異世界チケット使用4枚目。その5
初戦闘?です。
杏子が頑張ります。
イケメンは…
さてさて、無事に一夜が明け…村の手伝いをしてくれるなら、気にせず好きなだけ滞在していいよと長老ハチェットさんから許可をいただき、宿と食事の確保はできた。
これは嬉しい誤算だ。あとで長老がこの近辺を案内してくれるそうだ。
暇らしく楽しそうにいろいろ話してくれる。昨日も思ったけど、よく話す人だなあ。
食堂で簡単な食事を食べ、人出が足りないという村人たちの仕事場に、イケメンさんとお手伝いしに行くこととなった。ちなみに私たちは、長老の遠い親戚ということになっているらしい。
お手伝いの場所に向かいつつ話をしてくれた。
<旅行者>にも好意的な民族なので大丈夫だよと教えてくれた。おおらかな民族らしい。
この村の発展にかなり力を貸し、なおかつ長命種族のハチェットさんは小人族ではないのに、異例の「最長老」という村のまとめ役をもう何年もやっているそうだ。
「村長」は、その都度交代しているようで持ち回りで順繰りに来るらしい。町内会の班長制度かな?
小人族もハチェットさんほどではないが、私からすればかなりの長命の種族になる。
人間の寿命なんて、この人たちにとってはほんの数年な感覚で、細かいことは気にしないのは共通なのかもしれない。
私だって、寿命が何百年もあったら…そうなるのかな。
本日のお手伝いの村人の場所にやってきた。どうやら山で狩ってきたものを一時的に保管するところみたい。倉庫兼作業場で、長老も入れるサイズの建物なので安心して中に入る。
後頭部のハゲがまだ治らないのにタンコブまで作りたくない。
昨日見たイノウサが捌かれず、ぶら下がっている。他にも見たことのない動物や野草がきちんと保管されている。結構な量を保管している。
で、現在、…その作業場で、ものすごくでかいキノコが、暴れてる。
エリンギに似てるけど、足がある…縄で縛られてるけど、かなり暴れている。
すっごく気持ち悪い。
村人も頑張って押さえてるけど今にも縄が切れそう。
「危ないっ!」村人が縄を抑えきれずとうとう切れた、そしてその歩くエリンギ?が私に向かってカサカサと走ってくる。
動きが速い!ひいい、いやー、気持ち悪いっ!こっちに来るな!と思わず右手をブンッと繰り出した。
すると、私のビンタがエリンギ?の耳あたりにカウンター気味に入った。
効いたらしくカサカサした動きが止まった。
これは反撃のチャンス!とばかりに、とにかくキノコに足なんてあり得ない!と思いっきり踏んだ。
ドスッドスッドスッ、動かないのをいいことに私は力いっぱい踏みまくった。
最後に「リギ~」と泣いてカサカサと倒れた。やっぱりエリンギ?…
もう、誰か助けてよね!と振り返ったら、みんな私とキノコを遠巻きにして真っ青に震えている。
口々に「強ぇぇ~」とか「あのパンチ見えたか?」とか「一発で動きを止めたぞ!」「惚れたぜ、姉ちゃん!さすが長老の親戚!」 などと遠巻きに見ていた村人から歓声が上がった。
「いやいや、杏子さんはすごいな。あのエリンソクをパンチ一発と足蹴りで倒すとは! エリンソクは美味なんだが、カサカサと動きが素早いし弱点が分からなくてなかなか倒せない。いつもは縄で縛り、弱らせてから裂いて焼いて食べるんだ。いや、とにかく素晴らしい!」
長老、私をベタ褒めです、いやあ、照れるなぁ。じゃなくて!
「ものすごく気持ち悪かったです! それになんで誰も助けてくれないんですか?」
長老始め、イケメンさんとその他大勢をギロッと睨みつける。一様にサッとみんな目を逸らす。
「いや、旨いキノコだけど…気持ち悪いし…」とか「俺、絶対無理!」など。
どうやらエリンソクはレアな食べ物で、めったに取れないから弱点もわからないと。
長老さんもゴメンねと謝っていた。
あれ?
イケメンさんの姿が見えない。
探すと少し離れた所でカタカタ震えていた。
まさか…あれ(歩くキノコ)もダメだったとか?
まわりからは私を称賛する声がうずまいている。気分はいいけど…私がモテてどうするのよ!
「ンチャックさん、大丈夫ですか?真っ青ですよ」
「だ、だ、大丈夫だ。あの気持ち悪いキノコはもう動いていないかい? 君を助けたかったんだけど、恐怖で足がすくんで…はは、情けないな、僕は…。」
しょんぼりと肩を落とす。
一応助けようとはしたものの、エリンソクの気味悪さに硬直したらしい。
全く、この人は本当に私より年上なのかいよいよ怪しくなってきた。
彼女は僕が守る!なんて言った約束はどこにいったやら…腕力があっても、へたれじゃダメだ。
旅行中だけでもなんとかして鍛えないと…。
一方、村人たちは倒れたエリンソクを焼くために、団結して捌きはじめた。
彼からしたらかなり大きいサイズだもんね。裂いても裂いても小さくならない。
裂けるチ〇ズのように頭から足までスゥッと裂く。へー、きれいに裂けるんだ。
ちょっと面白いかも、私も村人に混ざり喜々としてサクサク裂く。もちろん、恨みを込めながら…。
村人が若干引いているが気にしない。青い顔したイケメンさんにも強制的に裂く作業をさせる、だから泣かないの!
エリンソクを裂き始めたら、マツタケの香りがしてきた。ほんとに摩訶不思議、エリンギからマツタケ臭とは…、でもすごくいい香り!
気がついたら、作業場の外にもかなりの村人が集まっていた。そう、エリンソクの匂いは村中に拡がっていた。
長老がここじゃ狭いから、と作業場の外に焼く場所を作り始めた。
ついでに村人が各々家から肉や野菜を持ち寄り始めた。もういっそ、二人の歓迎会兼ねようぜ!ゲッゲッゲッと、いつの間にか来たゲンジおじさんが仕切り始めた。鍋奉行ならぬ焼き奉行の出現です。
なにはともあれ、初の異世界バーベキュー体験!!
私が仕留めたエリンソクもこんがり焼け、村人に行きわたり、長老がそれを確認してからこう言った。
「エリンソクをパンチ一発で仕留めた<剛腕の杏子くん>に乾杯!」
「「「「乾杯~!!!」」」
なんか変な二つ名が付いた気がしたけど、とにかくいただきます!
細長く裂いたエリンソクを素朴に焼いただけ…口に含んだ瞬間、形エリンギ匂いマツタケの味は…シイタケ(国産最上級品)でした。視覚と味覚が混乱するけど、これは美味しい!
ついでにイノウサの肉にもかぶりつく。うあー、ビールが欲しい~、元の世界が恋しくなってきたかも。
この世界に来て初のお手伝いは、なぜかエリンソクを倒すというまるで異世界冒険物の主人公の気分でした。で、現在…私のまわりには、小人族の独身若者が交際を求めてきたり求婚を迫ってきてる。
気分は小学生に囲まれた先生だ。イケメンさんは、女性陣からひそひそと陰口を叩かれているよう。
長老の親戚ということなのに…期待して損したわっ!フンっ!てとこでしょう。名誉挽回できるといいね!
ランチを兼ねたバーベキューを食べたら、また別の作業のお手伝いがあるようで、期待に満ちた小人さんが、仕事を頼もうと私の前に並んでいた…。まさかまたキノコと戦うとかないよね?
歩くキノコは、動きがG並に速いです。杏子のパンチは急所に入りました。一撃必殺(笑)
これを一番最初に食べた人に拍手を贈りたい。
意外に強い杏子が男性小人族のアイドルに!!そしてイケメンは女性陣の嘲笑の対象に…なんか、がんばれ!