特別番外編:新婚旅行は危険な香り:3
※新婚旅行でも、二人は相変わらず。
チェックインをして鍵を預かり、二人でコテージに入る。
こじんまりとしているが、内装は沖縄らしくうみんちゅ~な雰囲気がたっぷり。
うわぁ、すごい!ベッドカバーが星空模様で、南十字星がわかりやすく強調されてピンクになってる。
などと部屋の内装に感心していたら、イケメン夫が部屋のテレビのチャンネルと格闘中。
私の世界に来てからというもの、すっかりテレビの虜になり…特に時代劇・サスペンスドラマ・恋愛ドラマにと、どっぷりとハマっている。
まさか、ここでも時代劇を見るつもり?
『あぁん』
いきなり喘ぎ声が聞こえた!
まさかのアダルトチャンネルチョイス?
つい、冷たい視線を送るのは仕方ないと思う。
「ち、違うんだ!杏子さん。これを見たかったわけじゃ…」
ポチポチと必死にチャンネルを変えるけど、なぜかひたすらアダルトチャンネルが映る。
『あーれー、おやめください、お代か…』
『あぁ、もっと踏んで…』
『この豚が!…』
『ぐへへ、体はいやといってるが…』
なにこのアダルトチャンネルの多さ!しかも微妙に古いし、趣味悪っ!
ていやっとチャンネルを取り上げ、テレビを消す。
「せっかく新婚旅行に来てるのに、テレビは禁止。それよりさ、この辺を探検しようよ。離島なんてめったに来れないんだし…ん?」
ふと、耳を澄ますと外が騒がしい。
窓を開けてみると、「なによこれ!沖縄まできてなんでAV見てるのよ。この馬鹿ッ!」とか「ひゃっほー」など…
「もしかしてナビさん、テレビの番組に細工した?」
頼む違ってくれー、と思いながら尋ねる。
---はい、この周辺一帯の電波をジャックしてチャンネルをえーぶいに変更しました。人間はこれを見ると性的興奮が高まると文献で確認しました---
あちゃー、おかしいと思ったんだ。普通アダルトチャンネルは有料だからこんな風に見られない。
でも、これはやりすぎ!
「ナビさん、すぐに元に戻して! 隣のコテージからものすごいケンカになりそうな雰囲気がする」
そう、私たちと同じように新婚旅行らしきカップルが隣のコテージにいるのだ。
---承知しました。通常チャンネルに戻します。せっかくのサプライズだったのですが---
「「そんなサプライズはいらないから!」」
夫婦でナビさんに突っ込む。
「杏子さん、僕は…あ、あんな破廉恥なモノを見たかったわけじゃなくて…ドラマの続きがここでも見れるか確かめたかっただけなんだ」
半泣きの状態で無実を訴えるイケメンって…まあ、性格はそうそう変わらないよね。
「うん、わかってるって。あの連ドラの最終回…、あー!今日、最終回じゃない。大変、家に電話して録画してもらわなきゃっ」
---お二人がいつも見ているドラマは、すべて予約録画してあります---
「え、本当? よかったぁ。じゃあ安心だね」
「ナビさん、僕の好きな時代劇とかも大丈夫かい?」
---スタッフにすべて指示してます、お任せください---
いきなり新婚旅行に連れてこられたから、予約録画の準備も出来なかったもんね。
よし、それなら離島探検に出発!
「荷物置いて、海岸に行こう! 地図と財布と携帯と…」
必要最低限の荷物をバッグにいれ肩からかける。
---南十字星観察ディナークルージングを予約してます。夕食はクルーザーでどうぞ。乗船時間は夕方6時で、桟橋に集まるようにと聞いております---
ディナー付きクルージング?
うわぁ、いいかも!なら、さっきのアダルトチャンネルの件は、チャラにしてあげよう。
「クルージングするなら、このシャツにジーパンはないね」
「そうかい?僕はお揃いで嬉しいけど」
ニコニコ笑顔でそう言われると、うぐっとなった。
「それに、杏子さんに変な虫が近寄らなくて済むし。僕はこのままがいい」
「~わかった、じゃあ、服はこのままでクルージングの時間まで外の景色を見て回りたい」
デジカメ持ってくればよかったなぁ。
結婚したというのに、お姫様扱いされてて慣れない。
外国の人と結婚する日本人の奥さんは、こんなくすぐったい感じなのかな。
まぁ、彼の場合は極端に女性が少ない世界だったし。
イケメン夫に言わせれば「日本の女性は、男性からの扱いが酷すぎる!」らしい。
だからおばちゃん、おばあちゃん達には紳士に接するものだから、…町に行くとすぐに囲まれる。
私はいつも放置状態。
べ、別に寂しくなんてないんだからね!
うおお、言ってて虚しくなってきた。
「杏子さん、どうしたの? 泣きそうな顔して…」
心配そうに私の顔を覗きこむ。
「ん、なんでもない。大丈夫」
「そんな泣きそうな顔して、なんでもないと言われても…」
そう言いながら、そっと手を握ってくる。
「僕たちは、確かに成り行きでいきなり夫婦になったけど…この旅行中は恋人として過ごしたい。町に出れば、おばあちゃん達に杏子さんから離されて寂しいし…」
ん?もしかしてもしかして、私と同じだったの?
「もしかして、私と同じで二人きりの時間が少なくて、寂しかった?」
「え、杏子さんも?」
二人してキョトンとしてしまった。
なんだ、楽しそうにおばあちゃん達と話してるから、てっきり…
「家族ができたり、友達や知り合いが増えるのも嬉しいけど…杏子さんと一緒にいる時間が減るのは寂しかった」
「そっか、お互いに遠慮して言い出せなかったってわけか… ごめんね?」
イケメン夫にムギュ~と抱き着いた。
ふふふ、よかった。私だけ寂しいんじゃなかった。
ムギュムギュひとしきり抱きしめあった。
そのあとは、ほんわかした気分になり、恋人つなぎをしてクルーザーがある桟橋にむかった。
桟橋近くの砂浜で、ついつい星砂を探すのにムキになり、危うくクルーザーに乗り遅れるところだった。
中型のクルーザーには何組かの観光客と一緒だった。
頬にビンタされたカップルもいる…多分、隣のコテージの人だ!き、気まずい。
ここは知らないふり、知らないふりっと。
夕方6時出発で夕食を取りながら、南十字星が見やすいポイントに船を向け、観察したあと桟橋に戻る、というコースらしい。
船長さんの説明を聞きながら確認する。
確か南十字星って、日本では水平線ギリギリの低いところでしか見れないって聞いたような…
見れたらいいなぁ。
---大丈夫です。今日は雲一つない快晴ですから必ず見れます。ちゃんと撮影しておきます---
ナビさんがひそひそ声で、そう教えてくれた。
各自テーブルに分かれ、ディナーが始まる。
BGMに沖縄民謡が流れて、ものすごくいい雰囲気。
大きな皿に乗っかってるピンク色や、青色の魚の活け作りさえなければね!
イケメン夫はおいしいよ~と気にもせずバクバク食べている。
私は刺身を避けて、豚肉料理に舌鼓を打つ。
テビチがプルプルでおいしい!
お肌ツルツルになるかな?
これ以上は無理かな…美肌の湯でピカピカしすぎて、お化粧しなくていいのは楽だけど。
二人で和気あいあいと、久しぶりにゆったりと食事を楽しんだ。
いつもだとばあちゃんやお父さんお母さんと一緒で、離れて家を建てた意味がない…
他のテーブルの観光客の人達も、和気あいあいとしている、あの喧嘩したカップルを除いて。
食事も終わり、配られた飲み物を飲みながら南十字星が見える時間を待つ。
確か夜9時頃だったかな…
『えー、そろそろ南十字星が見えると思います。水平線の少し上、かなり小さいです。頑張って探して見てください』
マイクで船長さんが教えてくれたけど…星が多すぎて逆に分からない!
天然プラネタリウム…
---あちらの方角です、小さな十字があります。あちらをよく見ていてください---
ナビさんがひそひそと教えてくれた方角を見ると、あった!
「南十字星見つけた! あれだよ、あれ」
べしべし背中を叩いてイケメン夫にも教える。
「うーん、どれだい?」
わからないらしいので屈んでもらい、後ろからひっついて見える方角に首をガキっと固定。
「このまま真っすぐ、ほら、あそこに!」
端から見るとものすごい格好なのだが、テンション上がりまくりで気にしなかった。
「うぁぁ、うん、見えた。見えたから…ハナレテクダサイ」
妙にもじもじするなぁ?と思ってふと体勢を見たら
「ひゃあっ、ごめん!」
そう、後ろから超密着していた。
これは恥ずかしすぎる!バカップルだよ、もぅ。
---それでは本日最後のサプライズです、海面をよく見ていてください---
突然ナビさんから海面を見るように言われた。
「ピューイ、ピューイ」
南十字星とイルカ達がジャンプするという、信じられないコラボ!
さらに…
「ブォォー」
なんでかクジラまできた!
南十字星にイルカの水族館のショーみたいなジャンプに、クジラの潮吹き…すごい幻想的。
ナビさんのパシャパシャ撮影する音だけ聞こえる。
でもまわりの人達も、信じられない光景に唖然としてるから気がつかない。
「すごい、すごいね! こんなの初めて。来て良かったね」
私がはしゃいで満面の笑みで見つめると、クスッと笑って私の口に軽く口づけをした。
「うん、すごく綺麗だ。杏子しゃん…」
え?あれ?なに、この桃色な雰囲気。そんな雰囲気無かったよね?
戸惑う暇もなく、熱烈なキスの嵐。
人、人がいるから!
いやああああ、イルカから私たちのウオッチングになってるー!
結局、変な桃色スイッチが入ったイケメン夫に、桟橋に戻るまでキスされ続けたのだった。
後から、考えたら食事のメニューに食前酒があったらしい…
コテージに戻った途端、スヤスヤ寝てしまったのでその時にようやく彼が酔っぱらっていたことに気付いた。
なんてこったい!
こうして激動の新婚旅行一日目は沖縄の離島で終わった。
てびち:沖縄の豚肉料理、とろとろに煮込んでいる。
南十字星:日本では限られた場所でしか見れない。




