異世界チケット使用9枚目。その3
10メートルも歩かない散策を終えて、滞在施設に戻って飲み物を入れる、コーヒーなんて久しぶりだわ。
「…外に出たら危険だよねー。歩いていたら毒の樹液とか降ってきそう、こういう予感って絶対当たる気がする。」
間違いなく、なにかトラブルが起きる。
「あれはおいしそうな果実だったのに食べれないなんて…なんてひどい世界なんだ!」
怒るところが違う!全く暢気なんだから…
「話を変えるけど、ンチャックさんの世界で子供が生まれないのはいつからなの?男性と女性の比率がおかしいのは知ってるけど…それまでは普通に子供を産んでたんじゃないの?」
「うーん、僕たちが最後の世代とは言ってたね、長老たちが。僕が造られたのは200~300年前だから、その時代の女性に何かあったんじゃないかな?」
ん?造られた?聞き捨てならないセリフが聞こえた。
「造られた?」
「そう。僕たちには親なんていないよ。杏子さんの世界でいうと…クローンとかその辺になるのかな?」
だから元の世界を捨てても誰も悲しむ家族なんていないよ、とも…
…なんか生い立ちがめちゃくちゃシリアスだったー!生い立ちはシリアスなのに、どうしてみんな残念な美形ばかりに…
「僕の生い立ちなんて気にしなくていいよ。僕の世界じゃ普通のことだし。…もしかして、僕に興味を持ってくれてる?」
キラキラな笑顔全開で私を見てくる。パタパタ振る尻尾も見える気がする…
「うん、すっごい興味出たよ!(恋愛要素はないけど)」
まさかそんな返事が来るとは思わなかったのか、真っ赤になりびしっと固まってしまった。
「あーぁ、また固まっちゃった。困った人だなぁ…もしもーし?」
イケメンさんの目の前で、手をヒラヒラさせるけど妙に幸せな顔をしてトリップ中。
----立花様、今までのやり取りから推察しますと、彼の恋愛習熟度は幼稚園から小学生並と思われます。少しずつ段階を踏んで行かないとこういう風に許容量を超えるようです。今まで強制的に特定の女性を崇拝させられていたという状態は、相当精神に負担がかかっています。それが偶然とはいえ、立花様と旅行していろんな世界を回るようになり、洗脳から外れ本来あるべき正常な精神を取り戻そうともがいています。彼が立花様に抱いている感情が、友情なのか愛情なのか機械の私には理解できませんが…どうか見捨てずにそばに付いていてあげてほしいと思います----
ナビさん、お母さんみたい…。そうだね、最初のイメージからは随分変わったよね。
大泣きしてたしヨダレと鼻水で美形が台無しだった。理想の恋人が欲しい!とか言う割に女性に全然慣れてなくていちいち反応が面白かった、ついついからかいたくなっちゃうし。
そういえば彼の巨体・巨乳の好みはどうなったんだろう?あまり言わなくなったから安心してたけど… 恋愛事情はぼちぼち教えてあげるとしても、好みってのはなかなか根深いものが…
とか、考えてたらイケメンさんがトリップから戻ってきた、お帰り!
「ふー、びっくりした。まだ僕には杏子さんの愛のアプローチは刺激的すぎたよ。これも修行と思って受けよう、こうなったらどんどん僕に愛の言葉をかけてくれないか!」
さあ!と両手を広げてどんと来いのポーズを取る彼。
トリップしてた間に、私のさっきのからかいのセリフが都合の言いように解釈されてる!
「だれが愛のアプローチしたのよ! ンチャックさんの世界の出産事情にちょっと興味があったの。私の世界も少子化で困ってるからなにかヒントにならないかと思って…」
えー、そうなの?とがっかり顔のイケメンさん。
「それよりも、もうひとつ確認したいことがあったんだ。さっき思い出したんだけどね、正直に話してくれる?」
そう、彼の恋人探しの一番の難点である巨体・巨乳が好みということ!
「いいよ、なんでも正直に答えるよ。どんなことを聞きたいんだい?」
どんと来いのまま答える、気に言ったんだね…その態勢。
「あのね、最初の検索条件の<超巨体・巨乳>っていう女性の好みなんだけど…まだ、そういう人が好きなの…?」
恐る恐る聞いてみる。これが改善されてなければ、ナビさんには悪いけど私はそばにいるのは辞退したいかも…
「……、うーん。どうだろう…この前イザべラを見ても嫌悪感はあっても好みだっていう意識はなかったよ。そうだ、それよりももっといいこと思いついたよ! なんでこのことに気付かなかったんだ僕は…。 杏子さん、お願いだ。あと、100キロくらい太ってくれないかい? そうすればさらに僕の理想の女性になる!もちろん、今の杏子さんも素敵だけど…」
それはそれはいい笑顔で私にそう言ってのけた。
※イケメン、いいことを思いついた!100キロ増量を懇願。
※杏子、絶句。
※ナビさんが、母性に目覚めました(笑)




