異世界チケット使用7枚目。その1
告白したはいいけど高熱を出してしまったイケメンさん。
セバス・チャンさんに聞いたら、なんとここは医療機関がない世界だそうで…ただ緊急事態のために医療機関が整っている世界と提携しているらしく、そちらに移動を勧められた。
すぐに枚目のチケットを使い、医療機関の整っている世界に緊急移動をナビさんに頼む。
----先方と連絡が取れました。緊急搬送を開始します、移動したらすぐに入院となります----
高熱を出して意識朦朧としたイケメンさんの手を握りながら、緊急移動した。
いつものこんにゃくのなりそこないな色でなく、毒々しい赤色だったのは緊急搬送を示しているそう。
::チケット使用7枚目::
<緊急搬送移動:医療の発達した世界。治せない病気はほぼ存在しないのがこの世界の自慢。医療を極めたいものが集う。治安に問題なし。>
移動してすぐに白衣の医師らしき人に囲まれた。そして、イケメンさんをストレッチャーに乗せている間、私にいろいろ質問してきた。
「あの方のお連れの方ですね、最後に入った温泉の種類は何かわかりますか?」
タブレット端末を持つ医師に聞かれた。
「アニキの湯です。でも私達は入るつもりはなかったんです。変な人にいきなり彼だけが湯にいれられて…」
それからすぐリセットの湯に入ったことも話した。
「アニキの湯は危険な温泉なんです。純粋な方には…少々刺激が強すぎまして。リセットしても、効能が抜けきれないことがよくあります。確か立ち入り禁止にしていたはずなんですが…災難でしたね。」
淡々と説明してくれる医師。やっぱり危険だったんだ…
「高熱が数日続きます。温泉の世界からの連絡で、VIP待遇をするよう伺いましたので…貴方も寝泊まりできる特別室を準備してます。診察が終わったら、彼と一緒に病室にご案内します。ここでしばらくお待ちください、では失礼」
スタスタと立ち去り、ポツンと一人になってしまった。イケメンさん…大丈夫かな?
かなり熱が高いから心配だ。救急移動スペースらしいところから、今いる場所を見てみた。
空一面が真っ白なドームに覆われていて、世界全体を包んでいる。世界全体が医療機関ということらしく、住居らしき建物が一切ない。生活はどうやってしてるのか不思議に思った。
「ナビさん、この世界って本当に医療機関だけなのかな?」
----温泉の世界が温泉に力を入れているように、ここは医療のみに力を注いでる世界です。住居がないのは病院にすべて揃っているからです。医師と言うよりは医療を研究する人が集まる世界と言えます。治療が済んだら療養も兼ねて、すぐに別の世界への移動をオススメします----
ここはドームに覆われていて、空を見れない。病院全体がさながら無菌室のようだ。
ナビさんのすぐに別の世界を薦める理由を聞こうと思ったら、診察がもう済んだらしい。
ストレッチャーに乗ったイケメンさんと病院のスタッフがきた。
「とりあえずの応急処置は済んでます。アニキウィルスはしぶといので数日は入院が必要です、退院許可が出たら速やかにこの世界から移動してください。我々の研究の邪魔ですから」
冷たくそう担当医師に言われ、助手の人に促され用意された病室に向かった。
中は自分の世界の病院の病室とさして変わらず、異様に真っ白だった。
「退院許可がでるまで、二人とも外には出れません。ドアをロックしますので。病室の奥に生活に必要なものがすべて揃っています。何か異変がありましたら、彼のベッド横のボタンを押してください。ベッドごと診察室に転移しますから。」
失礼します、と案内してくれた人もすごく冷たかった。なんだろう、この世界。
すごく居心地が悪く感じる。そう、人なのに感情がないロボットと会話してるみたい。
とにかくすうすう寝ているイケメンさんを起こしてはいけないと生活スぺ-スがあるという奥の扉をそっと開けてみた。
「げ…、なにこれ…。ここで寝ろって?」
生活できると聞いていたから少しは期待してたけど、ほぼ寝る場所しかなかった。
トイレや洗面台は病室の方にあるからそれを使うにしても、ここでどうしろと?
溜息をついて備え付けの小さな棚を開けてみた。
「これが食べ物なの…?」
ゼリーチューブのようなものが10本ほど無造作に置かれていた。
それには栄養満点、これ一本で一日大丈夫!と書いてあった。恐る恐る一本口に入れてみた。
が、すぐに吐き出してしまった。
「まずっ! なにこれ…、こんなまずいもの食べられないよ…。いくら栄養価があるといってもこれは無理だわ…。」
…イケメンさんがよくなるまで断食しないといけないかもしれない。
味は渋柿をさらに10倍は渋くしたのに酢を混ぜたのか、酸っぱくて渋い。
ある意味斬新な味であったけど…温泉の世界で美味しいものをさんざん食べて舌が肥えてしまったあとに、これは正直拷問に近かった。
結局病室に戻り、イケメンさんのそばにいることにした。
「早くよくなってー、本気で餓死するかもしれない…」
イケメンさんの顔を眺めながら、ぽつりとつぶやいた。医療の世界に緊急で移動した途端、監禁状態で始まり凹みそうだった。
「どこがVIP待遇よ…、まるっきり逆じゃない…。」
あとで聞いた話だけど、異世界からの<旅行者>は医療研究者の格好の研究対象になりやすく、よく解剖されたり改造されたりとにかく出歩くだけで危険だったらしい。
それなら着いたときに説明してほしかった…とほほな医療の世界での一日目はこうして始まった。
いきなり監禁。結構つらい世界かも…
病気は治りますけど、精神は壊れかねない。
イケメン、アニキウイルスにやられました(笑)
後遺症がないことを祈りましょう…




