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異世界チケット使用8枚目。その2


 ベッドというには辛い寝床から起きて、背伸びをしながら外に出る。

うん、いい天気だね。湖もきれいだし空気も美味しい。医療の世界は空全部をドーム状に包んでいたから、閉そく感がすごかった…、来ていきなり監禁されたしね…。

 今日は何か食べれるのかなぁ。おなかぺこぺこなんだけど…マダムも起きて探すけどいないし、ここの管理ってもしかしてザルなんじゃ…


「おはよう、起きたのねーすぐに朝ごはんにするからー」

 どこからかマダムの声だけする、きょろきょろ周りを見渡すけど誰もいない。


「ここよー、湖の中。魚がたくさんとれたから、塩焼きにするわねー。」

 目の前に顔だけ出して浮いているマダムがいた。よっこいしょ~といいながら湖の中から出てきた。

  なるほど、魚籠に見たことのない虹色の魚がたくさん…これ食べられるの?マダムに目をやるとさらに驚いた!……マダムは人魚でした。あれ昨日は足あったよね…どういうこと?


「ああ、人魚族は初めて見るのかしら? この湖の近辺に住む者ははみんな人魚よー。このゲルキノも人魚の陸用の家なのー。普段は湖にいるから、観光客とか療養する人間に貸すのよー。私はその代表なの、一番長く足を出せるから。半人魚ってとこかしらねー。父親が人間で母親が人魚なの。珍しいでしょー?」

 人と人魚のハーフ!結婚できるんだ…そっちにびっくり。


「魚、捌くから待っててねー。ここは自然が売りなのよ。もっと都会がいいならこの盆地を超えないと大きな街はないわよ。」

 うっ、なんだか見透かされた気がする。でもここの景色は素敵だし、イケメンさんの具合が良くなるまでは居たいかな。


「私も捌くの手伝いますよ、得意ですから! 任せてください。」


 それから二人でかなりの量の魚を捌いていった。

 塩焼きの分と燻製にする分、干す分とテキパキ仕分けしていく。


「手早くて助かるわ―、本当にうまいわねー。どこかで修業でもしたの?」

 ええ、サバイバル花嫁修業をしました。都会では全然役に立たなかった、それどころかドン引きされるし…。褒めてくれるのはイケメンさんくらいかな。あ、すっかり忘れてた。具合よくなったかな?

 湖のそばで火を焚き、魚を焼いていく。いい匂い~


「うわー、いい匂い。焼き魚ですか? 美味しそうだなあ、僕も食べたい。やっとおなかの痛みが消えたよ。心配かけてごめん、杏子さん。あの栄養チューブは僕には合わないみたいだ。体も痒くて痒くて…」

 ようやく起きてきたイケメンさんは、首をしきりに掻いている。

 あちゃー、真っ赤になってアレルギー出てる。


「あらあら、何かに過剰反応したのねー。大丈夫よ、ここの水を飲めばすぐによくなるわー。はい、どうぞー。」

 マダムが用意していたピッチャーから水をくれた。ぐびっと飲むと…すーっとイケメンさんの首の赤みが消えていく。すごい!水にそんな効能があるなんて…医療の世界よりすごいんじゃない?


「すごいんですね、ここの水って!」


「それはそうよー、女神さまが住んでるこの盆地一帯は、女神様のおうちのようなものよー。だから警備も何もいらないし、悪意をもった者はここには来れないようになってるのー。あなたたちは人にしては珍しく心根が美しいから、ここに来れたのよー? いくらナビさんがここに置いてほしいって言われても、心根が汚れていたら辿り着けてないわよー。」

 わー、ここに来れたの本当にラッキーだったんだ。

 イケメンさんはピュアだから心根がきれいなのはわかるけど、私も…?結構心は汚れてる気がするけど…


「そろそろ塩焼きができそうねー。戻ってからゆっくり食べましょうかー!」

 あとはそのままでいいから、ということでマダムの準備した朝食をいただく。

 普通にパンとサラダに魚の塩焼き、あー…白いご飯が食べたいなぁ。

 でも、この魚、不思議な色だけどすごく美味しい!異世界でいろいろ物を食べてきたけど、一番かも。


「この世界で何回か食事を取ってお水を飲めば、体の調子は整うはずよー。それから、盆地をでて街に行ってみるといいわよー。普通の人間はほとんど街の方に療養しに行くわー。ここは限られた人しか来られないしね。」

 私達って選ばれちゃってたんだ、女神様に。…喜んでいいやら悪いやら。

 どちらにしろイケメンさんの体調が戻るまで、のんびりしようっと。チケットもあと二枚、あの告白の返事をしないといけないよね…好きなのは好きなんだけどねぇ。

 どうしたらいいのかな…異世界の壁は国際結婚の壁より分厚いと思う。

 なんて考えながらぼんやりしていたら、私の表情にピンと来たのか


「杏子さん、先ずは旅を楽しんで…ついでに僕のことをゆっくり考えてくれたらいいよ。待つのは慣れてるから、気にしないでくれ。」

 魚をもしゃもしゃ食べながら、健気なことをいうイケメンさん。

 むむむ、なんか私が悪女みたいじゃない?


「あらあらー、楽しそうねー。なんのお話?」

 ニコニコ意味深に笑いながら、マダムが話に加わってきた。


「僕が杏子さんに交際を申し込んでいるんです。でも、お互い異世界人同士だし…この旅が終わるときに返事をもらう約束なんです。」

 ぶほっ、照れながらも大事なことをあっさり話すなんて!もう少しこう…何かに包もうよ!

 アニキウィルス、やっぱり残ってない?やけに気持ちをはっきり言い出して、非常に照れ臭いし恥ずかしい。元彼からそんな歯の浮くセリフとか言われたことないから余計にね…。


「まぁー、ラブラブなのね、昨日も随分心配してたものねー?」

 ひゃー、止めてください。ばらさないで~恥かしさをごまかすため、真っ赤になってひたすら魚をかじる。マダム、冷やかしは勘弁してください。


「あの杏子さんが照れてる! 嬉しいなぁ~。」

 いや…好きだとはっきり自覚したから、余計に恥ずかしいんだって!

 しかもあの杏子ってどの杏子よ…


「ところで話しは変わりますけど、ここにお風呂とかってありませんか?」

 そう、ゲルキノには風呂がなかった。昨日、シャワーがあって喜んで使ったら真水が出てびっくりしたのだ。冷たすぎて風邪をひくかと思った。


「お風呂ってなあにー? 初めて聞くけど…街にはあるのかしらねえー? 私はここからあまりでないから知らないわ―」

 不思議そうに首をひねるので、お風呂の説明をするとものすごく険しい顔になってしまった。


「あー、それはここでは無理ねー。だってお湯に入ったら死んじゃうわー人魚たち。だから冷たい湖の水を使ったシャワーしかないのー。ごめんなさいねー?」

 あう、人魚はお湯に触れると命に関わるらしくダメみたい…、残念だなぁ。

 早めに街に移動した方がいいかも…。一度温泉に入り、お風呂の良さを再度確認してしまっては…お風呂に入れないのは日本人として非常に辛い。がっかりとしているとイケメンさんがこう切り出した。


「もう、僕は大丈夫だよ。お昼になったらここをでて街の方に行ってみよう? ナビさん、街の方にはお風呂の類はあるかい?」


----少々お待ちを…あります。温泉というよりは、杏子さまの世界での<湯治>といった施設が点在しているようです。体の症状によって入りわけるのが通例のようです----


「湯治かー、どんなだろう? 砂風呂とかマッサージとかあったらうれしいな~」

 うふふと気分が一気に浮上した。


「お昼にはここを出るのねー? じゃあ、女神様にご挨拶してからいってね? じゃないと拗ねちゃうから、女神さま。あそこに見える小さな虹色のゲルキノで、女神様にあいさつできるからー。もしかしたら杏子さんの悩みも聞いてくれるかもよー?」

 女神様にいろいろ突っ込みたいことがあるんだけど…、とにかくもう少しイケメンさんの体を休ませてから女神様にあいさつしに行こうと決めた私たちだった。


湖に女神常駐してます。天然セ○ム(笑) 


冬に冷水のシャワーを浴びると世界の終わりを感じます。昔、親に体が強くなる!と言われ冷水をぶっかけられたのは…迷信でしたね。


次回、女神様とご対面です。

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