誤解、それはまさに魔王の本性
北条透子視点です。
これからは基本透子視点でいきます。他の人の視点の場合は前書きに書きます。
ごくり。唾を飲み込む。
風紀副委員長として校門での取り締まりは何度もやっているが、どうしても慣れない。緊張のせいか顔は無表情で、恐ろしいことこのうえなかったが、透子には気にする余裕などなかった。
今日の取り締まりは比較的順調だ。一人だけ携帯を所持していた者がいただけである。しかも注意をすれば、泣きながらあっさり謝って携帯をこちら渡してくれた。この勢いで今日は取り締まりがスムーズにすむといいのだが。
(ーーそうも、いかなそうね……)
たった今校門を過ぎた集団――榊君、東山君、広瀬君、郁屋君。彼らはパッと見しただけでも複数の校則違反をしている。
(取り締まりかぁ……)
心の中で溜息をつきながら透子は取り締まりに四人に近づいて行った。透子は取り締まりにあまり乗り気ではなかった。面倒臭いとかそういうことではなくて、ただ、
(怖そうだよぉおおおお……)
怖くて近づきたくないだけである。
臆病というか、なんというか……つまり、冷酷として有名な北条透子は小心者であったのだ。口下手なこともあり、残念ながらその性格を知っているのは彼女の両親だけであるが。――そのことが友達ができない理由の一つかもしれないが、直そうと思っても直せないほどひどく、ぶっちゃけ透子自身も「友達五人くらいできるかな」と虚ろな目で呟くことはクラス替えの時期になると頻発する。
(……友達のいない残念な透子ちゃんはこれから恐い人たちの取り締まりをしなくてはなりません。さて、透子ちゃんの運命は!?)
そんな現実逃避をしている間に問題の四人が学園のマドンナ――唯原里菜にセクハラしはじめた。唯原さんが迷惑そうなのでさっさとやらないといけない。躊躇する暇なんてない。唯原さんが可哀想だ。
「(確かぁ………二年生の人だったかな?)……二年(?)、榊、東山、広瀬、郁屋(……で、あってたはず。君付けはさすがにやめた方がいいよね。キモいとか言われそうだし)。止まれ(ばいいなー……)」
あ。
願望がつい声に。
それも威圧的という最悪な形で。
四人のうち、東山君、広瀬君、郁屋君はひどく怯えてる。風紀委員だし、きっとそれで怯えてるんだろう。その気持ちは分かる。だって今年の風紀委員って恐い。委員長は暴君だし、新しく入った子に柔道黒帯の子と毒舌で数多の生徒を不登校に追い込んだ(なんで風紀委員会にいるのかはわからない)子もいるし……なにより……誤解であるが私自身、【冷酷風紀副委員長】として有名だ。この反応は当然だと思う。
「ま、【魔王】……」
挙げ句の果てにこのあだ名。いったい誰がつけた。ふざけてもやっていいことと悪いことがあると思う。【魔王】とかつけないで欲しい。女の子につけるあだ名じゃないことは歴然なのだが。
しかし、彼ーー榊君だけは違った。
「何様だ、テメェ。たかが風紀副委員長のくせして偉ぶってんじゃねぇよ」
鼻で笑い、そう言う。
…………。
(榊くん……)
(かっけぇええええええ!偉ぶってるつもりはないけど!)
とりあえず誤解をとかなければ。彼とは是非友達になりたい。そうしたらきっと卒業する頃には、『マブダチ』になれるはずだ。
「……偉ぶっているつもりは……ない(んだ!そう思ったら許してちょ!)。それより、お前ら(……なんかまた威圧的に……)……その数々の校則違反(多いよ!ここまでやった人この学園で初めて見た!……何?今日私担当だから!?なめられちゃってるカンジ!?ーーさぁかぁきくぅううん!!さすが!)分かっているはず、だ」
榊君は素晴らしい。私を恐れない。友達になれる、絶対。
内心嬉しい気持ちがいっぱいだが、人がこっちをガン見してるので、顔が強張り続ける。……怖いよね、ゴメン、榊君!!未来の親友!!
「すまねぇ、わからねぇなぁ……俺はテメェと違って頭わりぃからよ!」
……驕らない……だと!? しかもわざわざ謝ってくれた!
「……そう、か(なんていい人なのだろう!)。……(一応仕事だし言っておくか……)服装、髪、携帯、セクハラ。……以上だ(榊君は分かってるだろうけどね!)」
榊君は苛々してる。それはそうだ。分かってることを私が反復したのだ。既知のことを何度も言われることは苛立ち以外のなにも生まないだろう。
「……おい、いい加減にしろよ。うぜぇんだよ、テメェに関係ねぇだろ!」
……。榊君が未来の親友に向かってひどいことを言った。――これはまさか。
仲良くなるためのイベント的なものかな!?
だったら喜んで参加しますよ、榊君!
「……風紀委員(と、友達)だ、関係は、ある」
ドラマとかだったらここでBGMが流れ出す所だろう。
榊君は徐に拳を握り、「……死ね!!」と叫んでこちらに向かって来た。まだ夕方ではないが青春漫画によくある、殴り合い、というものであろう。――ここまでやったのだ、榊君と私は絶対に友達になれるだろう。
しかし……親友とはいえ女の子の顔を殴るのはいただけない。せめて違うところにするべきだ。服で見えないところとか。――軌道変更するために拳を掴む。案外勢いが強くて、バランスを崩してしまった。
(あっ!)
空中に投げ出された足が榊君の足にぶつかり、走っていた榊君に足掛けなるものをやってしまった形になってしまった。
(どうしよう……)
榊君はゆっくりと倒れて行く。これでは榊君は顔面崩壊になってしまう可能性がある。なんとかして助けなければ。
意気込むとまた体勢が崩れそうになる。咄嗟に手をつこうとして、
(あ……)
榊君の背中に手をついてしまい、私の全体重をかけられた榊君の体は地面に押しつけられた。
(榊くぅぅぅううん!ごめぇえええええん!)
榊君はどう見ても重症だ。早急に保健室に連行しなければ。
「……暴行も、追加(しとくね!ゴメン、規則だから!)。(保健室まで)連行……する。…………そこの三人も、(保健室行った後に)風紀室まで、ついて(きてね)……来い」
すたすたと愛しの榊君を背負って保健室に向かった。
まわりの視線が痛い。――榊君のことはわざとじゃないよ!だからそんな「そこまでするか……?」みたいな視線は送らないで下さい!ガラスのハートが割れちゃうから!