異世界チケット使用3枚目。その2
やっと、町に着きます。
ここで驚愕の事実発覚。
魔法の使用は計画的に。
最初から読み返して、脱字を発見して、きのうこっそり訂正しました。
いやお恥ずかしい。
もし、誤字・脱字ありましたらご連絡ください。
さてさて、自己紹介やお互いの世界の話などをしてたら結構時間が経っていた。
少し日が落ちてきた。異世界でも夕暮れは同じなんだなあ。
ここは太陽も一つで、自然環境自体はあまり変わらないのかな?
まあ、空気が硫酸ですから絶対に息しないでとかいう世界だと、着いた途端死亡だし。
普通が一番なのかもね。でも、やっぱり魔法が使えるとこに来れたんだし自分の長年の願いも叶いそうなこの世界を堪能したい!
そろそろ、異世界観光といきたい。
なにしろ最初があまりに衝撃的な世界だったから…闘牛女って…。
でも発情期じゃなければ、きっと楽しめたんだろうなぁ…ナビさんも普段は穏やかっていってたし。
ドラゴンとかもじっくり見たかった。
そう思うと少し残念ではある。
「そろそろ、町に行ってみませんか? ンチャックさん。」
日も暮れてきて少し肌寒くなってきた。このままだと野宿コース?それは避けたい。
知りあって半日も経過してない男性と野宿する趣味はない。
「ああ、そうだね、今日はもうどこかで宿を取った方がいいようだ。しかし、本当に何もないな・・町までどれくらい距離があるやら…ナビさん、ここから最寄りの街はどれくらいの距離か教えてほしいのだが?」
----了解しました。今、この世界の地図の細かい把握を作動させています。…町がありました。ここから約10キロ南に下ったところに大きな町があります。現在、魔法のフェスティバルのようなものが催されており、かなりの人が集まっています。宿をとるのであれば急いだ方がいいと思われます。----
「了解。じゃあ、空を飛んでいけば早く着くね。僕のペットを呼ぼう、出ておいでピーちゃん!」
イケメンさんがピーちゃん!と呼ぶと、空が急に陰った。
恐る恐る上を見たら、八枚の羽が生えた双頭の馬?が優雅に舞い降りてきた。
真っ白な体躯はとてもしなやかで美しく、サラブレッドも蹄鉄を外して逃げそうなくらい神々しい。……これがピーちゃんですか。名づけのセンスが…女性の好みのそうだけどいろいろ残念なイケメンだなこの人は。
「これが僕のペットのピーちゃんだ。ちょっと痩せすぎてかわいくないが・・これ以上太ると空を飛べないからね。これだと町まで10キロあっても数分で町に着くよ。存在を認識できないように意識阻害のバリアを自動的にできるから重宝するんだよ、この種族は。昔、乱獲にあったせいで自己防御能力が独自に進化したんだ。」
イケメンさんは誇らしげにピーちゃんの説明をするが、痩せすぎてかわいくないといった時のピーちゃんの表情は「だめだ、こいつ…」と憐憫の表情だった。
ペットにも主人の好みは馬鹿にされてますよー。
「さ、遠慮せずに乗りたまえ。あぁ、背が足りないか…よっ、と」
イケメンさんは私をひょいと肩に荷物抱きしていっしょにピーちゃんの背中に乗った。
意外に逞しい!びっくりした。
「ピーちゃん、町の方角はここから南にだいだい10キロだそうだ。いきなり町に飛来したら騒動になるから少し手前で下ろしてくれ。頼んだよ。じゃあ、出発!」
私とイケメンさんを乗せたピーちゃんは、軽く嘶きふわっと空に舞った。
南に方向を定め、ふんふんと臭いを嗅いで……ミサイルのごとく飛び立った。まさにロケットスタート!
は、速すぎる。息!息ができないから!
数分後、無事に町がよく見えるあたりでピーちゃんに下してもらった。や、やっと呼吸ができる、もう若くない体には堪える移動方法だわ。
「よし、町までは歩こうか。宿が取れるといいんだが…」
「はい。楽しみですね、どんなお祭りなんだろ?」
結構な人が町に向かっているみたい。もちろん、老若男女もれなくチャイナ服だけどね!
色とりどりで目がチカチカする。国からの色の指定は原色のみなのか、非常に目に厳しい。
でも、なんか男女関係なく髪の毛の薄い人が多いような気がする。普通の人間に見えるけど、薄毛の種族なのかな?
町にはなんの問題もなく入れた。
とても素敵なオリエンタルな雰囲気の町だった。うん、いい町。
文化はそれなりに発展してそう。屋台もたくさん出てるし、いろいろ見てみたい!
「んー、この人の多さでは先に宿を確保した方がよさそうだね。こんなに人が集まるとは、よほど人気のフェスティバルなんだろう。」
大きなメインストリートを歩きながら二人で宿を探す。
しかし、やはり祭りのせいでどこも満員だった。
二人で途方にくれていると、さっき満員だからと断られた宿の従業員が声をかけてきた。
「さきほどキャンセルがでたので、ツインでよければひと部屋空きが出ましたが?どうされますか?」
「「お願いします!」」うわ、ハモった。とにかくこれで宿の確保ができた。
この際同室でも構わない。彼の女性の好みからして私が襲われることはないと思う。
手続きはイケメンさんに任せて、さっそく二人でフェスティバル広場に向かう。屋台も出ていていろいろ冷やかしながら歩いていると、それまで無言だったナビさんが突然衝撃的な事実を語った。
----大変申し訳ないのですが、この世界は見学だけにしておいた方がよいです。さきほどの移動は急いでましたので移動を最優先させてしまい、詳しく調べる時間がありませんでした。よく調べた結果、魔法は想像力があれば不可能はない世界であるのは間違いありません。ただし、便利な魔法を行使すればするほど、代価を自身の髪の毛で払わねばいけない世界のようです。ここの人々の髪の毛が薄い人が多いのもそれが原因です。行使した魔法のレベルで抜ける差はあるようです。治安がいいというよりは犯罪を起こすことができない魔法が統治者によりかけられてます。この世界では魔法を使うと相応のリスクがあるとご理解ください。----
え、なにそれ?魔法を使うと毛が抜けるって、なんてハイリスク・ハイリターン!それでみんな髪の毛薄かったんだ…
魔法を使うときの詠唱とか覚えれないし、面倒くさいから簡単に魔法が使える異世界に行きたかったのに、現実は厳しいなぁ。
「さすがに魔法を使って、薄毛にはなりたくないです。おとなしくフェスティバルだけでも楽しみましょう…」
ものすごーくテンションが下がってしまった。とぼとぼ歩く。
「僕も長年生きてるけど、こんな世界の話は初めてだよ。杏子さんの選ぶ世界も僕と同じでとんでもないね。」
にやにやと闘牛女世界の意趣返しをしてくる。くそう、言い返せない。
『それでは、ただいまよりー、統治者さま主催による<生活に便利な魔法コンテスト>を開催します。エントリーされた方は舞台に上がってください。』
司会役の髪の毛が比較的ふさふさなおじさんが叫んでいる。
広場に設置されたそれほど大きくない舞台にパラパラとエントリーした人が上がっている。
みんな、眩しいほど薄い。薄いということは、魔法をたくさん使ったということだよね。
正直、エントリーした人たちの魔法は私からすると微妙だった。町の人たちの生活がほんの少しだけ便利になる新規の魔法や魔法生活用品の発表だった。
例えば、洗濯物を干すとき、届かない分だけ少~し丈が伸びるサンダル(男女兼用)
あるいは、牧場に放した家畜が少~しだけ早く集まる笛。
新しい魔法は、声を少~し遠くまで響かせる拡声魔法。
うん、なんか別に必要ない気がする。すごく地味。
でも、それを見ている人たちからは「おお~」「さすがだ」「すばらしい」など絶賛されている。
魔法に対する価値観が違うみたい。私が本やラノベなどで知る魔法とは全く違う。生活に役立てば評価されるっていってたのは本当なんだ…。後から出た人も似たような魔法や魔法生活用品だった。
ひたすら地味で堅実なものだった。
『それでは、コンテストの最後に我が統治者さまの魔法をご覧ください!!』司会者が大声を張り上げた。
急に広場がざわつき始めた。みんなキラキラした表情で上を見上げている。
何か始まるのかな?
ヒュッヒュッ、ドドーン!!!
空に何か打ちあがった。花火?すっかり暗くなった空を明るくしながら、色とりどりの花とお菓子が降ってきた。
これはすごい!こんな魔法を使える人がいたんだ。すごくきれい…うっとりと空を眺めていた。
その横で、イケメンさんが落ちてきたお菓子を拾い集めている。
周りの人も、花とお菓子を拾ってる。え?これって拾わないとダメなの。
じゃあ、見たことない花だけでも拾うとしますか。お菓子は食べられるか分からないし。
あれだけあった花とお菓子は町の人にすべて拾われた。
拾い終わる頃には、明るさが消え元通り暗くなった。
『本日は生活に便利な魔法コンテストに参加いただきありがとうございました。明日までコンテストは続きますので、エントリーしたい方は舞台横の本部までお越しください。今回は参加人数が少ないのでまだまだ受付しております。奮って参加されてください!』
すっかり夜になってしまった。
最後の魔法、きれいだったなぁ。私も使ってみたいけど、抜け毛は嫌だ。ものすごくジレンマを感じる。
「今日はもう終わりみたいですね、おなか空いたので宿に戻りましょう?」
「もぐっ、ああ、そうだね。戻って夕食を取ろうか。ここのお菓子、おいしいよ。初めて食べるけど、口にまとわりついて離れないんだ。一瞬息が止まりかけたよ。コツは掴んだからもう大丈夫だけどね。」
はっはっは、と口をモグモグさせながら恐ろしいことを平気で言う。
優男な外見とは裏腹に、野生的なとこもあるんだなと、またひとつイケメンさんについて学んだ。
よし、旅行中の毒味は任せよう。
「ンチャックさん、宿に戻ったら少しだけ魔法を試してみたいです。要は生活に便利じゃない魔法なら、毛は抜けないんじゃないかなと思うんですよ!せっかく魔法が使える世界に来たのにもったいなくて、諦めきれないです。」
口をモグモグさせるイケメンさんと宿に戻ってきた。
宿の食事は、花カレーだった。あとはパンに花のサラダ。
花を食べるのにはびっくりしたけど、シャキシャキして食感はレタスだった。普通においしかった。
花は、野菜扱いで逆に野菜が花のような扱いだった。さっき空に撒いた花は、町の人には食べ物だったから必死に回収してたのか、なるほど納得。
やっぱり価値観が謎だなぁ。さすが異世界。
泊まる部屋に入るとベッドが二つあるだけのシンプルな部屋だった。どこのビジネスホテルだよ…
お風呂とかもなさそうだし、ほんとに寝るだけの宿なのね。二人で別々のベッドに腰掛ける。イケメンさんはまだお菓子をもぐもぐしてる。よく食べる人だ。
「さて、どんな魔法にしようかなー。あ、今日お風呂入ってなかったから、臭いとか気になる」
それなら、臭い消しスプレーとか出しちゃう?小さめのやつをイメージして…臭いは石鹸がいいかな。
うーん、と頭の中で小さな消臭スプレーをイメージして…手のひらに乗るのを想像。
一瞬チカッと光り、ふわっと自分の手の中にいつも使う携帯消臭スプレーが出てきた。シュッと自分にふきかける、いい香り~。
「やった! できた! 魔法、できましたよ、ンチャックさん!」
ひゃっほーとベッドの上をごろごろ転がる。そう、ご飯を食べて満腹になりすっかり忘れていたが、便利な魔法を使うと…
「あー、杏子さん。後ろ頭にハゲができているよ。小さいからそこまで目立たないけど、毛が抜けてる。便利な魔法を使ってどうするんだい。ドジだね、キミは。」
「え? え?」
慌てて後頭部を触ると…一部毛がつるんと抜けていた。
消臭スプレーひとつ出すだけで、これですか…調子に乗ってほいほい魔法を使えば、恐ろしいことに。
「ナビさん、質問です。毛が抜けきってしまったらもう魔法は使えないんですか?」
----よくわかりませんが、ここの常識からいけばそうなります。魔法が使えなくても生活できますし、毛が抜け切った人に対してある意味<勇者>のような扱いをされます。それだけ町の発展に貢献したということですから。ここの統治者の方も髪の毛は残りわずかと聞いております。あれだけの規模の魔法を定期的に行っているから当然ですが、おそらくご自身最後のフェスティバルで後継者を探しているのではないのでしょうか。明日の優勝者が次の後継者になるはずです。町の人には伏せられていますが----
「はー、なんだか切ない話ね。魔法に頼らずに生活すればいいのに。なかなかうまくいかない世界なのね、ンチャックさん、明日はどうしますか? 祭りは夜だし、もう別の世界に行きますか? 今度はンチャックさんの好きな世界でいいですよ。ただし女性の体重は150キロ以下にしてください、また闘牛女には囲まれたくないですから」
お菓子をモグモグさせながら、ムッと眉をひそめた彼はこう言った。
「明日の最後の祭を見てから移動しよう。こういった祭に遭遇するのはラッキーなことだからね。それに時間や日にちを気にすることはないよ。僕たちがチケットを使用してる間、お互いの世界では時間はゆっくりとしか進まない。チケット全部使っても1~2日もかからない。だから楽しまないと損だよ?」
チケットは時間すら自在に扱うようでした。さすが万能ナビシステム。
チケット全部使うまで、異世界旅行が楽しめると聞き嬉しくなり、髪の毛が抜けたこともすっかり忘れ、いつのまにか寝てしまっていた。
「…それで明日はピーちゃんに乗って、夜までこの世界を散策しないかい?…あれ、もう寝たのかい。まったく地球じゃ妙齢な年齢のはずなのに、はしゃぎすぎたんだね。イザベラの我が儘にはウンザリさせられたけど、彼女はどうにも憎めないし放っておけないなぁ。やれやれ。」
私が寝た後、寒くないようにフワフワの毛布を魔法で出してかけてくれたのだと、翌朝、彼の後頭部に10円ハゲを見つけて思わず感激したのは内緒だ。
二人はすでに兄・妹な雰囲気です。すっかり意気投合してます。
もう一日滞在して、次はイケメンさんの行きたい世界に行く予定です。
ちなみに、薄毛の方に悪意があるわけではありません。自分も薄いです(泣)
あくまで話の上です。ご了承ください。