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第33話(再会前)

 

 アレグイルはバルデスに女性には言葉にしなければ気持ちは伝わらないと力説された。そして、しっかり伝えてこいと送りだされたのだが。

 アンデの街へ向かう道中、ずっと考えていた。

 モリーネが傷つく前ならば、妃に迎えれば彼女を幸せにできると考えていた。

 王太子としての立場があるこの国でなら、彼女を守り、人々にかしずかれる何不自由ない生活を送らせてやれると思っていた。

 しかし。

 この王国と関わったばかりに彼女はその身に大きな傷を残すことになってしまった。

 妃として奥宮で暮らす女性達を見れば、美しく着飾りはしても実家の期待を背負い、幸せに暮らしているとは言い難い。

 最高の財力と権力があったとしても、モリーネが満足できる生活を保障できるかと言えば否だ。大きすぎるそれらは自由を奪い逆に負担になってしまうだろう。

 彼女に報いたいなどという自己満足のために、彼女をこの国や王宮に縛り付けるべきではない。

 など。何だかんだと様々に理由をつけてみたが。

 何のことはない。タラントでモリーネに断られたことが、彼女に何も告げられない理由だった。

 彼女の傷に気付きもせず、ハラディルフ王太子の妃という地位をチラつかせた自分を、彼女はどう思ったのだろう。

 あの時、やんわりと断った彼女は、困ったような顔をしていた。

 それが最後に言葉を交わした彼女の記憶だ。

 また、あの表情をさせるのかと思うと、実際には何も言いだせそうにない。

 バルデスには小心者と罵られるだろうとわかっているのだが。


 モリーネはアンデに長く滞在している。その間に、知り合い親しくなった男性と結婚することになったのだろう。

 彼女とわずかしか会う機会のなかった自分では太刀打ちできようはずもない。

 何度か会っただけのモリーネに、なぜこうも感情を乱されるのか。

 もしも、あの時、自分が間違えなければ、違う未来があったのだろうか。彼女がそばで笑っている未来が。

 そうして、いつまでも過去に捕らわれてしまう。

 その感情に彼女を巻き込んではならない。

 アンデの男性と結婚するというのだから、祝福しなければならない。彼女の幸せを、今度こそ間違えないように。

 王宮から遠く離れたアンデなら、長閑に暮らしていけるだろう。王族の危険と関わらせぬよう、今後できるだけ接触は避けなければならない。だが、アンデからタラントへの道は整備させるとしよう。これでは里帰りも不便すぎるだろう。それぐらいしか、今の自分にはできることがないのだ。

 そして、アレグイルはアンデの街に到着した。




 アレグイルが来るというのに、モリーネはどうしようかと悩んでいた。

 手紙には、アンデの男性と結婚すると書いたものの。

 実は予定なんかない。全くない。もちろん結婚相手なんているはずがない。

 モリーネは、アレグイルのいるハラディルフ王国にずっといるためにはこの国の人と結婚すればいいのだと単純に考えていた。表向き結婚していても、自由な関係というものがタラント貴族にはよくあることだったから。

 この国にいる理由がなければ、ツィウク家にいる自分が姿を消した途端、タラントへ戻されそうなのだ。アレグイルにも、実家の両親や兄にも。

 だから、なんとしても、この国にいる理由を作る必要があった。が、そうそう立派な理由なんて見つからない。そこで、しかたなく結婚すると書いたのだけれど。

 モリーネは、うっかりしていた。

 タラントと違って、ここは一夫一婦制の国。名目上の結婚をしてくださいなんて、誰にも頼めないということに。

 本当の結婚すればいいんだろうけど、それは嫌だし。

 この国で複数の妻を持てるのは、王様とアレグイルだけ。

 じゃあ王様の妃に立候補すれば、なんて、それはおかしい。そんなことするくらいなら、アレグイルの妃に立候補する。

 でも、傷物の娘は貴族の妻にはなれないってタラントで貴族娘達が話していたから、立候補しても無理だろうな。

 ああ、どうして以前アレグイルが言ってくれた時に、行きますって言わなかったんだろう。

 いや、頼めばなんとかなるかも。今更だけど、名目だけでいいから妃の一人にしてって頼んでみようか。それしかないかも。

 そうすれば、アレグイルのことが耳に入るし、姿を見られる日があるかもしれないし。時々話ができたりするかもしれない。もしかしたら、時々、踊ったりなんかしてくれるかも。

 毎回、仔犬に呼ばれて溺れそうにならなくてもアレグイルの危機にはすぐに駆け付けられるし、とってもいいことばかり。

 よし。アレグイルに頼んでみよう。彼の心の重荷にならないようにアレグイルの視界に入らないように後ろから見るとかすれば、きっと大丈夫!

 モリーネはぐっと拳を握りしめ、決心を固めた。が、モリーネの顔はにへらっと頬が緩んでしまう。

 もうすぐアレグイルに会える。もうすぐ、会える。

 どうしよう。あの癖はなおったはずだけど。ドキドキして、心臓の音がうるさい。こんな状態で、アレグイルと話ができる? 今日は絶対に失敗できないのに。

 大丈夫、大丈夫よ。

 絶対、失敗しないわ!

 モリーネは早速、アンデ領主館の玄関へと向かった。まだまだアレグイルは到着しそうになかったけれど、領主館からまっすぐのびる道の先に早く彼の姿を見つけるために。

 玄関でそわそわするモリーネを宥めるテラやファシルの方が大変だった。

 待ちきれないモリーネが道を歩いていってしまいそうだったから。テラは王太子殿下をお迎えするために、お嬢様らしく待っていましょうね、と何度も諭した。

 そんな様子を領主館の人々は微笑ましく見守っていた。


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