Sixth……Daiki end
お待たせしました
大輝さんエンドです
楽しんでいただけると嬉しいです
「お疲れ様でーす」
私は軽やかな足どりで廊下を歩いていた
アルバムは記録的セールスを打ち立て、今日は初の全国ツアーの最終日
たったさっきアンコールに応えてメンバーがステージに出ていったところだ
すれ違うスタッフさん達に挨拶しながらメンバーの控え室へと向かう。腕にたくさん抱えているタオルと着替えを置いておくためだ
微かに遠くから透太さんの歌声が聞こえる。それに重なるように葵さんのギターと、大輝さんのベースと、凉平さんのドラムが聞こえる
アンコールらしくノリのいいメロディに合わせて小さく鼻歌をこぼす。メンバーがアンコールに選んだのはアルバムの最後の曲だ。私もお気に入りの曲の1つで、もうすっかり覚えてしまった曲だ。私にこの曲は自信作なんだ、と言っていた大輝さんの顔を思い浮かべる。私がこの曲を好きだ、と言った時の顔も。自然と頬が緩むのを抑えつつ私は足を速めた
ふんふんと口ずさみながら歩いていると控え室に着いた。中に入って、テーブルの上にメンバーごとにタオルと着替えを分けて並べて置く
アンコールが終わったのか遠くから歓声が聞こえる。すっと目を閉じると、楽しげなオーディエンスの熱い空気が思い浮かぶ。私もあの空気に憧れてこの世界に飛び込んだ人間だ。今、私がこの仕事に携われていることがとても誇りに思える
私はぱっと目を開けると、機材のチェックのためにステージに向かった
バタバタと足音が決して広くはない廊下に響きわたる
メンバーの分と一緒に自分のタオルまで控え室に置いてきてしまったのだ。慌てて控え室まで走り、控え室のドアをノックする
「はーい?」
大輝さんの声だ
「すみません、ちょっと失礼します!!」
ガチャッ
バタンッ!!
開けた瞬間閉めてしまった
だってだってだってだってだってだって!!
ガチャッ
「うーちゃん?」
「ひぁっ!!」
一旦閉めたドアから大輝さんが顔を覗かせた
「いや、あの、その…」
…目、目のやり場に困るっ…
なぜなら大輝さんは上半身裸なのだ
ドアを開けた時、なぜか他のメンバーはおらず部屋には大輝さんだけで、しかも大輝さんはちょうどTシャツを脱いでいるところだった。別に見ちゃいけないものでもないのだが、私には恥ずかしすぎる
見ない見ないと思っていても目に入る。思ったよりがっちりした肩幅だとか、意外としっかりついている筋肉だとか。ぎゅあっ、と耳に熱が集まってくる
「うーちゃん?どうかした?」
小首を傾げる大輝さんをなるべく見ないように俯きながら、蚊のなくような声で懇願する
「あ、あの…上…着ていただきたいかなぁ…と…」
顔が熱い。きっと私の顔は赤くなっているのだろう
ちらり、と上目気味で大輝さんを見ると、大輝さんはイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべていた。綺麗な黒い瞳が楽しげに輝いている
イヤな予感がして後退りしかけた私に、大輝さんの声が飛んだ
「まあまあ。うーちゃん何か取りに来たんだろ?」
「あ、はい」
「ん、おいでおいで。取っていいよ」
大輝さんはちょいちょい、と手招きをして部屋の中へと消えた
大輝さんに続いて部屋に入ると、やっぱり他のメンバーは誰もいなくて大輝さんだけだった
「他のメンバーさん達はどうしたんですか?」
「ん?みんな腹減ったっつってどっか行った」
「え、なんだそんなの言ってもらえれば私が買ってきたのに…」
「まあいいじゃん。そのおかげで俺はうーちゃんと2人きりだし?」
大輝さんはタオルでわしゃわしゃと髪を拭きながらにこりと微笑んだ
その優しい微笑みと甘い声音の言葉にどきりと心臓が跳ねた。誤魔化すように部屋に目をやり、目的のタオルを探す
「あ、あったあった」
私のタオルはみんなの着替えの下にまぎれこんでいた。引っ張りだして畳みなおすと、私は大輝さんにお礼を言って部屋を出ようとした
その時
するり、と私の腰と肩に腕がまわり、後ろから抱き締められた
「え!?あ、あの!?」
振り返ろうとすると、頬に優しく唇が触れた。視界の端っこに大輝さんの焦げ茶色の髪が映って、大輝さんに抱き締められているのだ、と理解した
ぎゅうっと強く抱き締められてぴったりと密着した体に、頬の熱が一気に上昇する
「あの、あの…大輝さ…」
慌てて身じろぎすると、腕の力が強まった。心臓が全力疾走した後みたいに猛スピードで鳴っている
密着した体越しに大輝さんの素肌の体温と心音を感じる。薄いTシャツ1枚だったせいで余計に。背中越しに大輝さんの逞しい筋肉だとか、熱くなった体温だとかを感じて頬がどんどん熱くなる。汗の匂いと、シャンプーの匂いと。男の人の匂いってこんなんなんだなぁ…とか思いつつも、心拍数はどんどん上がっていく
恥ずかしくて俯いていると、大輝さんは私を更に強く抱き締め、私の首筋にぺたり、と頬をあてた。触れた頬は熱くて、びくり、と体が揺れる
背後の気配だけで大輝さんが意地悪く微笑んだのが分かった
きゅうっと体を固くしていると、大輝さんの長い指が優しく頬に触れた。ゆっくり頬に唇が触れてから指がそっと離れて。その指が私の首筋を優しくなぞった
びくり、と私の肩が揺れて。頬に熱が集まって。逃れようと動くと更に強く抱き締められて。ひどくドキドキして。普段の明るい大輝さんじゃないみたいな大輝さんの雰囲気に呑まれそうで
「…うーちゃんめっちゃドキドキしてんね」
「っ…」
そう言う大輝さんこそ…。背中越しに伝わる心音は私と同じ速さで高鳴っている
「…俺もドキドキしてんな」
私の心を読んだみたいな大輝さんの言葉に少し驚いて瞬きの数が増える
「…大好き」
ぽつり、と。大輝さんが呟いた
私の瞬きがさらに増えて
そう言った大輝さんの顔を見たくて体を捩ると、大輝さんは何を勘違いしたのか私を更に強く抱き締めてこう言った
「…今はこのままでいて。うーちゃんが俺を嫌いでもいいから…。…しばらくこのままでいさせて」
辛そうな掠れた声音に心臓の真ん中が痛む
大輝さん、大輝さん…
私は…私はね…
「…だ、大輝さん…」
勇気を振り絞って口を開く
「…このままでいいので…聞いてくださいね」
震える唇を抑えつつ言葉を紡ぐ
「…私…あのレコーディングの日からずっと…考えてたんです…。…もし私が誰かを選んだら…どうなるのかな…って…。が、岳さんは…きっと誰を選んでも何も今と変わらないって…言ってくれたんですけど…」
心の内にあった想いを吐露する
「私は…怖かったんです…。…もし、私が誰かを選んで…岳さんの言った通りにならないで、『今』が壊れちゃうのが…。私は…こうして…みんなでいられる『今』が大好きなんです…。だから…だから壊れるのがすごく…すごく…怖かったんです…」
目の前の景色が滲んで雫が大輝さんの腕に落ちる
「…分かってるんです…。私のわがままで……私が答えを出さないことで…みんなを傷つけてることも…」
まわされた大輝さんの腕に優しく力がこもる
「…私は誰も傷つけたくなかった…。…傷つけたくなかったのに…。…壊れるのが怖くて…みんなを傷つけてる…。…もう、どうしたらいいのか…分かんないんです…」
堪えていた嗚咽が一気に漏れる
静かな室内に私の嗚咽が響く
大輝さんは優しく私を抱き締めたまま、私が落ち着くのを待っていてくれた
「…なぁ」
「…?」
「…このままでいいから聞いて」
大輝さんは私が小さく頷いたのを確認すると、ゆっくり口を開いた
「…もしね、うーちゃんの言う通り『今』が壊れても…俺はうーちゃんの味方でいる。世界中の誰もがうーちゃんから離れても、俺だけはうーちゃんの隣にいられる自信がある。それくらい俺はうーちゃんが好きだ」
大輝さんは一旦言葉を切ると、私を抱き締める腕の力を少しだけ強めた
「…悔しいけど、きっと、透太も、葵も、凉平も同じ想いだ。…長い付き合いだから分かる。だから…『今』が壊れても…壊れなくても…岳さんの言った通りなあんにも変わらない」
「…」
「変わらないよ」
ぼろり、と私の頬を新しい雫がこぼれ落ちた
「だからね」
「…?」
「うーちゃんは素直に自分の気持ちを言っていいんだよ。…俺はうーちゃんの本当の気持ちが知りたい。それがどんなものでも、俺は絶対に後悔なんかしない」
「ッ…!!」
…私の…気持ち…
「…私は…」
私は…?
こうして抱き締められて安心するのは誰?
見ると胸がドキドキして止まらなくなるのは誰?
会う度に頬が熱くなってしまうのは誰?
…私は…
「…私はっ…」
私の言葉に大輝さんの肩が微かに強張ったのが分かった
「私は…」
私は…
「私は…私が好きなのは…」
今、この瞬間に私の心を溶かしてくれる…
「…ッ…わ、私は…だ、大輝さ…が…好き…です…」
ぎゅうっ、と腕の力が強まった
「…好き、です」
ぽつり、と呟くように言うと、後ろから大輝さんの声が聞こえた
「…っあーー………ほんとに…?」
「…はい」
私が小さく頷くと、大輝さんの小さな掠れた声が耳元で聞こえた
「…あー……嬉しい…」
今私は顔が真っ赤だろう。きっと大輝さんも
大輝さんの顔を見たくてそっと振り向こうとすると、更に強く抱き締められて止められた
「…今、顔、見ないで。…恥ずかしい…から」
しばらくそのまま動けずにいた
私はとあることを思い出し、口を開いた
「あ、あの…大輝さん」
「…何?」
「あの…前、言ってました…よね。『ちゃんとしたキスは両想いでしたい』って…」
『ちゃんとしたキスはね、うーちゃんが俺に応えてくれた時にしたい。ちゃんと両想いでしたい』
あのレコーディングの時に大輝さんが私に言った言葉だ。大輝さんの肩がびくり、と揺れて、覚えているのが分かった
「…して…くれます、か…?」
そうっと腕が緩められた。振り向いて大輝さんの顔を見ると、大輝さんの顔は私と同じくらい赤かった
「…して…くれない…んです、か…?」
首を傾げてもう一度訊ねると、大輝さんは更に赤くなった
「…して、いい…の?」
私が頷くと、大輝さんは片手の甲を目にあてて小さく唸った
「…分かった」
大輝さんは私の両頬に手をあてると、そっと顔を近づけ、唇の上で吐息のかかる距離で囁いた
「…目、瞑って」
言われた通り目を瞑ると、唇に優しい温もりが触れた
歓喜に震える心
ただただ愛しくて、ただただ嬉しくて
このキスは間違いなく私の想いが大輝さんに伝わった、という証明で
嬉しさのあまり流した一筋の涙は、私だけの秘密
楽しんでいただけたでしょうか?
次は…もう予想がつくと思いますが…葵さんです
次回も頑張りますのでよろしくお願いします!!




