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私と子犬な後輩  作者: 三笠 諒
一年目 春
4/21

冷酷、彼女はまさに魔王

 皐条学園(こうじょうがくえん)風紀副委員長、北条透子(ほうじょう とうこ)


 この学園で彼女を知らないものはいない。



 なぜなら彼女は、別名【魔王】とさえ言われる程の冷酷さをもつ少女であったからだ。








 校門を頭を派手に染め、制服を着崩している四人の集団が通り過ぎた。下卑た笑い声をあげながら、彼らは禁止されているはずの携帯をいじっている。その声にまわりの生徒は迷惑そうにしながらも怖くてなにも言えず、黙って足を速める。集団はたまたま近くを歩いていた学園のマドンナ、唯原里菜(ゆいはら りな)に話しかけ始めた。どうみても迷惑そうにしているのに気にせずベタベタと肩や腰に触り、ニヤニヤと笑みを浮かべている。


 その瞬間。


「……二年、榊、東山、広瀬、郁屋。止まれ。」

 メゾソプラノの美しい声が響く。名前を呼ばれた四人は立ち止まった。その四人とはたった今まわりに迷惑をかけている集団である。

「ま、魔王……」

 そのうちの一人、東山が膝を震わせながら呟く。その顔は恐怖で彩られていた。他の二人も似たようなものだったが、榊だけは鼻で笑い、言った。

「何様だ、テメェ。たかが風紀副委員長のくせして偉ぶってんじゃねぇよ」

 まわりは榊を信じられないような目で見る。しかし魔王と呼ばれた少女だけは動じず、言い返す。その瞳は冷めきっていた。

「……偉ぶっているつもりは……ない。それより、お前ら……その数々の校則違反、分かっているはず、だ」

「すまねぇ、わからねぇなぁ……俺はテメェと違って頭わりぃからよ!」

「……そう、か。……服装、髪、携帯、セクハラ。……以上だ」

 榊が常人なら苛々してとまらぬであろう言葉を吐き続けているが、少女の美しい無表情は変わらず、声にもなんの感情の露出はない。ただ淡々と必要最低限の言葉を言う少女に逆に榊が苛立ち始めた。

「……おい、いい加減にしろよ。うぜぇんだよ、テメェに関係ねぇだろ!」

「……風紀委員だ、関係は、ある」

 榊が半分脅しても、少女はなにも変わらない。

 榊は頭の中でプツンと何かがきれる音がしたことを自覚した。無意識のうちに拳に力がこもり、駆け出した。

「……死ね!!」

 殴りかかった榊に少女は無表情のまま、拳を止め、足をかけて転ばせ、地面に押し付ける。それは一瞬のことで、その場にいた誰もその動きをしっかりと見れた者はいなかった。

「……暴行も、追加。連行……する。…………そこの三人も、風紀室まで、ついて……こい」

 無表情のままそう言う彼女に逆らえる者は、この場にも、この学園にもいなかった。

 すごすごと四人が退場していくと、その場にはさっきまでの緊張感がなくなり、皆しきりに安堵の息をついた。四人のうち一人しか歯向かわなかった為、この程度で済んだのだ。四人とも歯向かっていたら、どうなっていたことだろう……と。

 唯原里菜はほぅ、と息をついた。その頬は軽く赤くなっており、瞳は熱を帯びていた。

「……お姉様……」

 近くにいた向原陽介(むかいはら ようすけ)はこみあげる興味に瞳を輝かせ、鮮やかなオレンジ色の頭を鞄と帽子で誤魔化しながらその声を聞かなかったことにした。






 彼女――北条透子は女子にはいろいろな意味で好かれているが、男子にはその性格から見た目はとてもよいのに忌避されている。彼らはよくこう言う。「見た目は素晴らしいのに中身が怖い」


 ついたあだ名は【魔王】。

 冷酷として有名な北条透子には皆ぴったりであると認めている。

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