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特別番外編:新婚旅行は危険な香り:9

 

 幽霊は『指輪』を探してほしいらしい。

 なんでもこのホテルの主人からもらった大切なもの。

 大切ならなんで無くすかなぁ…と言う私の表情を感じ取ったのか、悲しそうに一言。


 『無くしたくて…無くしたんじゃないんです…』


 そういって幽霊は無くしたいきさつを話してくれた。

 スケスケ過ぎて、男女の区別もよくわからないけど多分女性な気がする。

 ファンタジーを通り過ぎて、ミステリーになっちゃったよ。

 イケメン夫は私の後ろでカタカタプルプル震えてるし…普通、ここは私が震える場面じゃないの?

 ちなみに人って、本当に驚くと逆に冷静になるよね、というのを現在進行形で体験してる。


『私の執念が強すぎて…、この建物は時間が当時のまま止まってます。今は西暦何年でしょう? あなたたちの格好や荷物を見ると、ずいぶん時が経ってしまってる気がします…先ほどの鉄の乗り物も見たことがありませんし…』


 時間を止めるほどの執念って…悪霊とか怨霊の域に入ってない?!

 自動車を知らないってどんだけ古い時代の人なのか…。

 スケスケ幽霊の格好は、よく目を凝らすと古いメイド服のように見える。

 この人、メイドだったのか…。


『私はメイドとして、毎日必死に働いていました。主人であるあの方も従業員にとても優しく…ある日、頑張っている従業員代表にと、私に指輪を…』


 なんか展開が読めて来た、他のメイドに嫉妬されて指輪を隠されたとか…


『…庶民の私が指輪を贈られたことに、他のメイドが憤慨し…私は指輪を奪われ、地下室に閉じ込められ…』


 ええぇ!まさかの地下室監禁?!


『指輪も箱のままで、中を見ていないんです。部屋で開けようとしたとこで後ろから頭を殴られ…』


 嫉妬っていつの時代も恐ろしいのね…。


『意識を取り戻したときには、もうこの地下室で…』


 まさか、この地下室で死んだとか言わないよね?


『指輪は、このホテルのどこかに隠した。探しだすのが先か、私が死ぬのが先かと他のメイドたちに告げられ…』


 鍵を閉められてしまい頭も殴られていたため、



動くこともできずに怒りと悔しみと悲しみのまま数日後衰弱死した…と。せめてどんな指輪だったのかどうしても見たくて、執念が残りここに縛り付けられてしまったってことらしい。


「うーん、探してあげたいのはやまやまなんだけど。外に出られないし」


『あ、いま開けます』

 ガチャっと扉が軽く開いた。


「…簡単に開いたし」

「あれだけ僕が叩いたのに…」

 二人でガックリ肩を落とした。


『でも、お二人は私を見ても驚きませんね? 今までいろんな方を無理やり連れてきたり無理やりお願いしたり…』


「うん、怖いから無理やりは止めよう。こうやって事情を話してくれれば協力することもできるんだし。

 私たち、ある意味特殊な人種だから、幽霊くらいじゃ驚かないよ。ね?」

 と、イケメン夫に同意を求めたけど…真っ青で倒れそうになってた。しっかりしてよ!


「と、とりあえず隠された指輪の箱って、どれくらいの大きさとか色とか…覚えてない?」


 プルプル震えてるイケメン夫はとりあえず放置の方向で。

 幽霊のお願いを叶えないと、外に出してもらえないならなんとしても探し出さないと!


『あの方から渡された指輪の箱は…ビロードの生地の…あれ? 手触りは覚えてるんですが…何色だったか…』

 すみませんと幽霊メイドは俯いた。


「色は覚えてないのね。ビロード生地の箱かぁ、大きさは?」


『これくらいと思います』


 指でだいたいの大きさを教えてくれた。

 よかった、時代は違えど指輪を入れる箱なんて、そんなに形は変わらないみたい。

 とりあえず、すぐにでもこの地下室から出たいけど…念のためこの部屋も調べよう。


「ンチャック? しっかりしてよ! ほら、メイドさんの指輪を探すから手伝って」

 カタカタプルプル震える彼を叱咤激励して、いまいる部屋で指輪を探す。

 幽霊メイドより幽霊みたいな動きで、イケメン夫もようやく動き出した。


「んー、指輪を隠すならどこかなぁ…」

 引き出しやベッドなど、タンス、部屋にある家具をひっくり返しても見つからなかった。


「ここにはないみたいだね、推理小説とかなら殴ったメイドさんの部屋とかにありそうだけど…」

 うーん、探すのはいいけど薄暗くてよく見えない。


「ンチャック、何か照らす物持ってない?」

「あぁ、ちょっと待ってね、杏子さん。照らす物…照らす物…」


 傍から見ると、何もない空間で手をウネウネしている怪しいイケメンにしか見えない。


「あった! 照らす物っていうよりさ、僕らがすごく光れば問題ないよね」


 そう言っていきなりスプレーをふりかけられた。

 もちろん彼も自分にふりかけてる。

 しばらくしたら、自然発光しだした私たち。

 なんだろう、この光り方…昔コントで見たことあるなぁ…。


「いろいろツッコミたいけど、明るいからいいや。さ、どこから探す? 広いから手分けして探す?」

「一人になるのは嫌だよ! ふ、二人で探そうよ。」


 明るくなったから大丈夫かと思ったんだけど…、プルプルしたままだね。


『あの…、お二人が眩しすぎて近寄れないんですが…』


 メイドさんが光が届かないところで、ぼそぼそと話す。

 幽霊だから明るいのが苦手なの?消えそうに見える。


「ごめんね、暗くてよく探せないから。我慢してくれる?」


『…分かりました。少し離れてます』


「メイドさんは指輪が隠された場所に心当たりはないの?」


『いえ、まったく検討もつきません…』


 まぁそうじゃなきゃ、何百年もさ迷わないか。


「手がかりになるような物があれば違うんだけど…。ほら、メイドたちの日記とかさ」


『日記ですか…あの方なら書いていたかもしれませんが…紙は高級品でしたので…』

 それなら、まずは頭を殴ったメイドたちが暮らしてた部屋だね。


「まずは、殴った犯人の部屋を探そうよ」

「そうだね、普通はリーダーが隠すだろうし」


『…私はそこに行けません。怖くて足がすくむんです…』


 足は死んでるからないよーと言いたいけど…殺意を向けられた相手の部屋なんて、確かに嫌だ。


「わかった、だいたいの場所を教えてくれれば、私たちで探してくるよ?」


 そう言えばホッとしたのか、身振り手振りで主犯のメイドの部屋を教えてくれた。

 住み込みで仕事をしていたので、数人づつが分かれて部屋で生活していたらしい。


「じゃ、地下室から出て探しに行こう」


 歩く懐中電灯状態な私とイケメン夫、回りがよく見える。

 時間が止まってるのは本当みたい。数百年経過してるとは思えない。

 綺麗すぎてかえって不気味、いっそクモの巣とかホコリとかワサっとあればいいのに。


「それにしても杏子さん、幽霊が怖くないのかい?」

 まだ青ざめてカタカタ震えるイケメン夫。


「んー、あれだけきちんと会話ができるなら、怖くないよ。人間としての自我はあったし」

 透けてるけど、あの幽霊メイドさんからは悲しみとかしかない気がする。

 きっと指輪を見たら成仏できるんじゃないかなぁ?

 そもそも田舎の山奥に住んでいたら、多少なりとも摩訶不思議なことはよくあるし。

 アレに比べたら、まだ全然大丈夫。


「そ、そんなものなのかい? 僕の世界に幽霊という現象はなかったから…。こっちにきて、怖いドラマや映画を見て理解してたけど、実際に体験するのじゃあ怖さが違うよ」

「ああ、日本のホラー映画は結構クルからね。おすすめは古い井戸から出てくる…」


 キャーっとプルプル震えるイケメン夫をからかいながら、主犯格のメイド達の部屋に到着。


「…ここ、だよね? 燃えてて何もないんだけど…火事にでもあったのかなー?」

「本当に何もないね。でも、とりあえず探そうか」


 この部屋だけが異常に燃えて、焦げたままになってる。

 他の部屋に延焼がないっておかしくない?


「ないねえ、ほとんど燃えててないもないし」

「じゃ、どんどん片っ端から探していこう」


 怪力自慢のイケメン夫には家具の中身チェックを任せて、私は女性が隠しがちな場所を探す。

 一階から順に片っ端から探したけど…ない!

 あとは、このホテルの主だった人の部屋だけかぁ。


『…あの方の部屋には、なぜか入れないんです…』


 うんうんと他の幽霊も頷く。

 いつ集まったのよ!急に後ろに立たれたらビックリするから!

 幽霊によれば、さ迷ってる間も日課のように、ホテルの敷地内はくまなく探したらしい。

 でも如何せん幽霊なので、限界はあった。

 それで生きてる人間で、幽霊が見えそうな人を捕まえては頼んでた、と。

 なんて迷惑な!早く解決しないと、これからもこの人たち繰り返すよね。


「じゃ、この部屋で最後だね。よいしょっと」


ひときわ立派な造りのとびらを開けた。


中は豪華絢爛のひとことにつきる豪華さ。どこかの王族の謁見室みたい。

貴族だったのかなぁ、幽霊メイドの主様とやらは…。


恐る恐る中に入ると、これまた高級なアンティークテーブルの上に、ちょこんと指輪の箱らしきものが置いてあった。


「…もしかして、あれが探してる指輪じゃない、ビロードだし大きさも…」


『あぁ、やっと取りに来たのかね。ずいぶん待たせるレデイだ』


急に目の前に貴公子のような格好をした男性が現れた。当然スケスケの幽霊。

新手の幽霊キター!

※亀更新ですみません。ちょっと仕事がままならず、気長にお待ちくださるとありがたいです。

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