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異世界チケット使用5枚目。その4


 翌朝、目のくまができた二人は鍵を外し扉の仕掛けを全部外し、イケメンさんから扉の外に出た。

 そして左右確認してから私を呼んだ。

 二人で恐る恐る下に下りると、様子は一変していた。

 あの暗かった雰囲気は全く無く、朴訥とした雰囲気になっていた。

 おじいさん羊も、昨日とは打って変わりニコニコしている。


 なんだかキツネに化かされた気分で、首をひねりながら宿を出た。

 街の雰囲気も同じで、みんなニコニコしている。

なんだか納得いかないんだけど!


「ンチャックさん、朝になった途端にこれって…変じゃない? 昨日あれだけ雰囲気悪かったのに。」


「そうだね、朝昼と夜で雰囲気が真逆って…」


 二人とも、うーむと唸っていたら、宿のおじいさん羊が出てきて、昨日の草のお礼をするからおいでと呼ばれ、また宿に戻った。そしてお茶をいれてくれたけど、草の味でした…。

 まずい!もういらない。


「昨夜はすまんかったのぅ。わしらは日が落ちると人格が狂暴化するんじゃ。ま、個人差はあるがの? 数年前までは、羊の王様が世界中の民の狂暴化を押さえて下さっていたから、トラブルはなかったんじゃが…」


「もしかして、世界の半分が砂漠化したのって…」

 嫌な予感が…


「そうじゃ、ある日突然、羊の王様が亡くなり、それまで我慢していた食欲が弾けてしまったのか…元々抑圧が効きにくい放牧羊人が住んどる北の大地から被害にあってのぅ。あやつら草の根まで食べてしまって次々に砂漠化じゃ。段々南下してきとるから、ここが砂漠化するのも早いじゃろ…悪いことは言わん。あんたら<旅行者>じゃろ。早く他所へ移動した方がいいのぅ。わしらは本能に従うからのぅ、日が落ちる前には出て行きなされ。あとはスラム街には近づかんようにのぅ、あいつらは昼間も関係なく欲望に忠実じゃ。」


「情報ありがとうございました。早めに出ようと思います。おじいさんもお元気で…」

 ペこりと頭を下げ宿を後にした。


「しっかし、昼と夜は別の顔なんてびっくりだね! サスペンスドラマみたい。」

 とりあえず砂漠化の謎は解けた。ナビさんも本社に随時報告してるみたい。

 近いうちにこの世界は消えちゃうかもしれない。


「サスペンスドラマが何かは僕にはわからないけど、羊の王様が亡くなるだけでここまで荒廃するんだね。王様の後継ぎはいなかったのかなぁ?」


「いなかったから、こうなったとしか思えないよね。私達には何もできないよ…早く街の外に行こうよ。次はンチャックさんが行きたい世界だよ? どんな所にするか、ゆっくり考えながら歩こう!」

 どちらにしろ、この世界は破滅に向かっているし、よそ者の私達に救う力もない。


 せめて忘れないであげようと密かに思ったのだった。

 羊と山羊のでこぼこコンビは目を引くのか、歩きだしてすぐにどうみてもガラのよくない羊獣人が私達に絡んできた。


「よぉ~兄さん達、<旅行者>なんだって? 昨日はうまそうなもん、食ってたよなぁ? 宿のじいさん脅して、食い物奪うつもりが…扉に細工しやがってよぅ! 仕方ねぇから宿から出てくるのを待ってたぜぇ~?」

 昨日宿にいて酒を飲んだくれていた臭い羊獣人たちと、羊と山羊が混ざった獸人たちに囲まれた。

 おなかを空かせているのか、頬はこけおち、目は血走り鼻息は荒く…こ、これはあの闘牛女性を彷彿とさせ…と冷や汗をダラダラ流していたらイケメンさんがこう切り出した。


「君達に恵んでやる食べものなんて一つもないね! ここにいる彼女を誰だと思っているんだ? 剛腕で戦慄の鉈使い山羊獣人キョ―コだ! さ、彼らを美味しく捌こうか。」

 はい、と私に鉈を渡す。にやりと笑うイケメンさん。

 ははーん、考えが読めた。乗ってやろうじゃない!


「羊肉って実は大好物なのよねえ-、昨日食べてたのは別の肉だけど…さ、誰から捌かれたい?」

 鉈をヒュンヒュン動かしながら、昨日食べたイノウサの肉の味を思い出した。

 大量の動物を捌いたので、鉈の使い方がものすごく上達してしまった。

 これぐらい大きいと捌きがいがあるかもと真剣に思ったり…

 そういや、昨日のイノウサの干し肉美味しかったよねーと考えていたらよだれが…


 その雰囲気で本気で食べられると思ったのか、私たちを囲んでいた獣人たちが真っ青に。


「こいつら、肉食だ! 逃げろ!」「殺される!」

 ガラは悪くても基本的な性格は草食なため、肉食は禁忌らしい。

 鉈を見た途端、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。


 なんだかな-、人を化け物見たいに…。


「誰もいなくなったね。はい、鉈返す。私をダシに使ったわね、この!」

 ていっとイケメンさんのモコモコしたお尻を叩く。痛くないのか苦笑いしてるし…


「僕には杏子さんみたいにカッコイイ二つ名はないから仕方ないだろう? いいじゃないか、剛腕戦慄の鉈使い! 僕もなにか二つ名が欲しいよ。」

 キラキラした顔で言われたら怒る気が削がれてしまった。


 とことこ歩きながら街の外を目指す。ろくに世界を見れなかったな。

 昨日、ピーちゃんの背中から見たこの世界は、砂漠と牧草地帯のくっきり分かれた不思議な光景だった。

 これがいずれ全部砂漠になるんだろう、切ないなあ…


「で、次はどんな世界に行きたいの? 昨日は寝てないし、睡眠不足は肌に良くないから早く安全なところでゆっくり眠りたいな。」


「昨日、杏子さんが話していた<おんせん>とやらに入ってみたいんだ。気持ちいいんだろう? 僕たち、まともに体を洗ってないし、いくら移動の時にきれいに洗浄されてるとはいえ…さすがに僕もゆっくりしたいね。」


 移動ゲートで体を洗浄されていた事実にびっくり!そうか…なんで体が臭くないのかと思ったらそんなオプション機能がついていたのね。


「だから、次は、<おんせん>がたくさんあって、静かなところがいい。保養地か別荘とかそんな感じで、治安も完璧、食事も美味しいところ。どうかな?」


「それはいい検索条件だね!」

 グッと親指をサムズアップしておいた。


「よし、じゃあ、次は<おんせん>がいろいろあって、静かで治安も完ぺき・食事も最上級であること。ナビさん、検索して移動を頼むよ。」


----承知しました。検索しております…。条件に当てはまる世界がいくつかありますが、治安と食事の最上級の世界にお繋ぎします。----


 ちょうど街の郊外にでて、まわりに誰もいなくなり移動ゲートが現れたので二人で期待に満ちながら次の世界に移動するのだった。


もこもこの獣人世界は治安も環境も最悪なところでした。羊とヤギだったから命は無事でした。オオカミやクマなら詰んでましたね。


この世界は後日滅びます。なむー。



次は息抜きに<おんせん>の世界です。



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