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一応札師ですよ?  作者: 氷理
第一章:札師からハンターに転向したいでーす!
9/21

セリの見学と彼の処分



 翌日、研修が終わると立野が付いて来た。札がセリにかけられると知り何とかして治療札を手に入れたいとごねたのだ。

「すみません、海野さん。治療札が欲しいからどうしてもって言われてしまって」

情報通の海野は立花が立野になったことも当然知っている。

「かまわないよ。自由参加だからね。ただ、仮面は2つしか持ってきていないから入り口で買った方がいいよ」

「何で仮面?」

「貴重な札と知られてしまったからね。過去に高価な薬の材料が出品されたこともあったけど、顔が割れると後で横取りされたり脅し取られたり、酷い時には暴行して奪い取られたって例もあるからね」

「買わなければ仮面は必要ないですか?」

「そうだね。まあ、敵が多い人は弱みを見せないために顔を見せないって言うのもあるけどね」

海野が色々と補足説明してくれる。

 入り口で仮面を買って来た立野は付けてから会場に入る。その後ろから海野と忍が同じ仮面をつけて入る。

「あっちが受付。他の物品のときは本物がケースに入れられて陳列されることもあるけど今回は流石にないみたいだ。見学だけなら受付は必要ないから中に入ろうか」

中は多くの人でごった返していた。皆同じ仮面のため笑ってしまったが、自分も同じ仮面ではぐれないように海野に手を繋がれていた。

「もうすぐ始まる」

会場が暗くなり、前方の舞台に5枚の札が出てきた。

 セリが始まり、どんどん値段が上がっていく。

 現在、第二ダンジョンに入っているのはAランク以上の4つのパーティーで、洞窟の向こうまでは辿り着けていない。第一のように休息所も見つからず片方は行き止まりなのは分かっているが、もう一方がどこまで続いているのか分からない。一説には幽世や津田氏の神域に通じているとまで言われている。

「そんな話だけど、どう思う?」

「? 洞窟エリアの向こうはデパートエリアですけど? 何でそんな話になったんでしょうか?」

白熱する会場の片隅で人の少ない所から舞台を見ながら海野と忍は話す。

「えっ? どうして知っているんだい?」

「どうしてって言われても困りますけど? いや、4階からは洞窟エリア、5階からはデパートエリアに繋がっていて洞窟エリアが終わったら第一の5階とデパートエリアの境の部分に出て来るようになってます。

 洞窟エリアを抜けたら加藤さんか茉莉さんが5階の入口を教えてくれると思いますよ?

 何でそんなに夢いっぱいみたいな妄想が広がっているのですかね?」

忍は首を傾げる。

「そ、そうなんだ。じゃぁデパートエリアの先は?」

「先……デパートエリアは……いや、デパートは上に登って鍵を貰ったら地下に降りて、地下鉄エリアから次の洋館エリアに行くんです」

「まだあるの!?」

海野が驚きの声を上げる。

「ええ、まあ」

「…………所で、幽世や神域に通じているっていうのは?」

「……都市伝説か妄想の類じゃないですかね? 少なくとも一番奥に行っても向こう側とは繋がっていません」

「そう………一番奥って言うのは?

 どうして君が知っているの?」

「熊本城モデルの天守閣です。僕行ったことはないですけど。

 僕には時々会いに来る伯父さんがいましてね。その伯父さんに連れて行って貰って訓練を受けたもので」

「そうか。今度行くときは一緒に連れて行って欲しい、いいかい?」

海野はその伯父さんの価値を瞬時に弾き出して約束を取り付けようとする。

「いいですよ、ま、日本庭園エリアまで行くだけなら僕一人でも大丈夫ですし」

アッサリ頷いた忍に海野は横領もされていたことだし、忍が自分の価値を良く分かっていないのではないかと推測した。

 会場ではセリが佳境に入っていた。

「12億! 12億以上出されるかたはいらっしゃいませんか?

 …………では12億で落札となります!!」

1枚でも高額な札になったため、多くの人が俯いていた。

 出口から排出される人々は仮面を取りながら肩を震わせ、泣く人、崩れ落ちる人……多くは嘆き悲しんでいた。

 現在の医療は大きく後退した上、ほぼ全額自腹なので医療費が莫大なものになっている。皆、札で少しでも治ればと希望をかけたのだ。

「そっかー、札が必要な人多いんだねぇ」

忍は人波に流されながら海野にぼやく。

「そうですね。病人は多いですが医薬品は足りませんから」

流されてやっと一息ついた。ホールには嘆き悲しむ人が多く、近くの喫茶店は人でいっぱいだったので少し歩いて裏道の喫茶店で落ち着いた。

「そういえば立野さんはどうしたんだろう?」

受付ではぐれたままだ。落札者の番号も早かったのでほぼ最後の方の番号の立野は運営に貰い行っている訳でもないだろう。

「少ししたら戻りましょうか。

 それと、立野さんに下手な仏心を出さないようにしてください」

「?」

「恐らく協会側は立野さんが元に戻ることを想定していない、いえ歓迎していないでしょう。

 下手に元に戻すことを手伝えば君も協会に目を付けられて、ペナルティが課されたり利用されたりすることになるでしょう」

「そうか、協会は立野さんに力を取り戻してほしくないのか。

 分かりました。そうします」

紅茶を飲んでから落ち着いて会場へ戻ると立野がロビーの椅子に魂が抜けたように座り込んでいた。札が買えなかったことを相当落ち込んでいるらしい。





 立野は札を買えず落ち込んでいた。更には翌日の実力を見るためにと田島引率でのダンジョン攻略でも薬の効果で霊力が安定せず、それまでは5階まで一直線なのに2階の魔物にも苦戦する始末。

 そして帰りがけ

「立野、処分が決まったぞ」

と田島が声をかけた。

「はい」

「まず、立野は4級市民、ハンターランクはEになった。まぁ、ダンジョン2階で苦戦しているから妥当な所だろう」

「なっ!」

「それとご両親は連座で4級市民となった。上級者会議で決定したため即日適応だ。3日後までに上級エリアから退去する事になるだろう。

 確認したら部屋は開いているそうだから、立野は学生寮に移っても大丈夫だ」

学生寮に一旦引き取ることになりそうだ。上級エリアから父が出てくれば噂くらいにはなるだろう。離婚して母に引き取られたとは言え父親だ、上級札師の稼ぎを回して貰えばすぐにでも家は探せるだろうし。

「それも2年ですか?」

「そこは聞いていないから帰って聞いてくれ」

立野は急いで家に帰った。


 やっとBランクに上がって取り戻した祖父母から受け継いだ家。また出て行かなければならないと感傷を振り払って中へ入る。

「ただいま」

母は泣いていた。その前には弁護士の男、確か上級者会議の専属だったはずだ。

「決定通知をお持ちしました」

「母はどうして泣いているのですか?」

「身分が2級市民から4級市民になったとお伝えしたら泣き出されまして。

 立花涼さん、決定を通達します。良くお聞きください」

「はい」

4級となった以前のことを思い出して泣いたのか。救護院での扱いは悪かったらしいから仕方ないな、と立野は思う。

 実際、救護院としては特別扱いが悪かったわけではない。ただ、贅沢に慣れて使用人がすると思っていた調理・洗濯などをする仕事に組み込まれて不当に扱われたと思ったのだ。プライドを傷付けられ怒りで周囲に当たり散らした上、仕事をしなかったため敬遠されていた。

「まず、本日付けで4級市民に移行しました。

 ハンターランクもBからEランクへ変更されています。少なくとも2年は上がれないと思ってください。

 爆発によって出た死傷者の謝罪や賠償については別途裁判となりますが、かなりの高額になると覚悟しておいてください。そしてそれらへの対応と実績によって3年目以降の待遇が決まってきます、ご注意ください」

彼は書状を読み上げた。

「はい……分かりました。ところで父の方にはもう行かれましたか?」

これから行くなら一緒に連れて行って貰えるだろうと打算が働くが

「ええ、貴方は研修がありましたので、先にあちらへ」

と言われてしまった。これでは現在地が分からない。

「父はどこにいるのか教えて貰えませんか?」

「午前中にお会いしたときは東の砦でしたね。……あそこは上級者エリアになるため貴方では入れませんよ」

立野の意図を理解した彼は冷ややかに言った。

「なっなら父は何故!」

「市民の階級は堕ちましたが札師のランクはそのままですから上級者として扱われます」

父はSランクの札師だ。これでは出て来ることもないだろう。

「では、手紙を渡して貰えますか?」

「それは私の仕事ではありません」

ただ郵便で出すだけでは無視される可能性がある。確実に見てもらうには彼の肩書は魅力的だ。

「すぐ書きますから!」

「私も書くわ、ね?」

母も乗って来るが、その美貌にも眉一つ動かさず

「業務外です。では、これで失礼します」

「待って!」

腕を掴もうとした2人の手をアッサリ躱して出て行った。取りすがろうにも掴むことすらできず反動で転ばされ、追いかけることができなかった。それもそのはず、彼はハンターと格闘することも日常茶飯事な面倒ごとを一手に引き受ける武闘派弁護士なのだから。










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