序章:少年
グォォォォ…………
何かの遠吠えのようなものが聞こえたような気がした。
バリバリバリバリッ
凄まじい音とともに激しい地震が起こり、少年は倒れてきた壁を見ながら意識を失った。
目が覚めた時、夜空が目に入った。
何時の間にか天井に大きな穴が開いていて、そこから夜空が見えていたのだ。
周囲は瓦礫に囲まれていて何も見えないし、何も聞こえない。
きっと何も聞こえないから危険はないと判断して、そこからどうにか這い出して屋根の建材から頭が出た時、
「あら? 生き残りがいたの?」
どこからか女の声がした。
「子ども、かしら?」
サッと声の方を見ると、月明かりで見えたのは真っ赤な唇の女。蒼いロングドレスと白い手袋をしている、多分まだ若い女。そしてきっと忘れられないであろう美貌。
グォォォォォ…………
またあの声が聞こえる。
「な、何……?」
彼女が声の方に向き少年もその方向へ視線を向けると、その先には巨大なクモのような気持ちの悪いモノが蠢いていた。
「魔物、あれは魔物よ」
何時の間に取り出したのか、月の光を反射して輝く白刃の日本刀を手にしていた。
そして彼女は魔物へ飛ぶ。
ギャアアアアアアアア…………
青白い閃光が魔物を貫くと、世にもおぞましい断末魔を残して消えて行った。
再び静寂が訪れ、周囲を見渡す余裕が出来た時には瓦礫の平地が広がっていた。
人の気配がない。
「誰も生きていないわ。他の街へ行きなさい」
優しいアルトの声が立ち尽くす少年にかけられる。
少年が振り返ると彼女は既に背を向けて歩き出していた。
少年はその姿を呆然と見ていることしかできなかった。
朝になって救助隊がやってくるまで、少年はそのまま座り込み動くことが出来なかった。
やがて、少年はハンターを志す。
生きがいを求めて。
魔物を屠り、家族を殺した存在を消すために。
そして自分のような家族を失うものを出さないために。
ハンターになってから、時々あの時助けてくれた彼女の噂を耳にした。
いつか、彼女にお礼を言えるだろうか?
魔物討伐協会には登録されていないと言う、謎のハンター『蒼の淑女』に。
そして3年後、少年はモブなハンターになっていた。
この少年はモブであり、主人公ではありません。
ただ、時々モブとして出現します。