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私と子犬な後輩  作者: 三笠 諒
一年目 春
9/21

取り締まり、それはまさに朝の出来事


(はぁ……)

 透子は憂鬱だった。

 それは一昨日の処罰のことが原因であった。

(大丈夫かな、榊君……)


 髪を剃られた榊君達。


 満足げな顔をした清水先輩によって処罰はなくなった。だがしかし。

(どうにも、やらなかった方がマシ……っぽかったんだよなぁ)

 彼らは生き地獄のような顔をして、なにも言わずに風紀室から去って行った。動揺してしまって謝罪や激励の言葉もなにも言えなかったが、どうなったのだろう。罪悪感が募る。

(せめて、謝りに行こうかな……)

 ――でも会うだけでトラウマが復活するからできる限り会わない方がよいと清水先輩は言ってたし……


 透子は大きな溜息をついた。


「おい、北条」

「なん、で……しょうか」


 朝の風紀室。


 透子は清水先輩に呼びかけられた。

「今日の朝の取り締まり、加藤が病欠したからテメェやれ」

「……え?」

(加藤君が、お休み?)

「あぁ?文句あっかぁ?」

 疑問符を浮かべた私に清水先輩はどこぞのヤクザのように睨んできた。やはり……女にも容赦なく殴る清水先輩だ、既に拳が固められてある。拒否したら脳細胞が京単位で消えてしまうに違いない。

「(あ、ああ)ありま、……せん」

 ビクビクと(内心のみ)怯えながら言うと、清水先輩は拳をときながら呟く。

「……ならいいがな」

「……じゃ、あ……早速やっ、て……きま、す」

 ばたばたと足早に去る。――谷口君も今日は用事だとかで遅刻だし……ぶっちゃけ清水先輩と二人きりの風紀室は耐えられません。






(取り締まり……か)

 榊君達に必ず会える。

 だってやっていることは非常によくある校門前での待ち伏せと変わりはないからだ。

 しかし。

(ひ、人前で榊君達にまともに謝れるか?――いや、できない!)


 ――これだけが自信をもって言えるから問題なのだ。


「……はぁ、」


 溜息をつきながら校門前まで歩いていく。

(榊君の親友(マブダチ)ポジションが遠ざかっていく気がするよ……)

 だいたい、榊君が何故嫌がったのかが分からない。榊君に限って、理由が分かってないなんてことないだろうし……よっぽど髪の毛に愛着があったとか?――いや、あのお世辞にも似合うと言えない赤髪に愛着は生まれないだろう。……じゃあ、なんだ?

(うぅぅうう……)

 言いたいこともまとまらず、ひたすら惑う。

 そんな時。


「おい、テメェ……ちょっとツラ貸せよ」


(……!)

 この、この、一世代前くらいの不良のセリフを吐くのは榊君達以外にいるわけがない。声色も榊君だった!いつもより登校時間が早いけど。

 それになんか喧嘩のお誘いみたいな感じだったからここは行くしかあるまい!取り締まった後に榊君達に謝ればよいのだ。

 ……それにしても、あの(・・)榊君に目をつけられるなんて、相手はどんなことをしたのだろう。きっと目も向けられぬ程のひどいことをしたに違いない。

(取り締まらなきゃ!)

 清水先輩に喧嘩の仲裁にいく、と連絡して(舌打ちと何かが壊れる音が耳に残った)五人を尾行していく。彼らは人気の少ない方へ ――おそらく、裏庭に行くつもりだろう――歩いていく。

 ――あ、そういえば。

(この場合、榊君達も取り締まることになるよね!?)

 そうだ。

 喧嘩をふっかけた榊君は一番取り締まらなきゃいけない人間なのだ。

(け、喧嘩の仲裁じゃなくて、未然の阻止を目指さなくちゃ!)

 意気込んで、サッと物陰に隠れる。チラリと東山君が後ろを向いたからだ。

(まさかばれた……っ!)

 僅かに焦る。

 しかしそこはやはり厨二。「……ふ、精霊が騒いでいるな。俺の力に怯えているのか」ですませた。――今だけは彼の性癖に感謝を感じる。

 その後は特にトラブルもなく、無事に裏庭についた。

 さて。どうしよう。なんか入りにくい。

 物陰に隠れながらそんなことを考えていると郁屋君が口火をきった。

「ねぇ、長谷川ァ。君さ、調子のってるよね?一年のくせに」

 それに一年生と思えない身長の相手が生意気に返す。……見覚えがない。あんなに印象的な子、見逃すはずもないし。――あ、髪の毛染めてる。

「センパイたちこそ調子のってるよなぁ?この俺に調子のってるなんてよ」

 その言葉に耐えかねたように広瀬君が睨みつけながら榊君に言った。それに榊君は笑う。

「っ!……なぁ、榊。こいつボコろうぜ?」

「元よりそのつもりだ。……いくぞっ!」

 四人が走り出す姿勢になる。

(今だ!!)

「止まって」

 物陰からでる。

 ぴしり、空気が凍ったように感じた。

 おそるおそる、といった風に四人がこちらを見る。一年生の子は普通にこちらを向いた。

「う、ううううう嘘だろ?まさか――【魔王】ぅぅうううう!」

 その広瀬君の言葉がスイッチになったかのように四人組が騒ぎ出した。なんか「剃られる!」とか「処罰処罰処罰処罰……」とか言ってるけど――ハッ!これがトラウマか!!

(……ん?)

 前の印象が強くて、あまり違和感に感じなかった。……あ、カラー。取り締まり対象。

「……鬘、(したんだ)」

 思ったことをぼそりと呟くと彼らは「やめてくれ!」と叫び逃げて行った。――ゴメン、意味が分からないよ榊君。


 そして気づく。


(……あ、)

(まだ謝ってない!!)

 全速力で走る彼らを追いかけようとすると、腕をとられた。

(な、何!?)

 怪訝な顔で振り返ると、


「あの、姐御って呼んでもいいスか⁉」


 さっきとまるで態度が違う一年生の金髪の美形がいらっしゃいました――。




やっと!子犬な彼が出てきました!


……あれ?六話目で二番目に重要な人がやっとでてきた。おかしいな?

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