表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/59

異世界チケット使用7枚目。その3


 なんか扉のあたりが騒がしい。朝の診察かな?


 ぼんやりとした頭で扉を見ると、いつ入ってきたのか…髪はボサボサで服もヨレヨレ、不潔極まりない男性がぬっと立っていた。その不審者の足元には、グルグル巻きにされた昨日の医師がいた。

かなり暴れたらしくもがいている。 私の隣にはイケメンさんが…チューブを手に寝てる?

なんで2種類同時に持ってるんだろうか、食いしん坊だから同時に食べようとしたのかもしれない。

なんにしても寝起きでドッキリ~というわけではなさそうね。


「へぇ、ずいぶん冷静に状況を見てるんだねぇ~そっちのデカイやつと君が<旅行者>だってねぇ~?探したよ~研究材料ちゃん(はーと)」

 語尾にハートをつけて話さないでほしい。この不審者!

こっそりわからないよう呼び出しボタンを探すけど、…ない。


「探してるのはこれかな~?」

 ボタンが不審者の手元にあった。ムッとしたけど、なにか反撃できないかと考えながら…ベッドに散乱してた三色チューブをチューチューと口に吸う。

確かこの味、この世界の人たち嫌いって言ってたよね。


「へぇ~あまりのまずさに販売禁止になったやつじゃんか~まだ在庫あったんだ~? ひひっ、研究材料ちゃんはなかなか解剖しがいがあるよな~、ひひひひっ」

 本当に気持ち悪いなこの不審者。イケメンさんは寝てるかと思えば気絶してるみたいだし、自分でなんとかするしかないか…幸い医師をグルグル巻きにするだけでヨレヨレに疲弊してる。

骸骨みたいにガリガリだし、いっちょやりますか。


「おとなしく~ついてくれば~痛くはしないよ~? んもう、邪魔だな~君は!」

 どかっと医師を蹴飛ばす不審者。どうやらもがいている医師が、不審者のズボンを必死にくわえてくれてたから近くに来れなかったらしい。医師を振り切ってツカツカと私の側に来た。


「さ~、そこで目を回してるデカイのは運ぶのが大変だし~、黒髪の君の方が楽だよね~先にいこうか~?」

 いつまでも栄養チューブを吸っている私の腕を掴もうと、接近した不審者の顔面に向けて赤味(梅)をブーっと吹き掛けた。


「ぎゃっ、なにをするっ、ひい、すっぱいいい~」

 いきなり顔に吹き掛けられ慌てる不審者。よし、怯んだ、チャンス!


 ゴツッ! ガッシャーン…


 不審者のこめかみ目掛けて力いっぱいグーで殴ったら、軽く吹っ飛んだ!体重が軽いのね、この不審者…。吹っ飛んで尻もちをついている不審者の口にすかさず近寄り、三色栄養チューブをねじ込んで中身をむぎゅーと注いであげる。

たくさん召し上がれ~、あ、泡吹いた…そんなに不味かった?美味しいのに。

不審者をやっつけて一安心したら、床に転がされてもがいている医師を助ける。

…イケメンさんはまだ起きない!いいかげん気づいてよね…。


「大丈夫ですか?」


「…あちこちちょっと痛いかな、かなり暴れましたから。」

 腕や足をさすりながら冷静に自分の状況を話す医師、さすが。


「それにしても、この汚い不審者なんなんですか? まさか、昨日話していた研究しすぎて狂った人~とか言いませんよね?」


「そのまさかです。最近姿を見ないから安心していたんですが、君達の匂いをどこからか嗅ぎ付けたらしい。まったく…今度は懲罰室行きですね。」

 医師がタブレット端末で、ピピピ…と打っている。

数分後、医師の格好はしてるけどムチを持っている怪しい調教師みたいな人が来た。

Sの方ですか…すぐに不審者をムチで捕縛し、軽々と抱え連行していった。


「あの変な人、どんな処罰を受けるんですか?」


「散々他人を好き放題研究して被害者も多いですからね、当然同じ目にあってもらいます。この世界ではごく普通の処罰ですから、それにしても本当にご迷惑をおかけしてしまいましたね…」

 医師がフラフラと立ち上がるが、さっきの格闘でよろけてしまった。


「危ないです、まだ座っていた方が…」

 支えながら話していたら


「んー、杏子さん…、一体何があったんんだい? 扉は壊れてるし…って! 杏子さん、離れてっ。なんで抱き合って…」

 顔色が悪いイケメンさん、その顔色はアニキウイルスのせいなのか栄養チューブ一気食いが原因なのか…多分後者だろうけど。


「あのねー、今まで不審者がいたの! で、私が連れ去られそうになったのをこの先生が助けてくれて…。でもかなり格闘したからちょっとふらついて、だから支えてあげてたの。変な勘ぐりは止めて」

 ちょっとだけいきさつをねつ造、私が不審者を倒したなんて聞いたら「なんて危ないことするんだ!」って怒られそうだし。今頃、心臓がバクバクしてきて体も震えてきた。弱そうな奴でよかったけど、私、ほんとはすごく怖かったんだ…


「先生、杏子さんを僕に返してください。…可哀想に、震えてる…怖かったんだね。ごめん、起きるのが遅れてまた守れなかった…昨日、寝る前にどうしてもおなかが空いて、栄養チューブを食べたけど余りのまずさに辟易して、ならいっそ二種類同時に! ってやったら意識無くしたみたいだ。ほんとにごめん…」

 しょんぼりして話す彼に、笑いがこみあげてきた。やっぱり二種類同時に食べたんだ!!

もはやお約束だね、笑いながら泣く私に、イケメンさんがおろおろするけど笑ったおかげで恐怖が薄れちゃった。やっぱりこの人といると飽きない。


「ところで僕の病気、治ったんでしょうか? 特に異変は感じないんですが。」

 泣く私の背中をさすりながら、医師に質問する。早く退院して移動したい。

また不審者につかまるのはもう嫌だしね。


「熱も下がりましたし、会話等に以上も見られません。あともう一度体のデータを取って以上がなければ退院できます。すぐにこの世界を移動された方が安全ですね。まさかこんな短時間で嗅ぎつけるとは想像できませんでしたから。そのまま立っていてください、スキャンします。貴女は離れてください。」

 本当なら診察室に移動するけど、移動するとどうしても不審者にキャッチされやすいみたいで…このままこの病室で診察を始めた。


 医師が手をかざすと、イケメンさんがスキャンされていく様子が見れた。どういう仕組みなんだろう?


「うん、問題ないですね。熱は一時的なものです、アニキ熱が下がればほぼ正常です。たまに男らしさがでますが生活に問題はないので、このまま退院して結構です。緊急移動ゲートまでお送りしますので、歩きながら次の世界の行先を決めてください。さ、行きましょう。」

 医師は診察を終え、退院を決めてくれた。すぐにここを出ることを勧めてくれる辺りはいい人なのだろう。医療に特化した世界といえば聞こえはいいけど、人間捨ててしまったような気がして二度と来ないと思う。私は次に行く世界の事を考えながら、緊急移動ゲートまで三人で歩くのだった。


医療特化の世界はこれでおわり、医療を研究するあまり「人」としてあるべき姿を無くしてしまった世界でした。病気は治りますけどね…


軽く吹っ飛んだ不審者、体重は紙のように軽い設定です(笑)ご飯食べずに研究三昧。


三色チューブ、綺麗に分かれてる構造です。味は順番に出てきます。梅チューブは好きですが、あとの二つは遠慮したいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ