異世界チケット使用6枚目。その1
チケット使用6枚目
<検索条件:温泉がいろいろあり、静かで食事が美味しく、治安が完璧な世界>
移動してきた世界は…近所の温泉健康ランドのようだった。
郊外ですらなく、大きな建物の広場前に普通に出てきた。
そして、私たちのまわりにも次々といろんな人種の人たちが移動ゲートから出てきている。
結構な人でごった返していて、みんな色とりどりのムームーを着ている。
そして隣にはアロハな青いム-ム-男性用アレンジ?を優雅に着こなすイケメンさん。
背が高いといいね!なんでも似合ってさー。
えぇ、当然のように私もムーム-着用、しかもまたピンクだし…できれば地味な色がいいな。
この強制的に着せられる服は色を選ばせてほしいよね。私が着るとロングドレスになるのは気にしないようにしよっと。
それにしても、私が仕事帰りによく寄る温泉健康ランドに酷似してるけど、気のせいだよね?
ついついぼんやりしていたら、ナビさんがここの世界の概要を説明し始めた。
----ここは当社でも<旅行者>に大変人気の保養地です。人気ランキングベスト10に必ずランクインしてる人気異世界です。温泉は様々な種類があり、滞在期間中に全部入ると願いが叶うかも…とのジンクスがあることでも有名です。ちなみに温泉の種類は100以上ありますので、無理はしないようお願いします。旅館・ホテル・コテージ・など宿も多種多様で充実しています。この温泉中央管理センターで<旅行者専用滞在カード>を発行してから行動してください。ここの治安は常に警備隊が目を光らせていますから、安全です。安心して滞在をお楽しみください----
聞いてる感じは、私の世界の温泉みたいだけど…元の世界でもそんなに種類はなかったはず。
…本当に「温泉」なんだろうか?
って、スキップしながらイケメンさんが管理センターに向かってるし!
私を置いて行かないでよっ!
すごい人ごみにまぎれ見失う。探すけど、みんな大きくて前が見えないし。
仕方ないから、空いているカウンターでカードの発行をして、目立つところでイケメンさんを待つ。
しばらくして気がついたのか、かなり焦って探しているのが見えた。ふん、気づくのが遅い!
「ごめんって、機嫌直して杏子さん。忘れたわけじゃなく、つい…」
私の前でオロオロしているイケメンさん。現在非常に怒ってます。
黒髪長髪だから割とすぐに見つけたけど、自分一人置いていかれたと思った時、言葉では現せない不安感や恐怖感いろいろこみあげてきて…
あ、ヤバい。泣きそう。
涙目でキッと睨む。
まわりの人も何事?!と見ている。
文句のひとつや二つや三つくらい言いたいけど、なんだかクラクラしてきた。
そういえば昨日は襲われそうで、徹夜してたんだっけ…と薄れる意識の中で思ったのだった。
「あぁっ、杏子さん! しっかりして!」
バッタリ倒れた私を抱えて頬をペシペシ叩く、眠いだけだから…おやすみ…
ふと目を覚ましたら、天蓋付きのお姫様ベッドの上だった。 なにこのセレブな部屋は?
「ん?」
誰か手を握ってる。
ずいぶん泣き腫らしたらしい彼が、私の手を握ったままスヤスヤ眠っていた。
心配してくれたらしい、一眠りしたらさっきの不安感や恐怖感も消えたようだった。
人間、睡眠って大切だよね!
徹夜なんてするもんじゃないや…
手を離そうともがくけど、ガッチリ掴まれてる。
寝てるのになんて握力!むき~っとイケメンさんの手を外そうと格闘していたら、ナビさんとは違った機械的な男性の声が聞こえてきた。
----目が覚められたようですね。はじめまして、異世界旅行すべてを管理する会社の社長※※です。この度は私どもの不手際で、お客様を危険且つ不快な目に合わせてしまい大変申し訳ありませんでした。お詫びといたしまして、ここでは最高級のお部屋を用意させて頂きました。これ以降の旅行も最善を尽くさせて頂きます----
「はぁ…それはわざわざどうもありがとうございます?」
まぁ、危険な目には合ったけどさ…、自分達で選んだ世界だし、こんなセレブな部屋を用意されても…正直落ち着かないんだけど。
----ナビから報告を受けまして、羊・山羊獸人世界は旅行先から外しました。その際に、お客様達がどうしてこうもトラブルに巻き込まれるのか検証しました。検索条件が曖昧すぎます。もっと条件をはっきり的確に絞ってください。そうするだけでもトラブルは軽減できます----
あちゃ~、確かに心当たりがありすぎる。要はググるときと同じと思えばいいんだね。
「確かに慌てて移動する事が多くて、検索条件が絞れなかったです。移動の事前予約とかはできないんですか?」
----普通はお客様達のように慌てて移動しませんので、完全に想定外です----
あはは、冷静にツッコミされちゃった。 苦笑いするしかない。
----とにかく安全安心が売りな我が社としまして、これ以上のトラブルが起きないようセキュリティを強化しました。お客様のチケット内蔵のナビを改造しておりますので、安心して旅行を楽しまれてください----
ナビさん改造されたの?!
----そちらの…こっそり起きて話を聞いている方にも、よろしくお伝えください。それでは----
声が消えてしまった。
いつも思うんだけど、どこと繋がってるんだろう?
宙に浮くチケットと言い不思議だらけだよね…。
考え込んでいたら、イケメンさんに手をニギニギされていた。
反対の手で頭をペシっと叩く。
「痛い! 手が小さくてかわいいなぁとか、意外に柔らかいなぁとか確認してただけなのに。叩かなくてもいいだろう?」
プンスカむくれるイケメンさんだが、私はフンッと無視した。
「まだ怒ってるのかい? それとも具合悪いとか?」
シュンとしてる彼を見ていたら、大型犬に見えてきた。
明らかに耳とシッポが下がってる感じかな。
はぁ、仕方ない。私も大人げなかったし。
「倒れたのは寝不足だったから、もう大丈夫。怒るって言うよりは…置いて行かれて怖くて心細かった。みんな私より大きい人ばかりでさ…」
急にふわっと抱きしめられた。
「本当にごめん。いつもなら移動した郊外で、ある程度心の準備をするんだけど…今回はいきなり中心部で、はしゃいでしまった。とにかく僕のせいでごめん、急に倒れるしすごく心配したよ。」
うん、わかった。わかったからそろそろ離れてほしい。非常に照れ臭いんだけど。
ぐ~
二人のおなかが同時に鳴った。ナイスタイミング!
チャンス!とばかりにサッと離れる。顔が熱いのは気のせい、気のせい。
「おなか空いたよね! 何か食べに行こう?」
「そうだね、ここは何が美味しいか楽しみだ。」
仲直りした私達は、最上階のセレブな部屋から食べる物を探しに、温泉街に繰り出すのだった。
杏子、とうとうイケメンがわんこに見えてきた?イメージはボルゾイとかアイリッシュセッターかな。
ほだされてはいるけど、まだ恋愛感情はなさそう?
イケメンは…もっと、がんばれ!




