超平和型安心未来世界
かつて、人々が戦争などが続き命を奪い合っていたのが嘘のように、この世界は安全で平和だった。
また、犯罪件数や交通事故、違反を犯す者は100年間、誰一人としていない。イジメや経済格差、暴力などもなく皆が平等に暮らしている。
ここは誰も不満を持たない、完璧な世界である。
何故、ここまで平等で安全で平和な世界が出来上がったのか。それは、今から150年前に遡る。
当時、世界は犯罪にまみれていた。発展し過ぎた核技術によって、国同士のバランスは壊れ、恐怖で相手を威圧した。
それにより沢山の人が様々なものを失い、孤独に溺れた。誰かが苦しんで、誰かが嗤う。格差は消えず、弱い者イジメはなくならない。
しかし、それを改善しようにも人間では出来なかった。何故なら人間には感情があって、どんなに頑張っても何かしらの思惑が働いてしまうからである。
そこで、弱小国に住む一人の科学者が立ち上がった。その科学者は戦争で故郷を失い、愛する者までも失った人物だった。
「我々に出来ぬのなら、して貰えばいい。機械的に。もう疲れただろう」
科学者の言う通り、世界は疲弊していた。憎しみの連鎖、消えぬ火種、燃える炎。いつ滅びてしまっても仕方がない。それくらいの状況だった。
とっくに世界は分かっていた。これは、全て無意味なのだと。それでも続けたのは、引くに引けなかったから。
「我は望む、平和に満ちた世界を。憎しみのない夢のような世界を」
その科学者の言葉に、まずは弱小国が導かれた。世界に散らばっていたその国々は手を取り合い、なけなしの財を科学者に与えた。
科学者はその期待に応えるべく、せっせと開発と研究を続けた。すると、しばらくして大国がその科学者に協力を申し出た。かつて、故郷を奪った国だった。
しかし、科学者は笑顔でその協力を受け入れた。
やがて、研究は世界全体を巻き込んでいくものとなった。大国の協力を受け入れたことをきっかけに、その研究が全ての国々の耳に入るほど大きくなったからだ。
全てを失った科学者は、沢山の仲間を得た。十分過ぎるくらいの財で、ますます開発は進んでいった。
そして、遂に完成したのである。その科学者の名前と共に、歴史に名を轟かす偉大なコンピューターが。そのコンピューターは「Reform」と呼ばれ、あっという間に世界に普及した。
この「Reform」が出来てから、さらに科学が発達した。卵子と精子さえあれば、専用の機械に入れることで受精し子供が生まれるようになった。
「Reform」はスケジュール管理は勿論、起床時間や就寝時間、勉強時間、運動時間、テレビを見る時間、趣味に没頭する時間……このように様々な時間を決めてくれた。
人間が病気になった時は「Reform」が看病し治療した。万が一の時が守ってくれた。心のケアだってしてくれた。
勉強や人間として大切なことは「Reform」が全て教えてくれた。仕事なんてしなくても「Reform」があれば生活には困らなかった。科学がさらに発達したことで、コンピューターが人間代わりになって働いた。
そして、瞬く間に世界からは職業が消えた。
「Reform」には、コミュニケーション機能もあった。どんな会話も難なくこなす。趣味の会話、昔話……気兼ねなく好きなだけ話すことが出来た。退屈なら、面白い話も教えてくれた。
「Reform」がいるから、友達や家族などいなくても幸せだった。自分を基準に進むから何もかもが楽しい。気苦労もない、気楽に生きていける。
そして、世界からは人と人との繋がりが消えた。自分の力で生きる人は消えた。
やがて、世界のバランスは「Reform」が取るようになっていた。
科学者は、その栄光共に自身の過ちに気が付いた。しかし、気付いた時には何もかもが遅かった。
「ただ……争いのない世界を見たかっただけなんだ……」
彼は独り。仲間は皆、「Reform」に魅入られたまま。もう二度と戻ってはこないだろう。
彼は「Reform」に問いかける。
「これは……我が望んだ世界なのだろうか?」
すると、「Reform」は明るく答えた。
「勿論です! 犯罪件数は今日も0です! 事故も起こっていません。皆幸せに暮らしています! これも全て――――」




