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序章
灰色の雲が垂れ込めていた。
この季節、晴れていれば、青嵐の香りも濃く匂う頃の筈だが、いま湿気を湛えた空気のために遠景の山の端は滲み、山山は聳える唯の陰でしかなくなっている。
じっとりと膚に纏わり付く生温さの中に佇み、その様を見詰める二つの人影があった。二人とも馬の背に跨っている。周囲の水の粒に揺らめく輪郭はほぼ同じ格好だった。
遠くで低く空が唸る。重い風が地を這い、二人を撫ぜていく。
「行こう。」
それは若い男の聲だった。幼さ特有の張りを持っている。もう一人は答えない。ただ、静かに歩き出した馬に続いて、自分が乗った馬を歩ませる。そうして、ゆっくりと、二人の姿は霞に溶け見えなくなっていく。
其処へ誰かがいた温もりも消える頃、滴が地を叩き始めた。