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一応札師ですよ?  作者: 氷理
第一章:札師からハンターに転向したいでーす!
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月影会との関係性



 忍は茉莉に言われた店に入ると個室に案内された。

「や、久しぶりー」

「お久しぶりです茉莉さん、加藤さん」

「元気そうだな。もう一人来るから少し待ってくれ」

個室には茉莉と加藤が既に来ていた。席に着くと

「失礼します」

見知らぬ青年が入って来た。綺麗な黒髪の同じ年か少し年上の綺麗系美青年だ。

「忍、こいつは海野。海野、話していた清水忍だ、頼む」

「えっと清水忍です」

「海野時守です。よろしく」

笑うと優しそうな人好きのする表情になった。

「茉莉さん話したって?」

「忍、報酬を横領されていたんだってな。こいつは目端聞くから色々と相談に乗ってもらうと良い。会の方でも優秀って言われているよ。

 一応Cランクの中衛ハンターだけど義務が付くのを嫌がってるだけで並のAランクよりずっと強いから何かあったら頼れ」

会というのは月影会だ。茉莉と加藤が育ち忍と出会った園、秋月児童園はハンターになりたくない霊力者の子どもたちがいる所であり、月影会の支援を受けて茉莉と加藤の庇護で何とか協会から襲撃されて強制的にハンターにされずに済んでいたのだ。ハンター不足のため協会も強制的にハンターに出来るものを探して襲撃することは、今も表立って行われてはいないがよくある話だ。

「何もなくても頼って貰って構いませんよ」

海野が言葉を添える。

「茉莉は心配性だからな。腕っぷしだけなら友枝でもいいが、アイツは真面目だし堅物すぎるからって狡猾さに対応できる海野と繋いでおくんだと」

「ああ、友枝さんは真面目で義理堅いですからね」

友枝は大学教授(月影会所属)に拾われてその助手兼護衛を務めている筋骨隆々とした男だ。

「札師は会の方にもいるが忍みたいに第二の札が書ける奴はいないからな」

「忍君は第二の札も書けるのかい? 協会の名簿には……」

忍は第二ダンジョンの札もかけるが協会には黙っていた。

「ああ、それですね。協会の方だと書いても経費を引くとほとんど手元に残らなかったんですよ。本来ならもっと貰えたらしいですけど、だとしても信用ないでしょう?

 書いて疲れてもたいして貰えないなら会の方に渡して米とかと交換して貰った方がいいですもん」

「え、米? 経費って何?」

「食べていけなかったので。紙とか墨とか、1回筆が割れた時は半泣きで友枝さんに頼み込んで買ってもらいました。

 あと、札で霊珠を使う奴は札の代金より霊珠の代金が高いので協会には一切渡していません。それでBランクですね。ま、ランク上がっても何も得しないですし、最近は協会の方にほとんど札を卸していませんしね」

海野は頭を抱えてぶつぶつ何か呟いている。耳をすますと

「ありえない、あり得ない……札師が米の援助を受けるとか……」

と繰り返していた。大分ショックだったらしい。

「酷いよなー、この間逃げ込んできた札師も栄養状態悪かったし。札師は囲い込んで使い潰して殺せばいいとか思ってるんだろ」

「そこまで馬鹿ばっかりとは思わないけど、見てるとそんな感じだよな」

茉莉の怒りに加藤が同意する。

「失礼しました! 忍君は僕がしっかり守ります! ええ、横暴を許してはいけません!」

やっと海野が現実世界に戻って来た。

「そうえいば、あの人少しは元気になりましたか?」

月影会に逃げ込んだ札師は報酬が少なく食うにも困るありさまで栄養失調だったので、暫く点滴状態だったのは聞いている。

「ああ、ちゃんと食べさせて今は療養所から出ているよ。農園で農業療法頑張っているみたいで休み休みだけど大分回復してきている。

 ……何かあの人も研究者気質だったらしくって自分の農園を自分の結界で守る! とか言って魔物を感知したら自動で結界が展開する方法を開発しようと研究していた……。役に立つけど……」

茉莉は何故か黄昏ていた。

「はははっ! あれは面白かったな! 結界に引っかかった魔物がベッタベタになっていた」

「倒すのにこっちも一苦労だったよ! 動けないように霊的な鳥もちでべたべたにしたのはいいが倒す方の身にもなってくれ。完全な善意なだけに苦情も言いにくいし」

「泣き言聞いて早速改良に取り掛かったらしいぞー」

「……楽しそうで何よりです」

思わず苦笑いが漏れた。

「とにかく明日、研修が終わったら札の相場を見に行きましょう。あと、貴重な札はセリにかけられますから、そっちも見に行きましょう」

「セリ?」

「ええ、第二の札が病気に効くとなったので明日はセリがあります。今日病人に使って良く聞くと実証されたので明日は高値が付くでしょうね」

そこへ店員さんがお膳を持って入って来た。

「失礼します」

「ご飯のお替りはここに置いておきますね。足りなければどうぞお呼びください」

とお櫃を置いて行った。

「忍、茶わん蒸し好きだったろ?」

「ありがとうございます。ぜんざいどうです?」

「あ、食べる。忍、甘いのは苦手じゃなかったよな?」

「甘いのは好きですけど小豆が。粒あんは苦手ですけど、こしあんは好きですね」

「あ、そっちか」

「そこは好みの問題ですね」

茶碗蒸しとぜんざいを交換しそれぞれ食べ始める。

「そういえば加藤さんが会の人と関わっているって珍しいですよね?」

「忍はうちらの園が会の施設に吸収されたのは聞いているか?」

茉莉は育った園に思い入れがあるのか少し寂しそうな声色が混じる。

「はい。老朽化が酷いから会の施設に子ども達を移すって」

「もう崩れかけだったからな。全員引っ越して会の保護下に入ったからもう俺らの功績で庇う必要がなくなったのさ。あとは……」

加藤は茉莉の方へ目を向けた。

「あー、茉莉さんまだ返事していないんですか?」

「う、ぐ……」

「約束は守ったし、もうそろそろ色よい返事が欲しいなー」

茉莉は悔しそうな顔で言葉に詰まり、加藤は期待に満ちた目を向けている。海野がこっそり

「どうしたんですか?」

と忍に尋ねた。

「加藤さんずーっと茉莉さんに求婚していたんです。茉莉さんは全部断って園を守るって言ってたんで、園の子が全員安全に茉莉さんの手を離れたらって条件つけて、そしたら結婚しても良いって話になったそうです。

 ま、今更ダメとは言わないでしょうけど……」

ぼそぼそと話すが聞こえてくるのか苦々し気に睨んでくる。

「茉莉さん、他に心配事でも?」

忍はまだ他に何かあったかと頭を巡らせる。

「……嫌な予感がするんだ……。このまま結婚したらみんなに、いや誰にも会えなくなるような……」

渋々口を開く。

「ああ…………院長が『ずっと待ち焦がれた反動で閉じ込めるかもしれんなぁ。せめて娘のように思って負った彼女の花嫁姿が見たいが、独占欲の強いあの男が他のものに見せてくれるかどうか……』って言ってたっけ?」

院長は園が閉まってからは一般従業員として月影会に所属しており、別の孤児院の運営相談や育児相談を請け負いながら農園で余生を過ごしている。自給自足を指導してきた院長は即戦力として尊敬されているらしい。

「やっぱり! 閉じ込めんな! 人に逢えなくするな! このバカっっ!!」

とそれを聞いて憤慨した。

「最初に求婚してから15年だぞ? そう思えばちょっとくらい俺のことだけ考えてくれてもいいと思うんだー」

という事は結婚できる15歳になってすぐから加藤は求婚しているのか。

「お前のちょっとの基準が変なんだ!」

「でも茉莉さんが先延ばしすればするほど被害が酷くなりそうじゃない?」

「うぅ」

茉莉は頭を押さえて悩んでいる。

「まだ待たされんの?」

必殺・捨て犬の目、が茉莉を襲う。

「……分かったよ。でも、院長とみんなに結婚式は来てもらうからな! ちゃんと式挙げないと同居しないからな!」

「よーし!!」

とうとう茉莉が折れて加藤が喜びの声を上げた。

「茉莉さん、誰呼ぶの? 院長と園の子と、他は?」

「友枝と海野、あと会に警備も頼んで……忍も来いよ」

「いいけど、平日は無理かも。研修あるから」

「ああ。あれかぁ……」

加藤と茉莉は遠い目になった。

「今度色々決まったらまた連絡するわ」

「はーい」

忍は知っている、結婚したら幽世に茉莉が連れていかれてしまうことを。

 だが止めようとは思わない。茉莉は園を守るために矢面に立ちすぎた。もう大丈夫、と気を抜いている所に協会が付け込んで来たら、一度気を抜いてしまった以上きっと太刀打ちできない。すぐに絡め取られて使い潰されてしまうだろう。旧時代の霊能力者が45年前に挙って避難したと言われる幽世へのルートは協会も月影会も喉から手が出るほど欲しがっている。だから、きっとこれを知っているのは忍と院長だけだ。

 幽世は現世側から探そうとすれば非常に難しいが、向こうからの接触は簡単だ。必死で霊力者を守ろうとする茉莉は眼鏡にかなったが、本人に話しても幽世に行くつもりはないだろうと茉莉を守りたい加藤に幽世からの接触があったのだ。加藤は幽世への片道切符を握りしめてこっそり茉莉を連れて行く機会を伺っている。









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