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特別番外編:新婚旅行は危険な香り:6

 

 えー、現在私たちは、ただ今…筋骨隆々の男性たちに囲まれてる。

 2メートルはあるはずのイケメン夫が、小さく感じるくらい。

 ラ〇ウ?ってくらいムキムキマッチョなお兄さん?の集団。

 年齢に疑問符が付くのは、筋肉の鎧で年齢が分からないから。


 ---現在、ここでは世界一強い男は誰だ?!選手権を開催しており、いろんな競技に挑戦できます---


「うん、それはあの垂れ幕を見たらわかるんだけど。なんで私たちが囲まれてるの? しかもすっごいギラギラした目で見てきてるし、怖い!」

「そうだよ、なんでわざわざムキムキ男だらけの大会に…!」


 ---杏子様が賞品だからです。ある高貴な血筋の夫妻がお忍びで視察に来る、という話をしていたのです。すると主催者側のテンションが異常に盛り上がりまして…特別参加を認める代わりに…何と言うかその---


 珍しく歯切れが悪いナビさん、何かを引き換えにしたとか言わないよね?!


 ---優勝した選手に、夫人からハグとキスをプレゼントしてくれ!と言われまして---


「「えぇー!!」」


 もしかして、このひらひらした偽プリンセスっぽい衣装はそういう設定なのか…そして、血走った眼で見てる選手達はそれが目当てなの?いや、だって私だよ?農家の地味な一般人だからね!?


「ちょ、ナビさん! 僕という夫がいるのになんでそんな話に…」


 ---ンチャック様が特別参加するからです。では、杏子さまの唇を守るために張り切ってどうぞ---


 うわーん、杏子さーんの唇がー!と叫びながら、イケメン夫は熊みたいな審判に連れていかれた。

 服を競技用に着替えるらしい。だ、大丈夫なのかな…。


「では、ご婦人はこちらへドウゾ」

 そういって恭しく私の前に手を差し出したのは…、泣く子も気絶しそうな顔面傷だらけのスキンヘッドのおじさんだった。

 競技がよく見えるVIP席に案内してくれるそう。



 ◆◆


 競技は広いグランドで開催されていて、かなり大きい大会だった。


『えー、たった今、姫君が到着しました。特設ステージにて優勝者を迎えてくれます』

 手を振ってあげてください、と顔面凶器のおじさんに促され、人形のようにぎこちなく手を振った。

 顔はわからないように、薄いベールをかけてくれている。

 さっき見られたから意味がないと思うけど…。

 気分は平安時代の姫君だよ…、中身三十路にはキツイなぁ。

 ぎこちなく手を振ると会場から「うぉおー!」と歓声が上がる。

 ハハハ、喜んでいただけて何よりデス…連れていかれたイケメン夫はどこにいるやら。


「杏子さーん、絶対僕が優勝するからねー!」

 ムキムキマッチョな大群の中に、ひときわ色白でヒョロッとした彼を見つけた。

 違う意味で目立ってるよ!

 いくつかの競技をこなして、総合得点の一番高い選手が優勝らしい。

 得意な種目だけに点数が偏らないように、バランスを取るためいろんな競技がある。

 なんで車が二台並べて置いてあるのか…しかも、人が一人入れる隙間を開けて棒で繋いであるように見える。

 あと、物凄くおおきな鉄の塊とか…、ゴツイ金属の樽とか…。

 想像もつかない世界一強い男を決める大会は、今だかつてない盛り上がりの中始まった。


【ダックウォーク】


 競技内容:400ポンドの鉄の塊を股に挟み、歩く距離を競う。ちなみに400ポンドは約181キロ。下半身の強さと、持久力の強さを競う。


 スーツケースのような形の塊(181キロ)を股に挟み、筋肉モリモリの男たちがヨチヨチと歩く。

 ああ、それでダックウォークって言うんだ。

 でも、181キロってお相撲さんクラスだよ?

 それを挟んで歩くって…大丈夫なのかな。


「ぐあー」「ぐお!」「ノー!」「ガツデム!」

 次々と選手が脱落。そうだよね、普通そんなもの股に挟んで歩かないし…。


『おおっと、次々と選手が脱落していきます! ん? ものすごい勢いで歩いている選手がいます』

 筋肉モリモリの選手たちの中に、ひと際大きい筋肉をまとった戦士みたいな人がいる!

 すごい、ファンタジー小説の中に出てくる人みたい。

 うわー、顔も渋くてかっこいいとジッと見ていたら、その選手と目が合いウインクされてしまった。

 キャー、素敵なんだけど!あの人が優勝するならいいかも…、ついつい見とれてしまった。


 なんて思ってたら…背筋がゾクっとした。

 ギギギとその方向を見ると、物凄い形相のイケメン夫がいた。

 なんで分かったの、少しかっこいーって思っただけなのに。ウワキジャナイヨ?


『今のところ、ダックウォークはマリウス選手の独壇場です! さあ、飛び入り参加のこの人はどうかー?』

 次はイケメン夫の出番らしい。タンクトップにハーフパンツというボディビルダー仕様に着替えてる。

 股に鉄の塊を挟み、スタート!

 会場のみんなもすぐにギブアップすると思ってるんじゃないかな…。


「杏子さんに触れていいのは、僕だけだー!」

 彼はスタターっと、さっきの選手の記録をあっさり抜いた。

 そしてわざと少しだけ越えたところで、塊をゴトンと落とした。

 ドヤ顔でマリウスさんを睨んでる。


『おおっと、これは意外、新記録が出た―! 愛の力か?!』

 いや、多分ヤキモチの力です。


【樽投げ】


 競技内容:金属製の樽を一番高く上に投げた者の勝ち


 これもマリウス選手がポーイと投げ、他を圧倒。そのあとにイケメン夫が少しだけ上乗せして記録を塗りかえる、わざとだ絶対!

 何せ400キロのイザベラを抱えるんだもの、やっぱり怪力だよね。

 でもなんだか楽しんでるみたい。

 マリウス選手と記録を張り合って、向こうもなんだか楽しんでる?


 横にいる顔面凶器のおじさんによれば、マリウス選手は最近ライバルがいなくて退屈してたらしい。

 どちらにしろ、優勝はイケメン夫かマリウス選手かの一騎打ちになってる。

 妻の立場としては、イケメン夫を応援しないといけない。

 でも、あの鎧みたいな筋肉に触ってみたい!という好奇心もあるわけで…。

 うーん、どっちを応援しようか。


【タイヤバーベル】


 競技内容:トラクター用のタイヤを繋ぎ即席のバーベルに改造。それをきちんと頭上まで上げて制止すること。


「ふんぬっ!」

 ものすごい気合いで、有り得ないデカさのタイヤ二つを繋げたタイヤバーベルを持ち上げるマリウス選手。

 他の選手は腰を痛めたり、骨を折ったりとかなりハードな種目。怪我人・重症患者が続出。

 あんなにたくさんいた選手も数えるくらいになってる。

 10種目以上の競技に出場しないと、正式なポイントが得られない。

 どんどん競技が進む中、イケメン夫もタイヤバーベルを軽々と持ち上げた。

 だからドヤ顔は止めようよ…。

 そして、とうとう最後の競技になった。


【鉄柱上げ】


 競技内容:鉄柱のまん中に二つ穴がくり抜いてあり、そこに両手をいれ鉄柱を頭上まで上げる。

 長く制止できる時間を競う。


 最後は、鉄柱が二本用意され、イケメン夫とマリウスさんが向かい合って競う形になった。

 今回だけの特別方式みたい。

 会場もすごい歓声で、アナウンスが聞こえないくらい。


『では、スタート!』

 審判の掛け声で二人とも鉄柱の穴に手を突っ込み、ぐぐっと持ち上げていく。

 何キロあるのかもはや分からないくらいでかい鉄柱、こんなの持ち上げれるの?

 って、二人とも持ち上げたーー!!

 会場もびっくりしてどよどよしてる。どっちかっていうと、マリウス選手よりもイケメン夫がひょいと持ち上げたことに驚愕してるっぽい。

 マリウス選手はかなり苦しそうにプルプルしてる。

 お互い、我慢比べみたいになってる、顔も真っ赤だし…

 我が夫も…さすがに辛そう?


「ンチャック! がんばれー!」

 思わず応援してしまった。それを聞いたイケメン夫、ふんがーとばかりにさらに高く上げてドヤ顔。

 それを見たマリウス選手が限界だったのか、先に鉄柱を下におろした。


『なんと、優勝は特別参加のンチャック氏だー! 新妻の唇を見事に守ったー!』

 うおおおおお!と地なりのように歓声がわき上がった。


 鉄柱を下におろしたイケメン夫にタターっと走りより、ドカッと抱きついた。

「すごいすごい! かっこよかったよ」

「き、杏子さん、僕頑張ったよ…。それにしてもすごい競技ばかりだね。僕並に怪力の人がいるなんて思わなかったよ」

そう言いつつ、私にキスをしようとしたらヒョイと方向を変えられた。


「あれ? ンチャック? ってマリウス選手?!」

顔を見上げると、さっきまで激闘を繰り広げていたマリウス選手が目の前に。

えーっと、これはどういう状況なのかな?

改めて間近で見ると、本当に大きい筋肉…。何を食べたらこうなるのかな。

などとぼんやり考えてたら、私を挟んで頭上でイケメン夫とマリウス選手がバチバチとにらみ合ってる。


「優勝したのは僕だ。妻を放せ、気易く触れないでくれ!」

「はっ、優勝したのは確かに君だが、正式にエントリーしたわけではない。この競技の公式な優勝者は私だ。よって、彼女のハグとキスは頂く。当然の権利だ」


にやりとマリウス選手は悪代官のような笑みを浮かべて、私をふわっと抱き上げた。

あまりの展開についていけない私は、一瞬反応が遅れてしまった。


ちゅっと、頬にキスの感触がしたあと、寒気がして一気に冷や汗が出た。

だって、後ろから物凄-い邪悪なオーラが出てる、怖くて振り向けない。

あわわ…と思わずマリウス選手の方にしがみついてしまったのは仕方ないと思う。


「っ杏子さん!!」

べりっとマリウス選手から引き離されて、イケメン夫の胸の中に抱き込まれた。

そして汗まみれのタンクトップで私の頬をゴシゴシ拭きまくる。

い、痛いけど…これは私が悪いからひたすら我慢。


「おいおい、そんなにゴシゴシこするなよ、俺のキスはばい菌なのか? 他の女は喜んでキスさせてくれるぜ?」


「うるさい! ああ、もう。杏子さんが汚れた汚れた汚れた…」

ブツブツとつぶやきながらゴシゴシ拭く。

やっと彼の手が止まり、ホッとしたのもつかの間、ぶっちゅーと激しくキスをされまくった。

ヒュー、と周りから冷やかしの歓声が上がる。

マリウス選手もあきれ顔してるよ。


もう、恥ずかしいのでソッとしといてください…。


こうして、世界一強い男はだれだ?!の非公式記録ホルダーとなったイケメン夫とキスされまくってぐったりした私は、会場をあとにしたのだった。

※この競技の一部は作者の想像です。実際の競技はまだまだたくさんあります。

興味のある方は「ストロングマンコンテスト」をググってみてください。

日本人では作れない筋肉の鎧をまとった男たちが、競いあってます。


※タイトルの危険な香りにはいろんな意味があります。

文字通り、ナビさんが自信を持って勧める危ないプラン(笑)

それと、杏子への執着凄まじいンチャック、危険人物ww。

杏子のふらふらぶり(浮気ではないですが、元々の彼女の理想のタイプはマリウス選手みたいな人だったりするので)


多々危険な要素を含んでいる旅行です。


それとナビさんの自動翻訳機能により、外国にいってもそれなりに言葉は通じます。ややカタコトになるのはご愛敬。


※14時に投稿して漢字変換ミスに気付き訂正してます、申し訳ありません。

選手が・・先週になってました。4月26日16・30分。

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