異世界チケット使用8枚目。その6
突然居なくなった私。
それでも買った焼き鳥はしっかり食べながら、イケメンさんが必死に探しているころ私は…
私はズキズキと痛む頭を押さえて、目の前で土下座しているチャラ男達をぐりぐり踏ん付けていた。
私を誘拐した男たちはチャラ男だった、もっとも嫌いな人種!
「…で、なんで私が誘拐されなきゃいけないんですか?」
ええい、ぐりぐり。
ビクゥッと体を強張らせるチャラ男達。そりゃそうだ、目が覚めた私が目一杯暴れたからね。
美肌の湯で若返り、小人族の世界で獣を捌きまくり…なんだかんだで知らないうちに体がかなり強くなっていたらしく、見事に全員吹っ飛んだ。で、現在彼らが自主的に土下座中なのを踏んでるところ。
ズキズキする頭をさすりながら、どうして誘拐したか聞いているのに口を閉ざして話さない。
「だから、貧乏な私を誘拐したってお金なんて持ってないし、なんの得にもならないでしょ? 返してください、連れが私を心配してますから。」
まだ、この街に来たばかりで地理も良く分からないのに…そもそもここ、どこなのよ!
金持ちっぽい建物ではあるけど。部屋の中もチャラくてすごく居心地が悪い、部屋にミラーボールがあるし。
『……』
ふるふると踏まれたまま首を横に振るり、誘拐犯達はずっとだんまりである。
ナビさんが私の異常を察知して、何かしら対策を取ってくれてるかなぁ?
どちらにしろ時間を稼がないと…。それに誘拐犯達は、しきりに扉を気にしている。こいつら下っ端ってことかな?で、ボスが来るのを待ってるとか?…とか考えていたら
「ちょりぃーす☆ 僕ちんの花嫁候補は見つかったかーい?」
頭を盛り過ぎて、壁にぶつけそうなすんごいチャラ男がどかどかと入ってきた。
「どれどれー? ふーん、髪は長さもいいねー☆、顔は…地味だねーでも化粧で盛れば問題なっしんぐぅー☆ おまえたち、よくやったじゃーん☆。…で、なんで土下座してんのー?」
チャラボス(仮)は、部下たちが私に踏まれてるのをみて不思議そうに見てる。
「あはー☆、もしかしてー、そういうプレイ中だったりぃー? 僕ちんも混ぜてー☆」
ゴロンと床に転がるチャラボス(仮)、うわ、踏みたくない。足が汚れそう…思わず踏んでいた足を外したら、急に起き上ったチャラボス(仮)に腕を掴まれた。
「ふふー、捕まえたー、僕の子猫ちゃん☆。 もちろん花嫁になってくれるよねー?」
「「は、花嫁~!?」」
あれ?声が被った。というかこの声は…
「ンチャックさん!?」
いつのまにか来ていたイケメンさんにビックリ。
「その汚らしい手を離したまえ! 杏子さんは僕の花嫁だ!」
イケメンさんがチャラボス(仮)の手を振り払い、持っていた特大焼鳥を口に突っ込んだ。後半部分、さらっとすごいこと言ったよね?!
「もががっ?!☆」
さらにイケメンさんの後ろから、行方不明の恋人たちと警官らしき作務衣を着た人が入ってきて大捕物が始まった。 ひ弱なチャラ男たちはあっさりやられ、捕まった。
…あ、髪の毛がずるっと落ちた!全員、カツラだったのね、盛り方が変だと思ったら。
チャラボス(仮)に無理やりチャラ男にされていたようで…部下のチャラ男達は、チャラボス(仮)と一緒に縛られどこかに連れていかれた。そして恋人を探している彼らも恋人たちを探しにそれぞれ散って行き、部屋には二人きりになった。
「(花嫁発言はスル―しよう)…助けに来てくれてありがとう、でも私の居場所よくわかったね。ピーちゃんかナビさんに聞いたの?」
もう少し時間がかかるかな?と思っていたのに意外に早くて驚いた。すっかりトラブル慣れしてきてる自分が怖い。
「いや、僕が杏子さんの匂いをたどったんだ! 愛の力だよ、すごいだろう?」
褒めて褒めて、とキラキラした顔を向けるイケメンさん。え~、手に焼鳥をたくさん持っていてその台詞?それはあまりにも信憑性がないけど… じとーっと見つめるとしぶしぶ本当のことを話しだした。
「…というのは冗談で、僕がいなくなった杏子さんを探していたら、杏子さんを抱えて逃げる派手な男達をみたって、行方不明の恋人を探していた一人に言われてね…もぐもぐ。」
抱えていたのを食べ始めたよ、おい。
「で、ピーちゃんとナビさんに居場所の確認したら、ここだったんだ。以前から妙な噂があったらしいけど、街の有力者の息子だから迂闊に手が出せなかった。そんなときに<旅行者>の杏子さんに誘拐したから…これをチャンスにして、一気に乗り込もうってことになったんだ。この家、広いし部屋はやたら多いし…助けに来るのが遅れてごめんね? 怪我はなかったかい?…もぐもぐ…」
あー、なんだろう。きっとここは感動のシーンだと思うんだけど、そのもぐもぐしてる焼き鳥のせいでせっかくの感動も70%カットだよ…助けに来てくれたのは嬉しいけど、私の存在って焼き鳥以下なんじゃない?むかつくなあ~、そういえば他の人達どうなったんだろう?
誘拐されて監禁、結婚の強要なんてきっと傷ついてるに違いない、私も探すの手伝おうっと。
「杏子さん、どこに行くんだい?」
「誘拐された人たちを探すの、これだけ広いと探す人はたくさんいた方がいいし。」
部屋を出ながらイケメンさんに答える。
「そうだね、じゃ一緒に探そう。僕はもう杏子さんから絶対に目を離さないから!」
私の手を取り、真剣にそう言うイケメンさん。
「どうだかー、またおいしそうな食べ物見つけたら、私なんてほったらかして行く癖に。」
しっかり根に持ってますよー。
「うあ、それを言われると…、できるだけ努力するよ。」
ぽりぽりと頬を掻きながらも誓ってくれた。今まで抑圧されていたいろんな感情が出てきているのか、うまくコントロール出来てない気がする。
そもそもいい歳した男性が人目も気にせずに大泣きすることがおかしかった、食べ物に対する執着も尋常じゃないしね。まあ、ため込んでいた感情を発散していけばいい男になるのかもね…たぶん。
…そんなふうに話しながらチャラボス(仮)に誘拐された恋人さん達を探していたら、ひとつの部屋の前で探していた恋人が見つかったのか茫然としている。
…中に入らないの?感動の対面のはずだけどすごく複雑な表情をしてる。
「どうしたんですか? 見つかったんでしょう?」
『…あれを見てくれ…』
部屋の中を指差す男性。首をかしげながら覗くと…その部屋は…どうやって作ったのか、ディスコのお立ち台が作ってあり、そこで恋人さんたちがボディコンを着こみ、音楽を鳴らして激しく踊り狂っていた。当然羽つきセンスは外さない。え、ここ異世界だよね?!なんでディスコ…でも、髪形とメイクはギャル風に盛ってあり非常にバランスが悪い。
せめてワンレンでお願いします!じゃなくて、…そうだ、きっとチャラボス(仮)に無理やりやらされてるんだと思い私は声を張り上げてこう叫んだ。
「あなたたちを誘拐して監禁していたチャラ男たちは捕まえました! 恋人の元に戻っていいんですよ!」
しかし…彼女たちから返ってきた返事はこうだった。
『はあ? そこにいる恋人なんてどうでもいいしー。うちら好きでやってんだよね。てかさ、もう別れてくんない? ここで自由に踊ってたいしー。親にもそう伝えといてーマジで。ぎゃはは』
音楽を止めて、代表格みたいな女性がこう言ってのけた。
えーと、まさかの展開。男性側の恋人さんたちはあまりな展開に茫然自失状態…うん、その気持ちよくわかる。必死に探していたのにこの仕打ちは酷い。
「杏子さん、後は彼らの問題だよ。それより、頭から血が出てるから早く治療しないと。」
あの打たれ湯で打たれれば頭の怪我も一発で治るよ!とにこやかに言われ、私達はチャラボス(仮)の屋敷を後にした。
その後彼らがどうなったのかは知らない。私は新しくできたタンコブのせいで、宿でダウンしていたから。打たれ湯なんて二度と行かない!
誘拐の時の怪我より、タンコブの方が痛いなんて詐欺だー
※しょうもない理由での誘拐でした。花嫁というよりは踊り仲間?探し。チャラ男ボス(仮)はこの後、丸坊主の罰を受け、行方不明の彼女たちはしぶしぶ親の元に戻りました。
※基本的に命の危険がある世界には移動しない規則にはなってます。主人公たちが問題のある人にひっかかりやすいだけ。
※湯治の世界、昭和の香りがぷんぷんする世界です。もう少しここにいて、次に移動します。歩くトラブルメーカーになりつつある二人(笑)
※次回、ナビさんがキレる?




