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一応札師ですよ?  作者: 氷理
第一章:札師からハンターに転向したいでーす!
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彼と彼女



 そして迎えた月曜日の朝、指定の会議室には立花は来ていなかった。

「もしかして怪我したとか?」

「煙吸って体調悪くなっちゃったのかな?」

「爆発物で何か当ったとか?」

色々と想像でモノを言う女性陣は姦しい。そこへ田島が立花そっくりな女の子を連れてやって来た。

「おはよう!」

「「「「おはようございます!」」」」

それぞれが挨拶して席に着く。

「さて、立花が女になった。今の名前は立野香だ」

「「「は?」」」

皆唖然とした。立花改め立野はぶっすりと膨れて横を向いている。

「みんなも知っての通り、金曜日のデパートで火災があった。だが、実は火災ではなく爆弾が持ち込まれたものだった」

「「「ええっ!!」」」

「状況を説明すると、犯人は脅されて爆弾を持ち込み催事場で爆発させるよう指示されていた。娘を人質に取られたと泣く泣く実行した犯人を説得しながら客を避難させていた所で立花が乱入して来てな、勝手に犯人を取り押さえたところで突然爆発したんだ。

 で、だ。立花は取り押さえた犯人から無理に爆弾を取り上げた所で仕掛けられた薬液を被り、その仕掛けが起爆装置となって大爆発を起こした。立花はとっさに結界を張って無事だったが犯人は死亡、連鎖して他に仕掛けられていた爆弾も爆発した。

 結果的に犯人死亡で黒幕は不明、立花は薬液で女性となった。

 今は処分保留で外にいられるが居場所が分かるように腕輪を付けられているし、西側は怪我人続出だったから処分があるだろう」

田島は深いため息を吐いた。

これが本格的に研修が始まった今週の出来事だったら田島も何らかの責任を負うことになっていた。

「女になる薬ってあるんですか?」

「あー、昔……、うん、黒歴史だ」

言いにくそうにしている田島に立野が食って掛かる。

「昔何があったのか、月影会がどんな開発をしたんですか! はっきり言ってください!」

「昔、……協会は霊力者をかき集めてハンターにしていた。

 その中には運動神経の鈍い男ややたら動ける女もいた訳だ。それで運動神経の鈍い男は女にして霊力者の子どもを産ませようとしたり、動ける女は男にして更に高い力を求めようとした。

 結果、半端に性転換して霊力は失うか不安定になって使い物にならなくなった訳だ。

 被験者を協会が放り出したために月影会が受け皿になって、あっちで解毒中和薬の開発がされた。

 今は協会で禁止薬として製法は消去されたが、月影会には製法も解毒薬もあるそうだ」

月影会ではなく協会の黒歴史であったことに立野は苛立つが

「では、月影会を調べて行けば解毒薬も見つかるってことですよね?!」

「だろうな」

戻る方法があると意気込んだ。

「田島さん、村雨を紹介できないんですか!? 早急に月影会を潰す必要があるんです!」

「駄目だ、少なくとも2年は」

「何故ですか!?」

バッサリ切って捨てられた立野は憤慨する。

「はぁ……あのな、お前は判断ミスで上級市民を傷付けた身だ。

 だから村雨に限らず重要部署には少なくとも2年は入れない。

 立野は実績を主張するが、信用を得るのは長くかかっても失うのは一瞬だぞ?

 お前は自分の実績を超える損害を出したんだ、死者が出なかっただけ不幸中の幸いだが重傷者も多かったことから厳しい評価が付けられるだろう」

「でも!!」

田島は諭すが、立野は聞かない。

「あのー」

清水が渋々と言った顔で口を出す。

「何だ?」

「立野はほっといて先進めましょうよ。

 毒消しに治療札でも使えばいいでしょうし」

「毒消しに治療札? そんなのがあるのか?」

田島が尋ね

「ありますよ。時々第二ダンジョンで治療札が怪我に効かないって言ってますけど、あれは怪我用じゃなくて病気や毒に効くほうの札なので」

「そうなのか?!」

「はい」

第二ダンジョンは長い間都市伝説扱いだったが、約半年前に大々的に発表がなされて現在は公開されている。主にAランク以上の探索部隊が少しずつ進んでいる。

 第二ダンジョンでは新しい札が発見され、攻撃・結界・効果の高い治療札・効果の低い治療札の4種類が採取できる。

「じゃぁ、10分休み、その後はまず実力を見てから初動班について説明する!」

田島は上司に報告するために休息時間をとって職員室へ帰って行った。その間に立野はどこかへ電話する。

「……ええそうです。あれは怪我用ではなく病気・毒消し用です。用意してください……今日の夕方会いに行きますので……」

「陣野さん、本当だと思う?」

「思う」

佐伯は陣野を知っているらしく嘘発見器のようにも使っているようで確認してから10分の間に売店に走り、治療札を確保する。戻って来た佐伯はゼイゼイと息を切らしていたが

「貯金大分減っちゃったけど、これで助かれば十分」

と言っていた。

 田島が戻るとダンジョンへ。第二ダンジョンの札は使いにくいと言っても敵が強いと言う理由でとても高価なのだ。



 本日の日程が終わると佐伯は義姉が病で苦しんでいるからと一目散に帰って行った。

「清水、帰りちょっといいか?」

「構わないけど、どのくらいかかる? 夕飯を予約してあるから長くなると困る」

「すぐだから。東ゲートの前で待ち合わせているんだ。治療札を頼んであるから効果を見て貰おうと思って」

「ああ、だったら大丈夫だよ。近いしね」

上級市民用ゲートタウンの東側ゲートに向かう。

「あっ、おじさん!」

東門の所には中年の男が立っていた。男もこちらに気付き、一瞬唖然として

「……え? お前、涼……か?」

と確認した。

「そうだよ。おじさん札は?」

「おう! 梓は回復したぞ。筋肉がリハビリで戻れば日常生活に支障がない程度には動けるようになるそうだ」

中年男は上機嫌で答えた。

「俺のは?」

「は? お前、梓の事じゃなかったのか? つーか、お前が札必要とか聞いてないぞ?」

「買って来てよ!」

「何でだよ! 自分で買えばいいだろ!」

中年男と立野が言い合いになり

「すみません」

と忍が口を出した。

「おう、誰だ?」

「今立花と研修が一緒の清水です。

 立花は今身体が女になっていて元に戻るために札を求めているんです。俺は札師なので効果を確認してほしいと今回一緒に参りました。

 そちらの事情は存じ上げませんが、お嬢さんはいつから体調が悪かったのでしょう?」

「先月だな。こいつが事件で毒を打たれそうになったのを庇って全身麻痺になっちまったんだよ。今日はそのことを申し訳なく思って連絡してきたのかと思えば……。

 まーた首突っ込んで自分で毒を被りでもしたのかよ、その姿」

「おっしゃる通りです」

具合の悪い娘がいるなら娘に使うだろう、立花が原因なら尚更。思いつかずに自分の札を求めた立花に忍は呆れた目を向けた。

「月影会の奴らのせいだ! おじさんなら札買えるだろ! こっちの売店では買えないんだ」

「自分で買えって。ついでに今は病気に効くって広まって価格が高騰しているから俺でも手が出ねーぞ。

 自力でダンジョンに取りに行った方が早いだろ。ランク高いって言ってたじゃねーか」

苦い顔で男は言い放つ。

「あそこはAランク以上んじゃないと入れないくらい強いんだ」

「ならAランクの知り合いにでも頼め。お前には心底失望した。もう二度と娘には会わせん」

「おじさんに言われる筋合いはない!」

「いい加減にしろ! 梓もお前には逢わないと言っている。

 武士の情けだ、女になった事は誰にも言わないでいてやるよ。

 門番、閉じてくれ」

 ガーーー!!

 男を追って門に入ろうとするが警備員に捕まれ、門は閉まっていった。男は立花が2級市民とは言え女に姿が変わったから門番は入れないと思ったのだろう。

「立花、いや立野か……そりゃ怒られるだろ。男親って娘が可愛いものだし、怪我どころか全身麻痺の原因とか激怒されるだろう。

 普通は本人と親御さんに誠心誠意謝って、これこれこういう理由で札が必要だからってきちんと説明して勝手漏れあるか確認すべきだったんじゃないか?」

忍は呆れたようにうなだれたまま戻れない立野に話しかける。

「何でだよ」

「こっちが何でだよ。人は以心伝心出来ないんだから言葉にしないと伝わらないだろ? 何でもして貰えるのが当然とか思ってないか?」

「だっておじさんだぞ?!」

「どれだけ親しかったのかは知らんが女の姿見て驚いていたから札が必要なことは伝わっていなかった、あの人は知らなかったんだろ? 知らないことに気付いて察しろって無理だろ。僕も言葉足らずなことは多いけどここまで酷くはないと思う」

忍は来た道を引き返す。

「清水が教官に言うからだぞ。俺だけに言えば……」

「逆だろ! 教官には言う義務があり、立野に知らせる必要はない。そもそも自業自得じゃないか」

頭が痛いとばかりにため息を吐く。

「札師の方で何とかならないか? 第二の札書ける奴もいるって聞いたぞ」

「あー登録では土山札師が書けるらしいね。今の所他は登録なしだ」

土山札師と立野は親子だが忍はそんなこと知らないし、立野は両親の離婚以来会っておらず弱みを見られたくないため会いたくない。

「…………」

立野はAランクに頼むという手もあるが、生意気だったために好かれていない自覚はある上に女の姿を笑われたくないとプライドが邪魔する。

「じゃーね、俺こっちだから」

もんもんと立野が考えているうちに忍は別の道へ進んだ。






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