異世界チケット使用6枚目。その8
【巨乳の湯】
◎女性:最適で無理のない巨乳になります、結果に納得のいかない方は【爆乳の湯】へどうぞ。
◎男性:逞しい胸板になります、結果に納得のいかない方は【覇王の湯】へどうぞ。
◎想定外の結果になることがあります。その場合は【リセットの湯】へどうぞ。湯の効能がリセットされます。リセットしたい湯の効能を係員に申しつけください。リセットは何度でも可能です。
いま【巨乳の湯】の前に来てるんだけど…この世界に来てやけにナイスバディの女性が多いか分かった。みんなこの湯に入ったんだ。
メロンみたいな胸ばかりだからおかしいと思ったら…でも、みんな背が高いし(ほぼ2M)、サイズが大きくてもバランスが取れていて違和感がない。
もし仮に私があのたゆんたゆんした巨乳になったら…160センチないのに、胸だけバイ―ンは無理がある。アニメならともかく、現実の35歳OLには必要ないな-。
垂れたらおヘソまで来そうで怖い。
やっぱり入るの止めようと踵を返したら、ビキニのイケメンさんがにっこり笑顔で立っていて、私を巻きこんで風呂に押し入った。
「ぶはっ、もう。入るの止めようと思ったのに!」
「一人で逃げようなんてだめだよ。結果が嫌ならやり直せるし、とりあえずゆっくり入ろう?」
巨乳の湯はさすがに人気で、男女でごった返していた。どれくらい効果がでるんだろうとか思っていたら、「うわー」とか「うひゃー」とか周りで歓声が上がる。
どれどれと周りをみたら、女性は本当にメロン並の巨乳に、男性は胸板が逞しくなっていた。
胸板が逞しい男性にうっとり見とれていたら、イケメンさんがムッとした顔で私の視界を塞ぐ。
素敵な人がいたのに見えないよ。胸をぽかぽか叩くけど、どかない。
「ンチャックさん、胸板厚くなってない? なんか叩くとすごい重量感がある。」
そう、細マッチョだった体が、どこかの覇王のように立派に…うん、胸板だけは立派に…。
「それでね、鏡で確認してみた方がいいよ。ついでにリセットの湯に入るといいと思う。」
「なんでリセットの湯を勧めるんだい? とりあえず鏡で見てこよう。」
ルンルンで鏡を見に行ったイケメンさん、そしてすぐに悲鳴が聞こえてきた。
そのままリセットの湯に突っ走っていっちゃった、だから言ったのに。
そう、胸板だけゴツく逞しくなり他は細いまま。アンバランスの極みで、なぜかお盆のお供えのなすびを思い出した。どうせならゴリマッチョの湯があればいいのに。
結局しくしく泣きながら戻ってきて、元の細い体に戻っていた。さて、私の胸はどうなったかな?
「あれ? 胸が全然大きくなってない…」
厳密には、BからCに戻っていた。きょ、巨乳になるって書いてあったのに。
少しだけ巨乳気分を味わいたい、それすらも叶わず…微妙に大きくなっただけだった。
結局、巨乳の湯の効き目は個人差があるようでした。二人で暗くなるのも嫌なので次の温泉に行こう!
「ね、気を取り直して違う温泉に入ろうよ。」
「…じゃあ、次は泣き虫を治したい。僕だって泣きたくないんだけど、感情が揺れるとすぐ泣いてしまうんだ。」
「泣き虫が治せる温泉、あるかどうか聞いて見よう?」
とにかくいろいろ温泉の種類がありすぎて、入りたいのを見つけるのも大変。
いろいろな人に聞いてやってきたのが…
【アニキの湯】
◎男性:立派なアニキになれる。男に慕われる。
◎女性:立派なアネゴになれる。女に慕われる。
は、入りたくない。 ものすごく入りたくない。イケメンさんも悩んでる、モテたいのは女性だもんね。
二人で入るのをためらっていたら、イケメンさんだけがひょいと抱えられ、アニキの湯にドポンと落とされた。イケメンさんを落とした人を見たら…立派なアニキがいました。昭和な臭いがプンプンしそうな凛々しい角刈り、小麦色に日焼けした肌、極めつけはハイビスカス柄の褌。
「ためらうなら迷わず入れ、男だろう?」
白い歯を無駄にキラっとさせ、イケメンさんに語りかける。
「はい、ありがとうございます。アニキ!」
爽やかに返事をしたイケメンさんが…昭和のアニキになってる。
声にならない悲鳴をあげた私は、温泉から必死にイケメンさんを引きずりだして、近くのリセットの湯にほうり込んだ。とにかくアニキなイケメンさんは気持ち悪かった… 。
最初に入った温泉はよかったのに、だんだん変な温泉ばかりになってきた。
「ピーちゃんでも呼んで気分転換したいね…」
「僕もさっきのアニキの湯は、別人になってしまって参ったよ。弱い性格を少し治したいだけで、外見を変えたいわけじゃないのに。」
奇妙奇天烈な温泉群から少し離れて噴水広場のような場所で、真っ赤な空を見上げる。
チケットを拾い、うっかり所有者になってイケメンと異世界旅行してるなんて…自分の世界に戻って友人にでも話したら、いよいよ頭の中身を疑われそうだ。それでなくても脳内ファンタジー女とか馬鹿にされてるし。
「自分の世界に帰りたいのかい? 寂しい顔をしてる」
不安げにそんなことを私に尋ねるなんて、そんなにひどい顔をしていたのかな…
「ううん、チケットはちゃんと使い切ってから帰るよ。残りはあと四枚でしょ。ンチャックさんにちゃんと恋人が見つかるまで付き合うよ。」
そういったら切なげな表情をして黙ってしまった。ごめんね、気持ちを知ってる上で敢えて突き放すのは私も切ない。同じ世界の人なら喜んで付き合うけど、もし私の世界に来たらモテモテで私なんか…相手にもしてもらえないだろう。
こんなへたれイケメンで、泣き虫なダメ男をまさか好きになるなんて思いもしなかった。
でも、純情一途で努力家の彼と過ごすうちに愛しさの方が勝ってしまった。
ダメ男だけどそれを克服しようともがいてる。きっとそう遠くないうちに、中身と外見も一致するいい男になる。寿命が違うから、その頃には私はおばあちゃんだろう…さすがにそれは忍びない。
元の世界に戻ったら、お見合いでもしようかな…私が考え込んでしまったのを見ていたイケメンさんが口を開いた。
「いったん、ホテルに戻ろう。話したいことがある。」
ポーターを呼び、ホテルの部屋に戻る。その最中もずっと無言だった。気まずくて何も話せない。
「隣に座って、杏子さん。ちゃんと話をしようと思ってたんだ。」
真剣な表情を見て、これはまじめに聞かなくてはとソファーに座った。
彼は私の手を握りながらこう切り出した。
「僕の旅行の旅の目標だった恋人探しだが、もう必要ないんだ。僕は見つけたから、理想の女性を。誰よりも優しくてお人よしで、時に豪胆で…たまにドジですごくかわいい人、守りたいって思うんだ。今は僕が弱くて守ってもらう情けない状態だけど。それでも僕は杏子さんが好きだ。今日、他の男に手を握られてるのを見て嫉妬で大変だった。でも、…もっと精神的に逞しくなって、杏子さんに相応しい男性になったら僕の恋人になってほしい。返事はすぐに欲しい訳じゃない、いきなりだっていうのもわかってる。この旅行が終わるまでに、…返事が欲しい。ダメかい?」
顔を首まで真っ赤にし、一気に話して全身ゆでダコになった。
「ダメじゃないよ。ちゃんと考える、気持ちは嬉しい。ありがとう。」
まさかの告白を受けてびっくりした。彼の性格なら告白なんてしないだろうし、このままうやむやにしちゃえ、なんてずるいことを私は考えていた。
どうしよう、こんなこと想定外で頭がくらくらしてきた。
告白なんてめったにされないし、ここ最近は彼氏もいない状態だったから尚更だ。
「よかった、それを聞いて安心したよ。これを言おうと少し前からずっと考えていたんだ。これで少しはへたれってやつを返上できる。これからどんどんアピールするから覚悟してくれ。」
アニキの湯の効能、リセットできたんじゃないの?やけに男らしいし、手が熱い。
あれ、もしかして熱があるんじゃない?そっとおでこを触るとかなりの熱を出していた、40℃はありそうかも。
「きゅ、救急車ー、じゃなかった。お医者さんいないか聞いてくる。待ってて、その前に冷蔵庫から氷出さなきゃ…」
私がソファーから離れ冷蔵庫に走り、手当てできるものがないか探している間、イケメンさんはやり遂げました、アニキ!という達成顔ですやすやと寝ていたのだった。
とうとう告白、いきなりの展開!ですが、イケメンもいろいろな女性を見てきて、やはり杏子がいいと再認識した様子。一人で温泉巡りをしていた時に逆ナンされたり…。告白されたり。杏子には黙ってます。
本当は告白するつもりはまだなかったようですが、アニキの湯の効能が残ってました(笑)男らしさが告白にでたようです。返事は10枚目にする予定です。
イケメン、がんばれ!うまく恋人になれるか頑張り次第だよー。




