異世界チケット使用4枚目。その2
続きです。
扉は静かに開けましょう。壊れます。
扉を豪快に開けて入って来たのは、身長が私よりはるかに低い小人族のゴツイおじさんだった。
なんというかとにかく横に大きい。おなかが扉に突っ返そうだ、すごい体型…リンゴみたい。
「あ? なんだぁ、先客がいんのかぁ…また、デカイやつだなぁ。あぁ、…<旅行者>か。おい、ちょっとテーブル借りるぜ。」
どっこいせ、と彼は仕留めた獲物らしき不思議な動物をテーブルにドサッと乗せた。
猪の体なのに耳がウサギミみたいにでろんと長い。
この異世界旅行で、ピーちゃん以外のファンタジー生物を初めて見た!
「おい、兄ちゃん、悪いがコイツ捌くのちぃと手伝ってくれや。少しなら肉分けてやるぜぇ。」
ゲッゲッゲと不思議な笑い方をする小人族のおじさん。
ナビさんが注意した武器は、狩猟用の弓や捌く鉈だったみたいだ。
よかったぁ。安心したよ。
「あぁ、手伝おう。どうしたらいいか教えてくれないか?」
「ここを切り落とすから、頭を抑えといてくれりゃいい」
ウサギと猪を足した不思議な生き物を、慣れた手つきでザクザク捌くおじさん。
そして見る見る真っ青になるイケメンさん。
プルプルして今にも倒れそうだ。
もしかして、血がダメとか…
「ありゃ、兄ちゃん、真っ青じゃねぇか! おい、そっちの嬢ちゃん手伝ってくれ。」
「はい!」
プルプル震えるイケメンさんをどけて、私がおじさんを手伝う。
たいていの料理は花嫁修業でやったからね、もう無駄になりそうだけど。
肉は小分けするみたいで、ある程度捌くと骨と皮だけになった。鉈の切れ味すごい!
「よし、だいたいこれぐらいでいいだろ。嬢ちゃんすまねぇな! 助かったわ。あとで旨い肉食わしてやっから、外の水場で手を洗ってきな。そろそろ霧も晴れる頃だ。そこで目を回してる兄ちゃんもな!」
ゲッゲッゲと笑いながら暖炉にマキを焼べはじめた。
私は、真っ青になってるイケメンさんを促し二人で山小屋の外に出た。
確かに霧は晴れてるけど、空は晴れていない。
スモッグのようなものが覆っていてはっきり太陽が確認できない。
「ふぅ~、またみっともない所を見せてしまったね…血はどうしても苦手で…」
真っ青なまま綺麗な水でばしゃばしゃと顔を洗う。
私も血まみれになった手を洗う。ついでに飲んじゃえ。ふー、おいしい。
「気にしないでください。血が得意って人はあまりいないと思いますよ。」
「おい、おめえら! 肉が焼けたぞ! 早く入って来い。焼きたては旨いぞ~」
扉からヒョイっと顔を出しておじさんが私たちを呼んだ。
そういえば、旅行できちんとご飯食べれたのって、魔法の世界だけだ!
お肉、お肉~と私はウキウキしながら、イケメンさんは真っ青なままヨロヨロと山小屋へと戻った。
「ほら、遠慮しねぇで食え。」
さっき小分けした肉に串を刺して、こんがり焼いてくれたようだ。
ふむ、見た目は豚肉っぽい。
「ありがとうございます、いただきます!」
はむっと肉にかぶりつく。
お、美味しい~ほぼ豚肉に近い味に感動し、ガツガツ食べはじめた私に満足げなおじさん。
「兄ちゃんは食わねぇのか?」
イケメンさんにも串を差し出したが、彼は肉を受け取らない。
「すみません、お肉は好きですがさっきの捌くシーンを思い出すので…ウッ」
ドタドタっと山小屋の外に行ってしまった。
あちゃー、また新しいトラウマを作ったかなぁ。
「いらないなら私が食べますね。勿体ない!」
おじさんからイケメンさんの分の肉をもらう。ハグハグハグハグ…
「ゲッゲッゲ、いい食べっぷりだ! 気に入ったぜ、嬢ちゃん!」
「嬢ちゃんじゃなくて、杏子です、おじさん。おじさんの名前はなんていうんですか?」
「俺は、小人族のゲンジってんだ。いつもなら霧が濃いこの時期に狩りはやんねぇが…かみさんがもうすぐガキを生みそうでな。だから精をつけさせようとイノウサを狩りに来たってわけだ。で、お前ら、<旅行者>だろ。なんだってこんな山小屋にいたんだ?」
私はおじさんに魔法の世界からバタバタして、こちらに来てしまい移動場所がなぜか山の頂上付近だったいきさつを話した。
ゲッゲッゲ!そりゃ災難だ!とゲラゲラ笑いながら、おじさんは肉にかぶりつく。
「あの優男はなんて名前だ?誰かに似てるんだがなぁ…」
「彼はンチャック・ツハイダーさんと言います。成り行きで一緒に旅行してます。」
おじさんが目を見開いて固まった。
「ンチャックさんがどうしたんですか?」
「ツハイダーだと!? 本当か!!」
おじさんが私をガクガク揺さぶる。肉、肉が…
「間違いないです。」
彼の名前がどうしたのかな、まさか知り合いにいるとかだったり…
「俺の村の最長老の名前と同じだ!!」
本当に知り合いだったー!!しかも最長老って…
おじさんは肉を急いで食べ終え、ものすごい勢いで捌いた肉や皮を持っていた袋に入れた。
「嬢ちゃん、兄ちゃんを呼んで来い! すぐ村に下りるぞ」
私も慌てるおじさんに急かされ、外でグッタリしてるイケメンさんを呼んだ。
なんかイケメンさんの親戚が村にいるみたいだよ、と話したが気分が悪いらしく頭が回らないようだ。
「ほら、兄ちゃん! 具合が悪いならこれに乗れ! 三人くらい大丈夫だ。」
おじさんはどこに用意していたのか、ゴツい馬を連れてきた。
倍はあるイケメンさんと私を軽く抱え馬に乗せた。
「村まで飛ばすからな! 舌噛むなよ!」
すっかり霧の晴れた山の頂上から一気に駆け降りる。
いーやー、速い、速いって。あだっ、舌噛んだ。あぁっ、イケメンさんがずり落ちそう!
おじさん、イケメンさん、私の順で無理矢理乗ってるから狭いやら苦しいやら。
しかし、なんで毎回行く先行く先こうなるのか…イケメンさんの背中に捕まりながら、絶対彼がトラブルをおびき寄せてるんだわ!と自分のことは棚に上げて心の中でイケメンさんに悪態をついた。
村はまだかな…遥か先に見える村。いつ着くの…
暴走馬と化した私たちは村へと一直線に駆け抜けた。
次は村に入ります。ここで意外な人物に会います。
村人の身長はだいたい平均1~1.3メートル。
山の麓に大きな村を作ってます。
そして、おじさんが旅行者に詳しい訳も判明します。
杏子さん、普通に動物を捌けます。素晴らしい。