらユウの素性は思っていたより知れ渡っていたようで、それのせいでクラスが色めきたっていた。
「はいはーいっ!質問!もしかして、セティアさんのお兄ちゃんさんなんですかー!?」
赤みがかった濃い栗色の短髪に小麦色の瞳が特徴の勝気そうな女生徒が机から乗り出しブンブンと激しく手を振って質問した。その姿にユウは苦笑しつつ答えた。
「ははは、そうだよ。妹共々よろしくな」
「かっくぃー!色男だね〜!」
「スヴィーさん、ミーフィル様が困ってますよ……」
茶化す少女を隣の大人しそうな少女が宥める。その大人しそうな少女が呼んだスヴィーという少女は大ごめんごめんと楽しそうにケラケラと笑った。
「ああいや、それくらいフレンドリーに話してくれるとありがたいよ。今日からクラスメイトなんだしユウって呼んでくれ。他のみんなもよろしくお願いする」
「ほら〜。ホオヅキも堅い事言ってないでユウの方見なよー!さっきから一回も目合わせてないじゃん!」
ふにゅ、とスヴィーを見ていたホオヅキの顔をユウがいる方向に向けようと動かす。
「んん〜!やめてよスヴィーちゃん〜!」
スヴィーがホオヅキの頬をぎゅうぎゅうと引っ張りながら顔をユウの方を向けようとするがホオヅキは恥ずかしいのか拒む。そのせいでホオヅキの顔はふにゃふにゃに面白くなっていてクラス全体に笑いが沸き上がる。そんな仲良しそうな二人を見たユウはこういう友達がこれから作っていけたらいいなと思った。
ガヤガヤと盛り上がるクラスにエレオノールは手を叩き注目させる。
「はいはい二人共。あと少しでホームルームが終わっちゃうわ。私が喋ってもいいかな?」
「それじゃあミーフィル君の席だけど、そうね。後ろの窓際の席、ジル君の隣が空いてるわね。そこに今日から座るといいわ」
「初めまして、今日からよろしくなジル」
隣の席であるジル・ボーゲンはユウの差し出した手に見向きもせずそっぽを向き、悪態をつく。
「はッ!チヤホヤされて浮かれてんなよ、親の七光りの白騎士様が」
初対面でここまで酷く嫌われたのが初めてのユウは、なんと言葉を返したらいいか分からずたじろぐ。
「……その、なんだ。気に触ったのならごめんな。これから宜しくジル」
変わらず無視をしたその反応にユウの脆いガラスのハートに少しヒビが入った気がした。
――なんだろう本当に何かしたのだろうか、もう嫌だ帰りたい……。
「何よ、アイツ。感じ悪い。幾らミーフィル様がカッコイイからって嫉妬するなんてみっともないわね」
「ホント、普通初対面でああも言うかしら。サイテー」
クラスの女子達が悪態をつくジルに対して言った。ジルの棘のある言葉に周りのクラスメイトも女子の発言に同意し始める。
と、その雰囲気を払拭するようにスヴィーがジルの背中を叩き笑う。
「まあまあ、ジルはなんか悪いもの食べてお腹下して機嫌悪いだけだろうし気にしないで上げて!」
「ンなわけねーだろ!ふざけんなスヴィーっ!」
二人の軽いやり取りにクラスに笑いが起こった。それを皮切りにエレオノールがパン、と手を叩きクラスの皆を自分に注目させる。
「はいはい!先生そろそろお話していいかな?いいわよね?じゃあしまょう!」
「今日の一限目の魔法科学実習は教室変更があります。今回は魔科学室ではなく第一魔法競技場に集合となってますので間違えないでくださいね〜!」
♢
「よし、全員揃ったな。それでは授業を開始するっ!」
魔法学の教師、クリスティア・ヴェロニカが鞭のように長くしなる指示棒を手で叩く。
「うん?お前は……ユウじゃないか。何故ここにいる?今は授業中だ。部外者は出ていけアホが」
ユウの存在に気づいたヴェロニカはユウに近づき足を踏みつけた。
「お久しぶりです。……あと痛いです師匠」
ソフィアの旧友であるヴェロニカは必然的にユウとも昔からの知り合いであった。幼き頃のユウの剣術や武術の師で、当時は地獄のような修行をさせた張本人である。
「ヴェロニカ先生ー、ユウ君は今日から編入してきましたー」
スヴィーの助け舟でユウの足はようやく解放してもらった。
「なんだと?編入生はお前のことか?ソフィアは何を考えてるんだ、あいつもアホなのか」
クリスティアは未だユウの足を踏みつけながら手を顔に当て悩ましげに唸る。確かにわざわざ依頼のためにユウを入学までさせる辺り、発想が吹っ飛んでいて何を考えているのか分からない人だろう。
「そういう事なので、これからよろしくお願いします師匠……」
「あ?ここの生徒になったんなら私のことはヴェロニカ先生と呼べ。わかったなユウ」
ユウの胸元を掴みグイッと自分に引き寄せ睨みを利かすクリスティアにユウは震えながら何度も頷いた。
「は、はい!わ、わかりました、ヴェロニカ……先生」
「よろしい。それでは授業を始めよう!」
ユウの言葉に満足したヴェロニカは手を離した。それを見て怯えきっていたクラスメイトの方を見やる。
「今日競技グラウンドに集まってもらった理由は一つだ。抜き打ちテストを今から行う。C判定以下の生徒は特別課題を課すから感謝しろ」
突然のテストにクラスは各々に批判の声をあげる。
「ええ〜!そんなの聞いてなーい!」
「ど、どうしよう……できるかな……」
「最悪だ、マジで……」
パチン!と指示棒を打ち鳴らし強制的に黙らせたヴェロニカがドスの効いた声で怒鳴る。
「うるさいぞお前ら!抜き打ちテストだから急にやるに決まっているだろうが。今日はお前らの土属性の中位魔法式の構築ができているかのテストをする。分かったら全員番号順に二列に並べッ!」
誰も逆らえず一目散に皆並び始めた。
今回の魔法式のテストは土属性の魔法制御だった。ユウは光属性の魔法は得意だが他の魔法は基礎的なものしか扱えずアンナに頼りっぱなしだったため今回のテストは恐らく最悪の結果になるだろう。
――もし成績が悪かったらクリスティアさんに絞められる……!
そう直感したユウは頭をフル回転させ策を練った。
そしてテストが始まり、自分の番が終わったスヴィーは少し離れたところのベンチに腰掛けテスト明けの開放感に背伸びをした。
「んん〜!やっぱり土系統の魔法は私向いてないわ。ぜんっぜん無理」
「私は一応先生からはB評定は貰えましたけどギリギリでした……」
ホオヅキもげっそりとした調子で戻ってきたホオヅキもスヴィーの隣に座る。ホオヅキも得意属性でないため結果はギリギリだったようだ。
「なんだよお前らその程度かよ!もちろん俺はA評定だけどな!」
自信満々にやって来たジルにスヴィーは半眼で睨む。
「そりゃあんた、適正属性だからでしょ。ほかの属性はからっきしのクセに」
「んだと!俺だって本気でやればな……!」
ジルの言葉を無視してスヴィーは今テストを受けている少女の方を見やった。どうやら今はユウの妹であるセティアが受けているようだ。
セティアが呪文を唱える。スヴィーの知らないスペルを考えるにどうやら上位の土属性魔法のようだ。
セティアの目の前で魔法陣が目まぐるしく輝く。かと思いきやその魔方陣には巨大な鉄の壁が鎮座していた。あの大きさからしてS評価は当然だろう。
「はえ〜、相変わらずセティアちゃんは凄いねぇ。今んとこ全属性S評定貰ってるんでしょ?やっぱ天才と凡人じゃ格が違うわー」
「適正でもないのにS評定取れることは本当に凄いですよね。憧れますっ」
セティアの魔法を見て二人は感嘆の声をあげた。
セティアはくるりと反対の方向を向き、後ろにいた少年に笑顔で何やら話している。どうやらその少年はユウのようで、ユウはセティアの頭を撫でている。
次にテストを受けるのはユウのようでスヴィー達は大本命と言わんばかりにユウを凝視した。
ユウが静かに目を閉じた途端、ユウの目の前にはセティアの時よりもさらに大きな魔法陣が浮かび上がっていた。魔法陣の周りにある光の粒が燦爛と輝きながら大きな土の柱を形成していく。
「おおお!ユウも凄いよ!あんなでっかい柱見たことないよ!セティアちゃんのより倍くらいあるんじゃないの!」
スヴィー達の視線につられ見ていたジルは唖然としていた。
「マジかよ……」
ジルは、ユウは親のコネでラウンズに入ったのではなく、実力でその地位を手にしたのだとそう思わざるを得ないレベルだった。
ユウの魔法を見てヴェロニカは素直に褒めた。
「流石だな、ユウ」
「ありがとうございます、クリ……ヴェロニカ先生」
あまりに予想外な返答にユウはたじろぎながらもホッと胸をなでおろした。どうやら上手くいったようだ。
「大変優秀でよろしいことだがお前、精霊に魔法式を組み立ててもらってはないだろうな?」
ギクり、とユウの背筋が凍る。どうやらバレているかもしれない。
「えぇえと、あはは、いやですね先生……。そんな、まさか……。ははは」
ヴェロニカが目を細める。ユウは怖くなり目を閉じ、ぎゅっと全身に力を入れた。
――やばい……!殺される……!
「……。まあいい。お前は編入したてで高等部も行ってなかったからな。今日のところは免じてやる」
はぁ、と溜息をつく。ヴェロニカの優しさにユウは涙を流した。そしてつい言ってしまった。
「クリスティアさん……!ありがとうございます!次回までには勉強しておきます……!」
「ヴェロニカ先生と呼べと言っただろうが!」
「ぐえっ!」
容赦のない鉄槌がユウの頭に炸裂し、間抜けな声が漏れた。
その光景を見ていたスヴィー達はヒヤリと汗を流す。
「ユウってヴェロニカ先生と前から知り合いみたいだけどどんな関係なんだろ……」
「フン。どうせあの七光りだ。大方親が知り合いかなんかだろ」
ジルの相変わらずの態度にスヴィーは苛立ちを覚える。知り合った頃から口が悪いジルにスヴィーはいつも怒っていた。今回もジルの発言が気に障ったのだ。
「あんたねぇ、いい加減その態度どうにかしなさいよ。普通に優しい人じゃない。何が気に食わないのよ」
「……うるせぇ。お前には関係ないだろ」
最早怒る気力すら失せ、スヴィーは立ち上がる。
「あーはいはい。人がせっかく心配してやったのになによそれ。もうしーらない」
「……」
立ち去っていくスヴィーをジルは複雑な表情をした後、頭を下げた。ジルは言い過ぎたのだと今更ながら気づいた。
無言で立ち続けているジルにホオヅキは優しく言葉をかける。
「あの、ジル君……。スヴィーちゃんも、その、ジル君のことを思って言ったんじゃないかな……。だから、その」
「ああ分かってるって。……スヴィーには後で悪かったって言っといてくれ」
ジルが反省していることが分かりホオヅキは相変わらず不器用だなぁとクスリと笑った。
「ふふふ。わかった、任せておいて」
♢
午前の授業を終え、昼休みに入った。ユウは背伸びをして今朝のことを振り返っていた。
――色々と大変なことはあったけれどみんな優しくてすぐに馴染めそうで良かった。
「お兄様っ」
「うん?セティアか、どうした?」
突然の声掛けにユウは振り向くとランチボックスを胸に抱くセティアがニコりと提案する。
「お話があるのですが、一緒にランチしませんか?」
丁度一人で心細かったユウは安堵した。
「ああ、いいよ。ちょうど一人だったんだ」
「ありがとうございます!それでは屋上に行きましょうっ」
ユウの快い二つ返事でセティアの笑顔は向日葵のように眩しく輝いて見えた。セティアの手に引かれユウは屋上に案内されることになった。
一方その頃ユウとセティアの一連の流れを見ていた者がいた。
「あーあ。ほら、言わんこっちゃない。あんたがウジウジしてるせいでセティアちゃんに取られちゃったじゃない」
「う、うるせぇな。俺にだって心の準備ってもんが……」
「ジルさん、私達ただ普通にご飯のお誘いをしようとしただけですよ……」
そう、クラスメイトであるスヴィー、ホオヅキは昼休みをチャンスにジルと仲直りをさせようとしていたのだ。
させようとしたのだが、ジルが途端にトイレに篭もり帰ってこなくなり、連れ戻そうとしてその間にセティアに先を越されてしまったのだ。
「いや私はあんたがここまでビビりだとは思いもしなかったよ。あんたホントに男なの?」
「朝……。あそこまで言ったらよ、どんな顔で謝ればいいのか分かんなくてよ……」
「ちゃんと謝ったらユウさんなら快く許してくれると思うよ、ジル君。だから頑張ろ、ね?」
ジルの弱りきった姿を見てホオヅキは優しく言葉をかけるがジルの目は何故か上を向いていた。
「お、おう……」
「駄目ね、こりゃ」
完全に上の空になっているジルを見てスヴィーが深いため息をついた。
♢
マギアナ学園高等部の屋上はとても広く高いため、ランチをするには絶好の場所となっていた。太陽の日差しもちょうど良い温かさのせいかここで食べている生徒もチラホラと見かける。
「それでお話というのが、先ほど廊下でラインハルト会長とすれ違いまして、その時にお兄様に伝言を頼まれまして」
ベンチに腰掛け、ランチボックスを広げながらセティアはそう口にした。ラインハルト、という言葉にユウは嫌な汗が流れる。今朝からのラインハルトの言動でユウはなんとなくソフィアに似た苦手意識ができていた。苦手な理由はユウに対して距離が近いのだ、何故か。
「そうなのか、なんとなく聞きたくないけど聞くよ……。ラインハルトはなんて言ってた?」
ユウは購買で買ってきた四つ入りのサンドイッチの半分を取り出し、アンナとミリィに手渡す。残り半分をユウは頬張る。
「事前に連絡を入れてくだされば作ってきましたのに」
「悪い悪い、いつこっちに着くか分からなくってさ。次からはちゃんと連絡を入れるよ」
ぷぅ、と頬を膨らませるセティアにユウは謝る。セティアは料理が上手く、家にいる間のご飯はアンナ達の分まで全て作ってもらってるのだ。
「放課後に生徒会室に来て欲しいとの事です。調査隊の方と決戦に向けての作戦会議をするそうですよ」
「そうか、分かった。それなら断る理由もないな。ありがとな、セティア」
カルヴァンスに関することなら行かない理由がない。ユウは自然と気が引き締まる。その力んだ表情にセティアは心配でユウの手を優しく握った。
「いえ、お役に立てて嬉しいです。お仕事、頑張ってくださいね。私に出来ることであればなんでも言ってください。お力添えしますから」
♢
放課後になり、ユウはラインハルトに呼ばれ他場所へ向かうため廊下を歩いていたところ、生徒会室前で談笑する二人の女性を見つけた。
「あら、ミーフィル君じゃない。どうしたの?こんなところで」
「さては何か悪さしに来たな?用がないならとっとと帰れ」
談笑していたのは先生であるエレオノールとヴェロニカだった。ヴェロニカの剣幕にビビるユウは震えながら答えた。
「い、いや、違いますよ。ラインハルトに呼ばれて生徒会室に……」
ユウの言葉を聞いて思い出した、とエレオノールは笑った。
「そういえばミーフィル君は調査隊のメンバーに入ったと聞きました。そいうことなんですね」
「ふん。お前の力なんぞ借りなくてもうちの調査隊ならカルヴァンスなぞ撃滅できるがな」
必要以上にユウに近寄り威圧してくるヴェロニカにユウは心の中で泣いていた。
と、後からユウを待ち合わせるよう言ってきた男の声が聞こえてきた。
「ヴェロニカ先生、ユウさんを虐めるのはそこまでで終わらせませんか?ユウさんが困ってますよ」
振り返るとラインハルトと見知らぬ女生徒二人が立っていた。ヴェロニカはラインハルトを一瞥すると鼻を鳴らした。
「ふん。お前が来るまで手持ち無沙汰だろうから相手をしてやっただけだ。感謝しろユウ」
ぽん、と頭に手を置いた。ヴェロニカにユウはただ乾いた笑いしか出なかった。
「ははは、ありがとうゴザイマス……」
ユウとヴェロニカの様子を見ていたエレオノールは楽しそうにヴェロニカを茶化す。
「ふふ。ティアはミーフィル君のことが大好きなのね」
「学校でそう呼ぶなと何度言えばわかるエレオノール……」
二人の会話を聞いてユウがその名で呼んだらどうなるのだろうと一瞬考え、すぐに考えるのをやめた。不毛だし、無謀過ぎる。
「お前らが来たなら私たちはもう帰る。行くぞ、エレオノール」
「は〜い♪」
ヴェロニカが立ち去りその横をエレオノールがついて歩いていった。嵐が過ぎ去って言ったかのようなこの場の雰囲気にユウはただただ呆然と立ち尽くす。
特にラインハルトやユウに何か言うでもなく喋るだけ喋って消えていった二人は何が目的でこんなところにいたのだろう。
「なんでここにいたんだあの人達は……」
「こちらからお呼びしたのに待たせてしまい申し訳ありません」
ラインハルトの言葉にはっと我に返る。そうだ、ユウは大切な作戦会議に呼ばれていたのだった。
「いや、気にしてないよ。それよりさっきは助けてくれてありがとな。助かったよラインハルト」
お構いなく、とラインハルトは笑顔で手を振る。恐らく根はいい奴なのだろう。なんとなくラインハルトについて理解してきたユウだった。
「さあさあ、ユウさん。入って入ってここはお茶もお菓子もありますよ」
「わあぁ!それは本当ですかっ!」
お菓子という単語に反応し、がばぁ!とミリィがフードから顔を覗かせた。
「うぶっ!ミリィ!急に飛び出すんじゃないわよ!」
その際に踏まれたのだろうアンナが非難の声を上げる。どこかから可愛い……という恍惚とした声が聞こえたがユウはそれどころではなかった。
「こ、こら。お前ら……!」
「あはは、ここなら人目につかないですし大丈夫ですよ。もう放課後で生徒はほとんど帰ってますし、それに彼女達二人は調査隊の子です」
ラインハルトの後ろにいた二人を見る。一人は眼鏡をかけていて落ち着いた雰囲気の女生徒だ。胸元にあるリボンの色からしてラインハルトと同じ三年生なんだろう。
もう一人は赤みがかったブロンド色の髪にユウに似た空色の澄んだ瞳を持つ可愛らしい少女だった。リボンの色は赤の為ユウと同じ二年生なんだろう。初めて見た子なのでユウとは他クラスのようだ。その少女は不機嫌そうに顔を背け目を合わせようとしない態度からしてどうやらこの子もユウの事が嫌いらしい。そう感じたユウはまたハートにヒビが入っていく感覚に陥った。
――頑張れ、笑顔だ、笑顔……。笑え、俺……!
「ミーフィル・ユウだ。これから宜しく頼む」
精一杯の親しみやすい笑顔は。
「ふんっ!挨拶なら部屋に入ってからしましょう。どうせ、後でみんなで自己紹介しないといけないんですし」
少女の一言でユウのハートと共に音を立てて崩れ去っていった。
「アリス。ミーフィル様にその様な態度は失礼ですよ」
眼鏡の先輩はアリスと言う少女を窘めるも、一切反省はしていないようだった。
「なにか悪いこと言いましたか私?大体、ラウンズの協力なんて必要ないです。私達だけで十分よ!」
「まあまあ、落ち着いて。それに、その話はもう決まったことでしょう。さあ、みんな待たせてます。入りますよ」
ラインハルトに背を押され渋々生徒会室に押し込まれるアリス。その際チラりとユウと目が合ったアリスは。
「ふんっ!」
認めないと言わんばかりに睨み、入っていった。
耳元で囁くミリィの慰めになんとか気を取り直し、ユウも生徒会室に入った。
入った瞬間の空気感はなんとも言えない緊張感で包まれていた。生徒会のメンバーはラインハルトを含めて五人。調査隊のメンバーでもある生徒会は強者揃いなのだろう。ユウに緊張感が走る。
「こんにちは、全員揃ってますね。では魔剣エヴァグリオス争奪作戦に向けて会議をする前に、まずはラウンズの協力人の紹介を」
ユウを見てよろしくお願いします、と言った。生徒会の皆は一斉にユウを見る。その視線に気圧されながらもなんとか自己紹介する。
「えっと、ミーフィル・ユウです。……よろしくお願いします」
「アンナよ。よろしく」
「ミリィです〜。好きなものはお菓子ですっ!よろしくお願いします〜」
ユウに続いてアンナ達も挨拶をした。精霊が珍しいのか皆精霊に注目が集まる。何故かアリスの顔が物凄く緩んでいたがユウにはそれがさっぱり分からなかった。
「彼はあの永光の白騎士の二つ名を持つ最強の魔剣士です。今回の作戦を成功させるため、協力してくれることになりました。それじゃあみんなも自己紹介を!」
ラインハルトの言葉に生徒会のメンバーは自己紹介を始めた。
「副会長のセレス・イリフィアです。先程はアリスが失礼致しました。代わって謝罪致します」
先程ラインハルトと共にいた眼鏡に深い緑色の長髪の、黒い瞳を持つ三年生のセレスは深々と礼をした。
「分かってるわよ。広報のアリス・クオリアよ。私はあんたのこと絶対に認めないわっ!」
嫌々ながらも自己紹介をしたのは先程からユウに対してきつい態度をとる二年