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一応札師ですよ?  作者: 氷理
昔の話を
3/21

序章:過去の事

ようやく主人公が登場します。





 丸一日休みなく歩いた少年は、山のふもとにどこかの屋根を見た。

「はぁあ、家が見える」

たどり着いたのは、大きな家、そしてその前に広がる畑。

「だ、れか……」

声がかすれて出てこない。

「ああつ! 知らない奴がいる!」

「誰だ! ってこいつ怪我してんぞ!」

「ほんとだ! てか、片方裸足だし!」

疲れて倒れ込んだ少年に誰かが寄ってきた。

目がかすんではっきりしないが、少年たちが数人いるようだ。

「た……」

「なんだい、家に逃げ込んできた奴がいんの? 初等科生?」

女の人の声だった。

「…………」

「………………………」

そこからは何も聞こえなくなった。


同時刻、山二つ向こうの村は全ての生物が息絶え、更地になっていた。





目の前には木製の高い天井があった。

「ぁ?」

誰がかけてくれたのか、毛布が掛けられソファーの上だった。

「なんだ、気が付いたのか」

初老の男性はぬるめのお湯を差し出してくれた。

一口飲むと、傷んだ喉が和らいだ。

「はい、あ、ここは?」

「秋月児童園、私はここの園長をしている川津だ。といっても分からないかもしれないね? 昨日の昼ごろ地震があった。茉莉君が予測してたけど、君は山二つ向こうの切津村の生き残りかい?」

地震は魔物が原因だったと推定されたのだろう。山二つ向こう……。

「はい。……生き残り?」

「魔物に襲われたんじゃないのかい?」

「はいそうです。……生き残りって、村は?」

「……残念だが、」

そこで切って先を言わない。滅んだのだろう。

どこの村が、町が、魔物に滅ぼされたなんて時々ラジオで聞いている。きっとうちの村もそうだったんだろう。

だが、日常から切り離されたように実感がない。

「なんだ、起きてたかい?」

どことなく豪快な気配のする女性が入ってきた。多分、高位のハンターをしてる、20歳前位。

「あんた、切津村の子か?」

「はい」

「見に行ったけど、魔物がいなかった。昨日地震があったのは昼間だったし、どんな奴だったか、見たか?」

単刀直入だった。

「茉莉君、ちょっと……」

「ええっと、見てはいません……ただ、声? は聞いたようなきがします」

必死に逃げている時に、おぼろげながらに聞こえた声が強烈に印象に残っている。

「声? なんだ、叫び声じゃ判別できない」

不満げに鼻を鳴らした女性に

「何か、この村で僕は500になる、とか……」

と妙に強烈な印象の言葉を伝える。

500と訊かなければ立ち向かってしまったかもしれない。

「500だって?」

「ぅぉおおうっ」

身を乗り出してきた女性に

「やめなさい」

川津が肩を引く。

彼女は渋々隣の椅子に座った。

「お前、名前は?」

「清水、忍、です」

「私は茉莉、高遠茉莉だ。詳しく聞かせろ」

目が座ってて怖い。

「は、い。昨日、俺らが学校から帰っていたら、家が突然風? で切り裂かれて? ……なんか怖くなって逃げたんですけど、次々に家が吹き飛んです。

詳しくは覚えてないですけど、多分子どもみたいな高い声で

『きゃははっ。後20、この村で僕は500になる』

とかなんとか……。

俺が覚えてるのはこれだけで、後はずっと逃げなきゃって走ってて……。

気が付いたらここに寝ていました」

忍が知っている情報なんてほとんどない。ただ逃げて来ただけ。

「ふぅん。で、私たちの行ったときには魔物は逃げていたと。

現在進行形で被害が無いとすると、こりゃ500に成っちまったみたいだな。

どうするよ、加藤」

気が付かなかったが、入口に男がいた。

「そりゃ追うしかないだろ。つってもどこに逃げたものか?

その前に、こっちどうする?」

と忍の方に指を向けた。

「おめぇさん、ハンターになるか? ならないか?」

「は?」

目が点になった。

このひょろい体に何をいうのか。

「適正はあんだろ? そのペンダント、同じ能力の匂いがするぜ。道具とか作れんだろ?」

クローバーの鍵と鈴蘭の花が付いたペンダント、鍵はもらいものだが鈴蘭の方は自作である。

「はぁ、ありますけど……どっちかって言うと、札の方がまだましなような?」

「はぁっ?! 札? あんた札描けんの?」

茉莉が驚いた声を出す。残り二人も目を見開いている。あれ? 魔物に対する結界になる札、家では皆描いていたのにな?

「はぁ。だって協会の札って高いじゃないですか。うちの村みたいな小さな村じゃ買えなくって……。

その、まあ、……公民館を1つ守るくらいしかできないんですけどね? 発動前に公民館破壊されたら意味ないんですけどね?」

事実、忍が死ぬ気で走ったのも公民館が切り裂かれているのを見たからだ。

札代をケチったのが悪かったのだろうか?

でも、公民館用って耕運機と同じ値段もするんだよ? 耕運機買う方が大事だって村の寄合で決まったんだ。

「おい」

「先に気付いたのは俺の方だぜ。こっちが保護したって申告させてもらうぜ」

一体何の話だ?

補足してくれたのは川津だった。

「ここはハンターになりたくない子どものいる養護施設なのだよ。

茉莉君が先に保護したならここでハンターにならない選択肢もあった訳だが、加藤君に保護されたと申告されたら逃げられんだろう、札師は貴重だしなぁ」

短いため息をついて川津はにらみ合いの収束に向かった。

「ほれほれ、夕食の時間になるぞ。茉莉君、手伝ってやってくれ」

「はーい」

不満な声で返事をするが

「嫌になったらここ来ていいからな!」

と言って出て行った。川津も付いて行く。

「あいつも良い奴なんだよ。けど、ここにいるより協会の方が絶対待遇良いからな。札師なら絶対」

加藤も認めてはいるようだ。多分価値観の違いなんだろう。

「あー、お世話になります?」

「お、来てくれるのか?」

「……ハンターになろうがなるまいが、魔物は襲ってきますからね。家の村みたいに。

それに、ここって結界ないでしょう? 

何の力もなく魔物にいつか襲われるか、ハンターになって力を得ても力強い魔物を前に力尽きるか。

なんかどっちの確率高いかとか分からないでしょう」

「まーそうだな」

「それに、ここには拾ってもらいましたから。食い扶持増やして負担になりたくないですよ。生活大変そうだし」

「それもあるか」

加藤も苦笑いだ。部屋を見てもかなり使い古されたものばかりである。

カーテンなど薄くなって外が見えている。

「村に、一度帰ってみてもいいですか?」

「なにもないぞ? それでいいなら構わない」

「見ておきたいんです」






翌日、加藤の運転する車で忍は村へと進んだ。


更地だった。


点々とあった家々はなくなり、広がっていた田園風景は抉り取られて黒々とした土が広がっているばかりだった。


「あ、神社が」

山の中腹部にあった神社は余波を受けてか根元を残して吹き飛んでいた。

鳥居も参道もなくなった山を登ってみれば、それは本殿ではなく木材といった様子になっていた。

ふぅっ

目の前に平安武者の姿がゆらりと浮き上がる。

『戻ってきたか、だが……。すまぬ、俺の力では村の者を守れなかった』

「あなたは?」

『俺はこの神社の祭神、神刀だ』

俯き村のあった場所へ視線を下す。

「御神刀なら、本体はどこにある? 折れたのか?」

『いや……、そこに放り出されている』

吹き飛ばされたのか木材の端に土ぼこりを被って落ちていた。

「清水、持っていけ」

「え?」

「今、協会では古い武器を集めている。付喪神がついているとなれば魔物に対抗する手段としては優秀だから高値で取引されている。特に御神刀となれもう争奪戦が激化する程だ、見つかったらどんな奴に渡されるか分かったものじゃない」

「お前はここの村の出身だろう? 正当な持ち主じゃないか。協会の道具にされるより、まだマシなんじゃない?」

茉莉と加藤が交互に忠告する。

『そうだな、俺もそのほうがいい。村の子よ、俺を連れていけ』

平安武者の希望もあり、持っていくことにした。







茉莉と加藤に連れられて、魔物討伐協会へと足を踏み入れた。

加藤の推薦により札師として登録された忍は、村の札を2種描き新種の結界札として認定される。

人々は隠れ里の消失を惜しみ、忍の加入を歓迎した。






ここまでが序章です。

次回から本編が始まります。

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