First
これは中編になる予定です
ちょっとというかかなり逆ハーになってます
楽しんでいただけると嬉しいです
「うーちゃーん!!」
「きゃあっ!?」
バシコーン!
「いててて…」
「え?わ、きゃあっ、と、透太さん!?ごっごめんなさい!!」
「いきなり叩かないでよ…」
「ご、ごめんなさい…。つい…」
けど、誰だっていきなり後ろから抱きつかれたら、驚くだろう。今のは正当防衛だ
「透太また叩かれてんのかよ…」
呆れ気味の声が割って入る
「あ、葵さん」
「大輝と凉平は?」
「スタジオにいると思いますけど」
「ん。さんきゅ」
自己紹介がまだだった
私の名前は『海』。海の近くの病院で生まれたから『海』
さっき私に抱きついて、どつかれたこの人は透太さん。この年代の男性にしては低めの身長――勿論私よりは大きい――と、中性的な顔立ちの持ち主。茶色い髪と、くるくるとよく動く黒い瞳を持つ。明るい性格でいつも元気な人だ
さっき私に話しかけて去っていったのは葵さん。透太さんとは真逆の飛び抜けた身長と、細身のしなやかな筋肉質の体型の持ち主。短い黒髪と、同色の切れ長の瞳を持つ。無愛想なので冷たい人に思われがちだが、優しい人だ
透太さん、葵さんとあと2人。大輝さんと凉平さん。この4人でバンドを組んでいる
私の仕事は、このバンドのサブマネージャー兼機材担当
見てのとおり、大変な毎日を過ごしている
「うーちゃあん……」
あ、透太さんを忘れてた
うーちゃんっていうのは私のあだ名。海だからうーちゃん。仕事場の人達は、みんなこのあだ名で私を呼ぶ
「透太さん、ごめんなさい…」
「うー…」
でも頼むからいきなり抱きついてくるのはやめてほしい
「でもお願いですから、いきなり抱きついてくるのはやめてください」
「だってうーちゃん見ると抱きつきたくなるんだもん」
……いや、だもんじゃないですから
この人は絶対自分のかわいさを上手く使ってる気がする。そして私がこの顔に弱いのも、絶対知ってる。確信犯だ
「はあ……。もういいです。みなさんスタジオにいますから、すぐ行ってください」
「はーい」
調子よく返事をして、立ち去る透太さんを見送っていると、後ろでクスクス笑う声が聞こえた
くるりと振り向くと、岳さんがいた
「岳さん…」
岳さんはこのバンドのマネージャーさん。40歳を少し越えているけど、年齢をあまり感じさせない豪快な人で、やり手のマネージャーさんだ。私も尊敬しているし、メンバーも彼を慕っている。ちなみに見た目は………山男のようだ、とだけ言っておく
「相変わらずうーちゃんは人気者だね」
……岳さん、あなた笑い堪えてますよね
「笑い事じゃないですよ…」
「まあまあ。ほらスタジオ行かないと」
「引き止めたの誰だと思ってんですか」
「さー行こう行こう」
……話そらしやがった
スタジオに入ると
「うーちゃん!!」
「きゃっ!?…って大輝さんか。驚かさないでくださいよ」
真っ先に大輝さんが飛びついてきた
大輝さんはこのバンドのベース担当。愛用のフェンダーの真っ赤なベースは今は体の後ろにまわしていた。身長は透太さん以上葵さん以下。つまりは平均的。焦げ茶に染めた髪と、人懐っこい性格の持ち主で、よく透太さんと一緒に騒ぎすぎて、2人揃って怒られていたりする
言い忘れてたけど、透太さんはヴォーカル担当。葵さんはギター担当だ
「うーちゃん、アンプの調子が悪い!!」
「あ、はい。見ます見ます」
大輝さんが軽く眉根を寄せながら言ってきたので、抱きついたまんまの大輝さんを引き剥がして、アンプの横にしゃがみこむ
「あ、これがこうで…こうなっちゃってただけか。大輝さん、ちょっと弾いてみてください」
ぼんぼんぼん、とアンプからギターよりオクターブ低い音がはじき出される
「これで大丈夫ですか?」
「うん。うーちゃんありがとー」
再び抱きついてきた大輝さんを、再び引き剥がして立ち上がる
今日はレコーディングの日
私と岳さんは、セッティングが終わるとレコーディングする部屋から出て、隣の部屋に移動する
部屋をつなぐ大きな窓からみんなが見える。けど音は聴こえない
「あーあー、聞こえますかー?」
部屋の機材の上に置かれた小さなスピーカーから、透太さんの間延びした声が聞こえてきた
「聞こえてまーす。準備おっけーでーす」
機材の前に座ったスタッフさんが返事をする
今回は透太さんの歌を録る予定
「じゃ逝きまーす。あ、間違えた。行きまーす」
いやいやいやいや、そこ間違えないでくださいよ
私の心のツッコミをスルーして、メトロノームが鳴り出した
伴奏が流れ出して、透太さんの歌が流れ出す
さっきまでのおちゃらけた姿はどこへやら。キッとした真剣な表情で歌を紡ぎだす
柔らかな音を響かせて、透太さんが歌い終わる
「オッケーでーす」
スタッフさんの声が響いて、ガラスの向こうで透太さんが、つけていたヘッドフォンを外しながら頭を軽く下げた
「うーちゃん、おいで」
岳さんに促されて、私達は再び隣の部屋に移動した
「うーちゃーん!!」
部屋に入った途端、ヘッドフォンを首に下げたまんまの透太さんが抱きついてきた
「ね、今日の俺どーだった?」
抱きついたまんま透太さんが小首を傾げながら聞いてくる。やっぱり確信犯だ
「いつもより調子良かったですね。声よく出てましたよ」
透太さんの質問の意味を理解しつつも、ちょっとずれた返事を返した
「それは嬉しいけど、違う!!俺かっこよかった?」
ぷくっと頬を膨らませながら言う透太さんを無視して引き剥がすと、今度は透太さんより大きな影が私の肩に顎をのせてきた
振り返ると、凉平さんの顔が至近距離にあった
凉平さんはこのバンドのドラム担当。身長は葵さんと同じくらいか少し低いか。少し長めの茶髪と、優しげな紅茶色の瞳をしている。いたずら好きな人で、よく私やメンバーをからかっては楽しんでいる
「あ、あの…凉平さん…近い…んですけど…」
今彼の顔は、私の顔の数センチ前にあった。そりゃそうだ。彼は顎を私の肩にのせているんだから
そろそろと後ずさると、急に腕を引かれて、私の体は何か温かいものにすっぽりと包まれた
「へっ!?」
驚いて顔を上に向けると、真っ赤な顔でそっぽを向いた葵さんが目に入った。どうやら私は葵さんに抱き締められているようだ
「え、えっと、あの…あ、葵さん?」
「葵〜、うーちゃん離してよ」
ぶすっとした顔をした凉平さんが言う
「…」
葵さんは無言で私をそっと離してくれたけど、その際の葵さんは、耳まで真っ赤だった。熱でもあるのかな?
「葵さん大丈夫ですか?顔赤いですけど、熱とかないですか?」
そう訊ねてみると、後ろで凉平さんが思いきり噴き出した
「あ、いや、だ、大丈夫だ」
葵さんは目をさまよわせながら答えたけど、やっぱり顔が赤い
その葵さんの首に、するりと腕が巻きついた
見ると、それはぶすっとした顔の大輝さんだった
「次、葵の番だよ」
「あ、ああ悪い」
大輝さんの言葉に、葵さんは慌てて愛用のレスポールのギター片手に、早足で歩いていった。まだ耳が微かに赤かったけど大丈夫なのかな
後ろでは、まだ凉平さんがひーひー言いながらお腹をよじらせていた
私は岳さん、透太さん、大輝さん、凉平さんと一緒に、再び隣の部屋に移動した
移動して、ガラス越しに葵さんを見ると、葵さんはうつむいてギターのチューニングをしていた。ギターの調子が悪かったら、すぐに私がメンテしなきゃだから私は葵さんをじっと見ていたのだけど、その心配は杞憂に終わった
「…行きます」
葵さんの低い声が、小さなスピーカーからぼそっと聞こえて、さっきと同じようにスタッフさんが返事を返した
そうして、今日のレコーディングは終わった
思いの外、さくさく進んだので明日やる予定だった分も終わってしまったけど、凉平さんが少し納得いかないらしく、凉平さんのドラムパートを明日もう一度録り直すことになった
私は機材のメンテのため、1人スタジオに残っていた。他の人達は、スタジオの2階にある宿泊用の部屋に移動している
スタジオの電気をつけて、1人作業をしていると、誰かが入って来た気配を感じた。振り返って見ると、スタジオの入り口に凉平さんが立っていた
「あれ?凉平さんどーしたんですか?」
「うーちゃんに会いに来た」
語尾にハートがつきそうな甘えた声で言われた
「あーそうですかー」
いつもの冗談だと思って、作業に目を戻す。凉平さんは苦笑しながら、セッティングしてあったドラムセットに座った
「うーちゃんってさ、何気スルースキル高いよね」
「はい?」
顔を上げると、凉平さんは少し悲しげに微笑みながら、タムタムの上に腕と顎をのせてこちらを見ていた。その微笑みに跳ねた心臓を誤魔化すように、作業に再び目を戻す
「ねぇ、うーちゃん」
「はい?」
えーっと、ここをこうして、こことここを組み合わせて、オイルをさして…
「好きだよ」
「そうなんですか……………ってはい?」
聞き流しかけたけど、上から降ってきた衝撃の台詞に間の抜けた声が漏れる
慌てて凉平さんの顔に視線を向けると、凉平さんはとても真剣な顔をして私を見つめていた
自分がすごくまぬけな顔をしているのが分かると同時に、顔に熱が集中するのが分かった
「…誰が?」
「俺が」
「…誰を?」
「うーちゃんを」
「…Likeですよね?」
「ううん、Loveのほう」
「………………冗談…ですよね…?」
「ううん、本気」
カアッと頬に熱が集中していく
凉平さんはドラムセットから立ち上がると、しゃがんでいた私の隣に同じようにしゃがみこんだ
「俺は、本気で、うーちゃんが、Loveのほうで、好きだよ」
区切り区切り言われた言葉を、脳が反芻する。心臓がマーチテンポぐらいの早さで鳴り出す
「返事は今すぐじゃなくていいから。ゆっくり考えて」
凉平さんはそう言って立ち上がると、ひらりと手を振ってスタジオを出ていった
私はしばらく動けなかった
楽しんでいただけたでしょうか!?
なんかバンド関連のお話多くね?と思っている方多いと思うので言いますが
私はバンド関連のお話考えるのが大好きです!!
もともとそういうお話読むのが大好きなので
恋愛も友情もバンド絡めたくなります
なので無意識に多くなってると思います
分からない方のために説明しておきます
文中に出てきた単語について
フェンダーとレスポールっていうのは楽器のメーカーです
ちなみに私の持ってるギターはフェンダーです
タムタムっていうのはドラムセットのバスドラの上にくっついてるタイコのことです。あの小さい2つのことです
マーチテンポっていうのは曲によって違いますが、一般的にテンポ120ぐらいのことを言います。つまりは1分間に120回手を叩く速さです。時計の秒針の2倍です
次も頑張りますのでよろしくお願いします!!




