~番外編~盛大に結婚式をあげましょう。
~盛大に結婚式を挙げましょう。~
町で熱烈なキスをして、一躍有名夫婦になってしまったらしい。
当然、あの後そそくさと逃げたのは言うまでもない。
数日経って、そんなこともすっかり忘れて二人で余った農作物の出荷に行ったら…待ってました!とばかりにおばちゃんたちに囲まれた。
あれやこれや聞かれ非常に困った。(言えないことが多すぎるから)
しかも、まだ結婚式をあげていないと知った途端、町のおばちゃん連中がものすごい勢いでイケメン夫に迫ってきた。
『あんた、式はあげないのかい? 杏子ちゃんにドレスば着せてやらんと可哀想じゃ』とか『結婚式は女の子の夢じゃけん、どれだけよか式ができるかで男を上げんと!』とか『婿養子になるなんて大したもんじゃ、式は町をあげて盛大にやったほうがええ』とか言いたい放題である。
さらにおばちゃんが走って取りに帰ったのか、手には結婚情報誌「マロン」が。
『ほら、これを貸してあげるから、結婚式について勉強しんさい!』
イケメン夫に手渡す。彼はよくわかってないみたいだけど、とりあえず悪いことではないと判断したのか笑顔で受け取った。おばちゃん達の世代は、ろくに式も挙げれない人が多いからか…やたらと自分たちの理想の結婚式をさせたがる。友人の結婚式も凄まじかった…ああいう式は絶対に挙げたくない。
おばちゃんたちの囲みから逃れて、その後で車がどうなったか聞きにいくことに。
『ああ、ちょうどよかった。お電話しようと思ってたんです。車の登録も終わり名義変更も済んでます、はい、これがカギです。大事に乗ってくださいね。修理の時も遠慮なくどうぞ。』
修理工場のおじさんがにこにこ顔で車を出してきてくれた。
これで、体を小さくして乗らなくて済むね。ぱっと見はダサいけど、実用重視で選んだから文句もなし。新しい車で帰りたいけど…乗ってきた軽トラをどうしよう。
おじさんにそう話したらちょうどうちの実家に用事があるらしく、おじさん夫婦が実家に届けてくれるらしい、よかったー。
「じゃあ、早速試運転と行こう!」
意気揚々と私が乗り込み、彼は助手席に座る。
「へぇ、この車は天井が高いから楽だね! あの小さな車は辛かったよ…」
確かに狭かったよね。これからはこの車で出荷したり町に出かけるから、と話すととても嬉しそうだった。作物を出荷して、新居に戻り買った車を攻撃しないよう阿吽像に認識させる。
リビングでくつろぎながら、二人で結婚情報誌マロンをパラパラと見る。
うーん、やっぱり過去に戻ってるからちょっと古い…ドレスのデザインとかも違うなぁ。
できたら式場とかじゃなくて、外でのオープンスタイルがいいんだけどね。ご祝儀とかお返しが面倒だもんなー。
そもそも町に結婚式場なんてないし、親戚呼んでも…みんなおばあちゃんが苦手だから来てくれるか分からない。どうしたらいいかなぁと悶々と考えていたら、隣のイケメン夫はすべてのページを食い入るように見ていた。
花嫁より真剣に見るって…まさか、ドレスが着たいなんて言わないよね、似合いそうだけど!
「素晴らしい! なんて素晴らしいんだ、日本の結婚式…」
うっとりと猛烈に感動してる、どれどれ…まさかの白無垢?!
「この着物、杏子さんに着てほしい! ついでに僕も真っ白な着物が着たい。」
ベシベシと白無垢特集のページを叩く。
たしかこの頃って、仲人を立てない人が増えたり神前式は止めて、チャペルで簡単な式を挙げたり…結婚スタイルが変わる時期だったような?だからわざわざ白無垢の特集を組んだんだろうか。
うーん、着物よりウェディングドレスが着たいんだけど…
「着物って着るのも動くのも大変だから、私はそっちのドレスが着たい。」
その次のウェディングドレス特集を指差す。きっとドレスなんて見慣れてるんだろう、ドレスには全く興味が無いらしい。
「…わかった、こうなったら杏子さんが着たいドレスを全部買うから、この白無垢も着てほしい!」
…なんでそうなった。想像の斜め上を行くイケメン夫に苦笑しながらも…
「あのね…ドレスなんて買ってもらっても困るだけなの。着ていく場所なんてまずないし、レンタルで十分。ちゃんと写真やビデオに残すんだし…、まずはこの本の『結婚マニュアル』をよく読んでね。」
異世界人の夫の世界は女性が極端に少ない世界、「結婚」と言ってもただ同じ家に住むだけだったらしい。女性の気が変われば、翌日に「離婚」なんてことも多々あったそうな…なんて不憫な。
日本に来ていろいろなことを経験して、少しずつ感情のコントロールもできてきたかな。
泣くことも少なくなったし、何より笑顔が増えた。
実はめそめそ泣く顔も可愛いとか密かに思ってるなんて…だいぶ絆されたかもしれない。
なんにせよ、一生懸命こんな田舎に馴染もうと頑張ってくれてるのは、素直に嬉しい。
「じゃあ、町の女性全員にドレスを配って…いっそ空から花を降らすとか…ピーちゃんに頼めばできるな…」
ちょっと待った!せっかく褒めようとしてたら、とんでもない計画が聞こえてきた。
「ドレスを全員に配るの?!」
あまり目立つことはしないで欲しい…
「そうだよ、昔は結婚式すら挙げられなかったって聞いたよ? そんなのかわいそうじゃないか。ドレスといっても年齢やな体型に関係なく着れるタイプだからね。僕たちの結婚式でもあるけど、式を挙げれなかった人たちにも参加してもらおうと思ってね。それに日本の男性はシャイなんだろう? 結婚式を挙げれなかったのを悔やんでいても、言わないとおばさんたちから聞いた。」
だから外国から来た僕が一肌脱ごうと思うんだ、となんだか悪い笑顔。
「僕が全部手配するからね、杏子さんはどっかりと待っていてくれたまえ!」
こうしちゃいられない、と彼は結婚情報誌マロンを片手にどこかに行ってしまった。
やきもきすること数日。
私に内緒でこそこそと結婚式の準備を進めているし、夜はピーちゃんとも打ち合わせをしている。
仲間はずれにされてすっかりふてくされてる私、指輪もできたとか連絡ないし…。
ぶすっとしていたので、さすがにおばあちゃんが心配して来てくれた。
「あんたの婿さんがいろいろ手配をしとるらしい。町でもうわさになっとるが…昔、結婚式を挙げれなかった人の数を確認しとる。当日、なにかやるつもりじゃな…楽しみにしとかんね。整備工場の広いヤードを会場に貸してくれるけん。」
車を取りに行った日、おじさんたちがうちの工場のヤードを貸してあげるからみんなで祝おうじゃないか!とおばあちゃんと両親に打診したらしい。
それを聞いたイケメン夫がやたら張り切って、奔走してるとも。
…いや、普通の旦那さんならここまで不安じゃないんだけど、異世界人だから何をしでかすか心配の方が大きいんだけど。
「はー、すごく張り切ってるから何も言えないんだー。あんなに楽しそうにしてるし…」
というか、花嫁の意見は?二人で話し合ってするものだと思うんだけどなー。
「…杏子、女は度胸じゃけん。どんと構えとかんね、こんなよか婿さんは日本中探してもおらん。」
うん、日本どころか世界中探してもいないと思う。ぽんぽんと私の肩を軽く叩いておばあちゃんは戻って行った。
そして、また数日経過したあるの朝。
早朝からイケメン夫に叩き起こされ、すぐに車で整備工場に連れて行ってくれと頼まれ、眠い目をこすりながら車を走らせた。
付いた途端に、知らない女性たちに囲まれ…あっという間に白無垢花嫁衣装に変身させられた。
そうして着付けとメイクが済んだら、いつのまにか来ていたおばあちゃんと両親、近所の神社の神主さん。さらに羽織袴を優雅に着こなしたイケメン夫が待っていた。
「もしかして、いまから式?」
目が覚めたよ!
「そう、まずは神前式の挙式と指輪交換、そしてその後はガーデンパーティ式の披露宴だよ。ものすごく趣向を凝らしたからね!」
ふふんと胸を張るけど、目の下に大きなクマが…どんだけ頑張ったの。
そして神前式の簡素な式を挙げ、記念写真を撮った。
別に式を挙げるつもりは無かったけど、やっぱり花嫁姿を家族に見せれてよかった。本当なら嫁のもらい手もなかったしがないOLだったんだし。
「次はドレスだよ、準備を頼む。」
手をパンパンと鳴らすと、さっきの女性たちがまたスッと現れ私を問答無用で連れ去った。
私が色直しで連れ去られたあと、彼はテキパキと指示を出していたらしく整備工場におばちゃんたちが集まってきた。(がやがやしてきたので雰囲気で分かった、やけに声が明るいような?)
「杏子さん、準備はいいかい?」
白いタキシードに着替えた彼が私を迎えに来た。何という早着替え、それにこの女性たちはいったい何者なのか非常に気になるけど。
「うん、準備はできたけど…」
わさわさしたドレスに足を取られそうになりながら、彼に近づく。
「じゃ、行こうか。みんな待ってるよ。」
私の手を取り、会場に向かう。え、ここって整備工場のヤードだったよね?
なんで芝生が生えてるの?イングリッシュガーデンみたいになってるし。
それにお祝いに来てくれた町のおばさんたちが、色とりどりのドレスを着てる。
おじさんたちは苦しそうにタキシードを着ている、…というか着られているって感じだね。
「本日は僕たちの結婚式に参列いただき、誠にありがとうございます。僕たちの結婚式と並行して、結婚式を挙げれらなかったご夫妻方のためにドレスとタキシードを用意させていただきました。この結婚式はお互いを労いあう意味も兼ねてます。…なので、ご祝儀などは必要ありません。祖国を捨てた僕には、妻の国が祖国となります。これからの二人を見守っていってほしいと…思いまずっ」
後半はやや泣きながらのスピーチになってしまったけど、みんなも感極まって泣いている。
「それでは…乾杯!」
そう言った瞬間空から色とりどりな花が降ってきた。
空を見たらピーちゃんが袋を振り回していた。こそこそ話していたのはこれか…
空から花が途切れることなく降り続ける、とても幻想的な結婚披露宴になった。
「杏子さん、何日も一人にしてゴメン。町のみんなに協力してもらってたんだ、でも綺麗だろう? 魔法の国で見た花の花火を再現したかったんだ。ドレスやタキシードも、着てもらう説得に時間がかかってね…特に男性陣が。」
ちらりとおじさんたちを見ると、みんな罰が悪そうな顔をしている。
「ここまで手配するのに時間がかかったけど…喜んでもらえたかな…?」
恐る恐る私に聞くこの人は、もうっ!
「すごく寂しかったんだからね! でも、素直に嬉しい。みんなの笑顔も嬉しい。仲良くやっていこうね!」
思わず見つめ合う私たち。まわりから冷やかす声が聞こえる。
『キスしろー!』
それを聞いてにやりと笑い…え、しちゃうの?!
ググっと私に顔を寄せたその時、『『ちょっと待ったー!』』
ん?と声のした方を見たら…元彼アキオ、たけちゃん、あと…だれか知らない3人。
『俺は認めない! お前なんかに杏子ちゃんは渡さない。』『俺もだ! 一回諦めたけどやっぱり好きやけん。』『俺も』『俺も』『…僕も』
だから後半の三人は誰?
「しつこい害虫たちですね、僕たちはすでに夫婦です。いい加減諦めたらどうですか…きちんと告白すらできない害虫に、何も言う権利はありません。」
うぐっと声を詰まらせる。うわー嫌いな人にはあんなに冷たいんだ…でも思わぬ一面を見てポッとなる。しかし、それを見て気に食わないお邪魔虫ABC…etc。
いきなり何を思ったのか上着を脱ぎだした。
『くっそう、害虫扱いしやがって! こうなったら勝負だ、ぶん殴ってやる。』
誰だかわかんない(多分クラスメート?)奴も同じように上半身裸になった。
なんだろう、貧相な体をさらけ出して…何がしたいのか。おじさんやおばさんたちもクスクス笑ってるし。
「…そんな汚い体を妻の前で晒さないでください。視覚の暴力です」
まったく…とブツブツ言いながら、タキシードを脱いでいく。
優男に見られがちだけど、脱げば格闘家も真っ青な引き締まった筋肉美。まわりから感嘆の声が上がる。ぶん殴ってやると言った奴も真っ青。まさかこんな体をしているとは予想外だったんだろう。
「杏子さん、害虫を退治しますから、ちょっと待っててくださいね。」
チュッと軽くキスを交わして、貧相な裸のお邪魔虫のところへ歩み寄った。
「で、誰から来ますか? 僕は全員同時でも構いませんよ?」
それがカチンと来たのか、お邪魔虫たちは『くそー、喰らえ』とか『このやろう!』とか叫びながら殴りかかってきた。それをひらりと交わし、それぞれの首にスッと手を当てる。
途端にガクッと意識を失い、二人同時に倒れた。
それを見た残りのお邪魔虫たちは、ガクガク怯えて動きが止まった。そこにふいに近寄り、ぼそぼそと何かを囁いている。途端に血の気を無くし、服を着るのも忘れて一目散に逃げ去った。
本当に何しに来たの?
「…やれやれ、これで一安心かな。みなさん、お見苦しいところをお見せしました。でもこれで僕の妻にちょっかいを出せばどうなるかわかりましたよね?」
にーっこりと黒い笑顔で町の人を見る、みんなは一斉にガクガクと首を縦に振りまくっている。
「よかった。これで名実ともに夫婦だね、杏子さん!」
むぎゅーっと抱きつかれたけど、裸だから。みんなに冷やかされながらも、披露宴兼宴会が始まりその日は陽が更けるまで賑やかだった。
もちろん、ずっと花は降り続けていた。ピーちゃんも空の上から頑張ってるなぁ…ふと気が付くと、よほど疲れたのか私に寄りかかり、すやすや眠るイケメン夫。張り切りすぎだよ、ここまでするなんて思っても見なかった。
町の人からも、ドレスとタキシードの件でものすごく感謝され、くれぐれも夫婦仲良く暮らすようにねとお願いされてしまった。
こうして前代未聞の、町の人もいっしょにね!の大披露宴が終わったのだった。
※ようやく指輪も届き、式も挙げました。ついでに町の人のドレスも作りました。イザべラに貢ぐための布がかなり大量にあったので、有効利用。杏子のドレスはきちんと購入して、使用後は異空間倉庫に保管予定。もちろん白無垢も。実はまた着たいとか思っている。
※お邪魔虫ABC、本当にお邪魔なだけの存在。諦めが悪いやつら。杏子に名前すら覚えられてない(笑)なんとなくクラスの人?くらい。
※ピーちゃん、空からひたすら花の入った袋を下に降り注ぐ役目でした。でも杏子のことは好きなので気にしていない。もちろん認識されないように姿は消してます。
※イケメン、女性を喜ばせようとするプレゼン能力は高い。けど今回はやや暴走…。二人で話し合おうね…




