異世界チケット使用5枚目。その3
町に入ると、モコモコした獣人たちからあからさまに視線を感じる。
歓迎されてないのがヒシヒシと伝わる。
さて、どうしたものか…とにかく泊まるところを探さないとね。
お、入ってすぐのところにベッドのマークの看板発見!
「宿、すぐにあったね。部屋、空いてるか聞いてみよう?」
「ああ、そうだね。早く入ろう、視線がすごく嫌だよ。」
イケメンさんが顔を歪めている。よほど嫌なんだろう。
ぎい~と扉を開けて入ると…羊の群れ、じゃなくて羊型獣人のみなさんでした。
毛でモコモコしてるから狭い、酒場も兼ねているのかなんか臭い!
モコモコを避けながらカウンターに向かう。
「あんたら、他所者だね。泊まるのかい? この町で宿はここしかないぞい。有り金全部出すか、草か上質の紙でもいいわい。とにかく全財産出しな。そしてら泊めてやるぞい。」
やつれた爺さん羊が意地悪く言う。うーわー、宿からしてガラが悪い!
「あいにく、そんなだいそれた物は持ち歩かないよ。手ぶらで旅行してるんだから。ここの貨幣価値は来たばかりで分からない。何ならいいんだ? 草なら野草を干した物があるよ。それでいいかい?」
イケメンさんがどこから出したのか、小人族の世界で収穫していた野草の束を二つ持っている。
え、それ持ってこれたの?
「どれ、ちょっと拝見。ふんふんふん…、ふむ上質じゃな。うまそうじゃ。見たことない草じゃが、効能はありそうじゃ。二階の奥の部屋が空いとるわい。これがカギじゃ、きちんと閉めとくんじゃな。ここは食べるものがいつも不足しとるんじゃ。何かを買いたければ草か、紙を出せばたいていの無理は聞くぞい。金はあまり意味がないぞい。いいものをもらった情報料に教えてやるぞい。とにかく夜は出歩くな。死ぬぞ。わかったらさっさと部屋に行ったほうがいいぞい。そこの連れにみんな興奮しとるぞい。山羊タイプの女は最近めっきり減ったからの。発情シーズンじゃなくてよかったぞい。」
!いきなり貞操の危機?…本気で羊がよかったよ!着ぐるみ、交換できないかなあ。
そそくさと私たちは二階に上がった。
言われた部屋に入ったんだけど…、ベッドが藁でした。
枠は一応木製だけどね。藁が盛ってあるだけ…どうしろと、シーツも何にもない、布の観念とかもないのかな。
とりあえず鍵をかけて朝になるまでここに居よう。
鍵だけじゃ不安だなぁ…、木の棒発見!これをこうして、これなら開かない。ふふふ。
窓も木枠で申し訳程度な簡素な造り。これも固定して開かないように…っと。
ガタガタと私がカギや窓を開かないようにしていたら、部屋のあちこちをチェックしていたイケメンさんが戻ってきた。
もうひとつ部屋があるが、ガラクタ置場になっているらしい。
ここも使わずに閉めとかなきゃね。
二人でとにかく安全確保の部屋を作り上げる。
二度と獸人世界なんて行かないわ!もふもふが翻訳できないなんて盲点だったなぁ。
「ンチャックさん、とりあえずこれでひとまず安心かな?」
一息つこうとしたらナビさんが話しかけてきた。
----立花様、危険な世界にお連れしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。本社にこの現状を報告したところ、ここ数年のデータが安全だと改ざんされていたようです。行方不明の旅行者が最近増えている原因が、データ改ざんにあるのではないかと本社で問題になっています。社長が後日改めて謝罪したいと申しております----
「いや、不快な思いはしたけどまだ直接危ない目に合ったわけじゃないし…」
「だめだよ、杏子さん、謝罪は受けるべきだ。僕ならまだしも杏子さんは女性なんだ。何かあってからじゃ遅いよ」
----そうです。特に立花様は巻き込まれた方ですから、できる限り安全に楽しんで頂きたいと思います。夜は危険ですから、このまま明るくなるまで部屋にいてください。----
イケメンさんとナビさんに説得され、後日謝罪を受けることにした。
別に気にしてないんだけどね-。
「ホッとしたら、おなか空いた。でもここじゃ食べれるものなさそうだよね。みんなやつれてたし…」
はぁ~とため息ついて肩を落とす。小人族の皆と宴会始まったばかりだったのに、ほとんど食べずに慌てて移動したからなぁ。
「ふっふっふ。そんなこともあろうかと!」
ジャーン、と効果音が聞こえそうなドヤ顔で、イケメンさんがどこからか干し肉を出した。
それは、イノウサ!
「えっ、なんで持ってこれの? 移動の時は体ひとつって…言ってたような?」
あれ?そういえば支払いとかもしてくれてたけど…どこから払ってたの?
「あ~、それについてはだね…」
言いにくそうにポリポリ頬をかく。
「その…最初は信用できる人かどうかわからなかったから、異空間倉庫の事は内緒にしてたんだ。ごめん。」
バツの悪そうな顔で謝る。
なるほど…財布はそこだったんだ、謎が解けてスッキリした。
「ま、仕組みはよくわかんないけど、便利だからいいんじゃない。それより早く食べましょう!」
早く、早く!と肉を催促する私に苦笑いしながら、二人で干し肉をほお張る。美味しいなぁ~
二人でモグモグ食べていると、匂いを嗅ぎ付けたのか、外からガチャガチャと扉を開けようとする音がする。しばらくガチャガチャやっていたけど、開かないので諦めて去っていった。
羊と山羊って草食じゃなかった?そんなに飢えてるのかな…明日、町のまわりを見るのが怖くなってきた。
どちらにしても、今日は徹夜かもしれない、寝たら死亡フラグが立ちそうな気配がする。
ファンタジーの定番だし…
無事に夜が明けるのを祈りながら、私の世界の恋愛事情や、日本の文化についてイケメンさんに話してあげた。「忍者」や「侍」にすごい食いついてきて、かなり引いてしまった。
もう今はいないよ、というとがっかりしてたなぁ。忍者村とかからくり屋敷とか連れて行ったら喜びそう。というか、このチケットで日本に遊びに来たらいいのに。
そういうとそのうちねーとはぐらかされた。
そして、もっと日本の話を聞かせてほしいとねだられ、朝が来るまで私の偏った日本知識を話すのだった…。
まえがき、読むのに邪魔だと気付き書くのをやめました。
宿で、情報をくれたおじいさん羊、食べ物をあげればいい人です。
イケメン、便利グッズを隠してました。杏子が自分の日本像を話しています、嘘もかなり含んでます。結構意地悪(笑)
次回、どうして砂漠化したのか謎が判明します。
羊とヤギ、とぼけた見た目に騙されてはいけません。意外に凶暴だったりします。近づくときは気をつけましょう。




