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特別番外編:新婚旅行は危険な香り:8

 

 ブルー・ラグーンから出た私たちを出迎えてくれたのは純白のリムジンだった。

 ただ同じリムジンがニ台ある。一台はピカピカの新車でもう一台はやけに年代ものだ。

 どっちに乗ればいいんだろう?


「すごーい、リムジンなんて初めて見る!」

「なんだか…ずいぶんと長い車だね」


 リムジンなんて高級車、滅多に見ないから二人とも感想はバラバラ。

 どうやらニ台とも宿泊するホテルまで送迎をしてくれてるみたい。

 車のボディに宿泊するホテルとブルー・ラグーンの写真が塗装されてた。

 微妙な宣伝方法に、思わず苦笑いしてしまった。


 じゃ、どっちに乗っても同じか…と考えていたら、後から来た人達が手前の新車リムジンに乗り込み、サッと行ってしまった。

 渋々、ニ台めの年代物のリムジンに乗り込んだ。

 せっかくのリムジンだったけど、ホテルはすぐ近くだったらしくすぐに着いた。

 着いたホテルは…正直営業してる?という雰囲気で、寂れてる。

 それに霧がすごくて周りの景色がまったく見えない。


 まあ、それは置いといとくとして。

 実はあの温泉…サラサラなお湯ではなく、とにかく粘着質なお湯だった。

 なんというか泥湯に入った気分で、施設備え付けのシャワーで流したけど体がザラザラする…。

 見た目の綺麗さと温泉の質は、比例しなかった。

 皮膚病とかにはすごくいいみたいだけど、美肌の湯に入った私たちにはあまり意味がない。


「そういえば、残りの日程は僕の希望のプランだね! 楽しみだね、京子さん」

 イケメン夫だけがフンフンと鼻歌を披露しながら、寂れたホテルにチェックインした。

 受付している間、キョロキョロと見渡したけどやっぱり営業してるの?ってくらい閑散としてる。

 私たち以外客がいないんだけど…、このホテル大丈夫なの?

 不安になりながらも、妙に顔色の悪いホテルのスタッフに部屋まで案内された。

 案内された部屋は何故か地下室で、しかも電気ついてなくて明かりがロウソクってアリなの?!

 ものすごく怖いんだけど!


「…ここ? ものすごく閉塞感を感じる部屋だね」

 なんでこんなに狭く感じるんだろう?

 薄暗いせいもあるけど、それだけじゃない気がする。

「ほんとだ、天井が低いからそう感じるのかな?」

「あ、本当だ」


 海外の建物は比較的天井が高い、彼が屈むのは久しぶりに見た。


「まあ、横になればいいことだし、気にしてないよ。京子さん、ザラザラしてないかい? 先にシャワーを浴びてきたらいいよ」

 イケメン夫に促され、先にシャワーを浴びることにした。

 本当になんだろう、この息苦しい空間。地下室で天井が低いだけじゃない気がするなあ。


「温泉に入って、体がザラザラになるって…なんだかなー」


 振り返って考えてみれば、温泉に入ってる人の顔が真っ白だった。

 あれはお湯の泥を顔に塗りつけてたのか…。

 皮膚疾患に効くって書いてあったし。


「…ぼ、僕も一緒に入っていいかい?」

 ぼんやりと考えごとをしていたので、彼がコッソリ入って来たのに気づかなかった!

 ぎゃー、前!せめてタオルで隠してぇぇ。

 目の前に、アレ!アレが!間近で見たの初めてだし!

 思わず彼と反対に背を向けた、心臓に悪すぎる。


「杏子さん、この部屋って僕ら二人だけだよね? なんか人の気配がするんだけど…」

 怖いから一緒に入りにきたんだ、と苦笑いするイケメン夫。

 丸出しなのは気にしないのか…。


「えっ、人の気配って…まさか誰か潜んでるとか?!」

「いや、生きてる人の気配じゃなく…」

「ゆ、幽霊とか言わないよねっ?」

「…」

「…、え、本当に?」


 そういえば、このホテルに来る前からナビさんの報告がない。


「ナビさん? このホテルって大丈夫なの?」


 いつもならすぐに返事があるはずなのに、応答なし。

 この感じ…霧がすごくてナビさんと通信できなかったあの異世界のときと同じだ。

 異世界でならわかるけど、外国でも通信妨害とかあるの?


「どうやら、あの古いリムジンに乗ったあたりから…ナビさんと通信できないみたいだ」

「ええ! そうなの? でも、あのリムジンは普通にホテルまで送ってくれたよね?」


「いや、このホテル、変だよ。フロントに一人と荷物を運んでくれたスタッフが一人しかいない」

「確かにすごく人がいないホテルだとは思ったけど…」

「リムジンの運転席は無人だったよ? てっきり僕は自動で運転する車なのかと思ったけど…前のリムジンには運転手がいたし」


 なにそれー!?聞いてないよ、無人のリムジンって…もしかしてここ、幽霊ホテルとか言わないよね?

 果てしなく不安になってきた。


「は、早く体洗って、外に出よう」

「そうだね、ああ、ずるい。京子さん、待って。一人にしないで!」


 二人でバタバタと体を洗い、いそいで部屋に戻る。

 荷物は無事みたい。まあ、そもそもトランクには着替えしか入ってないんだけど。


「…暗すぎる、ロウソクだけってエコにしても酷い!牢屋みたい」

「それに…お腹が空いたよ。ここって食事はでるのかな」


 こういう時に食いしん坊を発動しないでよ!


「ちょっと待って、ドアに外から鍵がかかってる。杏子さん、開かないよ!」

 おなかを空かせた彼は、狂暴になる。よし、学習した。

 ドアを激しく叩く蹴る。

 これだけ騒いでるのに、誰もくる気配がしない。


「もしかして私たち…閉じ込められたの?」

 怪力の彼が叩いても蹴っても、ドアはびくともしなかった。


「「どうしよう…」」

 ナビさんとも通信できない。

 怪力の彼でも開かないドア。

 とりあえず水は出るから、脱水とかの心配はないけど…。


 どうやってここから出ればいい?

 二人で途方に暮れていた。

 その時、私たちの前に透けた人が現れた。いつの時代かわからないけれど、かなり古い服装なのは分かる。


『あの…、折り入って相談があるのですが…聞いてもらえませんか?』

 透けた人はそういって、私たちにとんでもないことをお願いしてきた。

 あるものを探してくれれば、この幽霊ホテルから出してあげる、と。

 それまではこの時間の止まったホテルに監禁すると。


 それって、願い事じゃなくて脅迫だよね?!


「で、何を探せばいいの?」


 幽霊から探し物を頼まれ、この幽霊ホテルの全てを調べることになってしまった。

 そんな小さい物、見つかるのか…。

 新車のリムジンに乗ってれば、多分今日宿泊のホテルに行けたのに…!

 つい、貧乏症で新車を見ると尻込みしてしまったのが、運の尽き。

 二人で怯えながら、幽霊の探し物をすることになってしまった。



※幽霊ホテルに監禁フラグ。


※幽霊さん、年代不詳。何かを探して欲しいようです。



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