Third
3話です
楽しんでいただけると嬉しいです
レコーディングは何事もなく進み、午前中のうちに残っていた凉平さんパートも録り終わった
あとは編集作業を残すのみなので、午後は丸々オフになった
と言っても私達スタッフにはまだ仕事が残っている
使った機材のメンテナンス、撤去などなど
仕事をしていればモヤモヤしなくて済む
私は昨夜と同じように、スタジオで1人機材のメンテをしていた
「あれ…」
メンテ用のオイルがきれちゃった…
予備は確か2階だっけ
私は立ち上がると、2階に向かった
2階の廊下を歩いていると、いきなり後ろから手をひっぱられた
「きゃっ!?」
そのまま打ちつけられるように壁を背にすると、目の前に透太さんが立っていた
「と、透太さん?どうしたんですか?」
ただならぬ透太さんの雰囲気に戸惑う。いつもの透太さんはにこにこしていて、明るくて無邪気な雰囲気をまとっているけど、今はそれが一切ない
「あ、あの…?」
おそるおそる呼びかけると、どこか不安気に揺れる透太さんの瞳と目が合った。不安気なんだけどどこか射抜くような透太さんの瞳に、訳もなく動けなくなる
「と、透太さん…?」
その瞳が、告白してきた時のみんなの瞳と同じで、きゅうっと心臓が縮まる。意味もなく名前を呼んでみるけど、透太さんの返事はない
そっと透太さんの手が、私の顔の横につかれて逃げ場を失う。もともと顔の高さが近いから、顔が近い
「と、透太さ…」
「うーちゃんはさ、凉平のことが好きなの?」
「え?」
「凉平に告白されてたでしょ」
「え、あ、えっと…」
突然の問いかけに戸惑っていると、透太さんの瞳が私の瞳を覗き込むように見た
「あ、あの…?」
「俺、凉平には負けないよ。大輝にも、葵にも。誰にも」
唐突な透太さんの言葉に首を傾げていると、透太さんの口がゆっくり開いた
「俺はうーちゃんが好きだ」
「!?」
「好きだよ」
「え、えっと…あの…その…透太さ…ッ!?」
言いかけた言葉は言葉にならなかった
気づくと、私の唇は透太さんのそれと重なっていて。何をされているのか理解した途端、触れるだけのそれに、一気に私の頬が紅潮する
ゆっくり透太さんが離れて、固まったままの私の目を見据えた
「…考えておいて」
ぽつりとそう言うと、透太さんは踵を返して去っていった
…その時微かに見えた透太さんの耳は真っ赤だった
透太さんが見えなくなると、へなへなと私は座りこんでしまった
頭がパンクしそうだ
ゆっくり記憶を辿る
ことの始まりは昨夜の凉平さん。それに触発されるように大輝さん。更に2人に触発されるように葵さん。たったさっき、透太さん
みんなみんな冗談じゃない。私を好き、と言った
夢でも何でもない。現実だ
嫌われてるとは思ってなかったけど、まさかみんなが私にそんな感情を抱いていただなんて思わなかった
私にはどうしていいのかが分からない
みんなLikeの方で好き。それじゃダメなの?
私はどうしたらいいんだろう
「これで全員だね」
突然後ろから聞こえた声に肩を跳ねさせつつ振り返ると、大輝さんが立っていた
「凉平、俺、葵、透太」
へたりこんでいた私と目線を合わせるように、大輝さんがしゃがんだ
「うーちゃんは誰を選ぶ?それとも誰も選ばない?」
「…」
俯くと、大輝さんの長い指がそっと私の額に触れた。びくっと肩を揺らすと、その指が一瞬躊躇するように離れた。けれど指は再びそっと触れると、優しく私の前髪をかきあげた
思わずぎゅうっと目を瞑ると、額にそっと大輝さんの唇が触れた
驚いて顔を上げるように仰け反ると、大輝さんの顔が至近距離にあった
ベースで指先の固くなった大輝さんの長い指は、触れた時と同じようにそっと離れていった
そのまま至近距離で見つめあう。大輝さんの瞳に捕らえられたように、動けない
「…うーちゃんのファーストキスは俺が奪いたかったなー…」
唐突にぽつりと呟かれた大輝さんの言葉に、さっと頬が熱くなる。確かにさっきの透太さんとのキスは、正真正銘私のファーストキスだった
恥ずかしさに俯いていると、大輝さんはゆっくり言葉を重ねた
「ほんとはね、今すぐにでもうーちゃんにキスしたい。透太にされたってことに上書きしたい。でも我慢する」
そっと顔を上げて、なんで、と問う気持ちを込めて大輝さんを見つめると、大輝さんはふっと優しく微笑んだ
「ちゃんとしたキスはね、うーちゃんが俺に応えてくれた時にしたい。ちゃんと両想いでしたい」
だから、と続けつつ大輝さんは私の頬に手をあて、私の頬にキスを落とした
「今はまだこれで我慢」
カッとキスされた頬に熱が集中する。もとから赤かったけど余計にだ
「うーちゃんには俺を見て欲しいんだ。俺だけを、ね」
やっぱりどこか子犬みたいな瞳にきゅうっと胸が縮まる
大輝さんは私を見てもう一度くしゃりと笑うと、私の頬にキスを落とした。そして私の手に何かを握らせると、足早に立ち去っていった
握らされたものを見てみると、それは私が正に取りに行こうとしていた予備のオイルだった
私はどうしたらいいんだろう
ぼんやりとしたまま、下に戻って機材のメンテを再開する
メンテをしていると、ちょんちょんと肩をつつかれた。振り返ると、意地悪な笑みを浮かべた凉平さんが立っていた
「凉平さん?どうしたんですか?」
「んー?うーちゃん悩んでるな〜と思って♪」
…もとはと言えば誰のせいだ
「って俺のせいか」
「!?」
一瞬心を読まれたのかと思った。驚く私をよそに、凉平さんは言葉を続ける
「ごめんね?」
「…なんで謝るんですか?」
「だってこうなったの俺のせいじゃん。引き金を引いたのは俺でしょ」
「謝ってほしいだなんて思ってません」
「んーでも謝っときたいから謝っとく。ごめん」
「…」
「でもね」
「?」
「我慢出来なかったんだよ」
「何がですか?」
「うーちゃん聞いてばっかだね。当ててごらん」
うーん…凉平さんが我慢出来なかったこと…?
うんうんと考え込む私を見て凉平さんは苦笑すると、痺れをきらしたように口を開いた
「うーちゃんを、だよ」
「へ?」
「うーちゃんを独り占めしたいってね。その想いを我慢出来なかったの」
カアッと頬が熱くなる
「他の奴らに取られるかもって考えたらすげえ焦った」
凉平さんの長いまつ毛が憂いをおびるように伏せられた。見つめていると、凉平さんはくしゃりと笑って私の頭を軽く撫でた。優しげな紅茶色の瞳が私を覗き込む
「…残念」
「え?」
唐突な凉平さんの言葉に首を傾げると、凉平さんは苦笑気味の顔で微笑んだ
「お邪魔虫達のおでましだ」
どこか楽しげな声色の凉平さんにつられてスタジオの入り口に耳を向けると、パタパタと足音が近づいてきた
「うーちゃん!!」
まず大輝さんと透太さんが顔を出した。その後ろに葵さん。凉平さんがいることは知っていたのか、3人は驚くこともなくスタジオに入ってきた
……全員集合だ
私はごくりとつばを呑み込んだ
楽しんでいただけたでしょうか?
あと1話で完結予定です
次も頑張りますのでよろしくお願いします!!




