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私と子犬な後輩  作者: 三笠 諒
一年目 春
20/21

北条透子、彼女はまさにターゲット

長谷川和樹(子犬)視点

 


 チェーンメール。


 それは、圧倒的な情報伝達力を持ち、外部への秘匿性が高いというある意味最強の情報伝達手段である。

 馬鹿な和樹にはその案はなかったが、親友の陽介の助言により、その方法を思いついた。


 そう、

 北条透子のお出迎えの学園の全生徒への命令伝達に。


 さすがに彼女の衝撃発言(「足りない」)の翌日にはチェーンメールといえど伝達は行き渡らないし、なにより伝達方法を和樹が陽介に相談する前であったので行えず、チェーンメールの伝達速度を考え、決行は二週間と三日後という微妙な時期におさまった。また、携帯を所持していない生徒が知り合いにいたりしたらその人に学校でそのことを伝えるようにメールに載せた。和樹の教室でもそのことがずっと囁かれている。――止められる可能性のある生徒会や風紀にはまわさないようにという文面を添えていたので止められる危険性は低い。勿論彼らの平均登校時間よりも早めに設定しているし、先輩がいつも一番最初に登校していることは既に確認済みだし、もしかしたらその出来事があったことすら彼らは知らないことになるかもしれない。その結果同じクラスの風紀委員――加藤雅紀だったか、そいつがクラスで妙にはぶられており……「え、なに!?いじめ、いじめなの!?」と騒いでいた。人気者でもあった分(最近学校に来るようになったのでこのことはつい最近知った)、やはり話に入れてもらえないところなどがひどく目立っていた。

 決行日の前日は学校中がなにやら浮ついた雰囲気であった。それは生徒の情報既知率の高さを示しており、つまるところ皆明日が待ち遠しかったのだ。


「……ついに、来た」


 彼女の失望を晴らす日が。


「待ってて下さい、先輩――……絶対に、満足させて見せるッスから!!」






 朝、まだ日は雲に隠れて見えていない。早朝特有の寒さと静寂がどこか神聖に感じられた。ぽつぽつと見える自身と同じ学生服を見る度、どこか誇らしい気分になった。自分の努力が、先輩への想いが形になったような……そういう風にも感じられたからだ。

 校門が見えてくる。いつもは僅かにランニングをしている者や出勤している者がいるだけの早朝であったが、そこだけ七時八時といった通常登校時間帯の混雑さを軽く凌駕する騒がしさを見せていた。

「…あ、来た! 和樹、遅い!」

 イライラしているらしい陽介が恐ろしい形相で駆け寄ってきた。

「あのな、主催者が五分前に来るか普通!? 一番最初に来いよ!!せめて三十分前にいろよ!!参加者ならまだしも――」

「うるせー、オカン。確かに遅かったけどよ……陽介の長ったらしいツッコミと説教はいらねぇ」

「オカン!?誰がだ誰が!! つーか長ったらしい言うな!!」

 小一からの親友というう立場からだいぶ一緒にいる時間があり、こいつの性質みたいなものはだいたい把握している。こいつはなんでもかんでも放っておけないオカンタイプだ。

「……ん、結構集まったな」

「そりゃそうだ。一部を除く全校生徒が集まってるんだしな」

 一部、というのは勿論生徒会役員と風紀委員である。

「クラスの学級委員に頼んで何人来ているか確認してもらったけど――やばいぜ、学園の約二十分の十九が集まってる。欠席者は不登校者と遅刻常習犯。……まあ、真面目な奴なんて生徒会行くしな……とめる奴はいなかったんだろ」

 その結果に満足気に俺は頷いた。

 予想通りだ。

 この時期は行事が少ない。だから生徒達の退屈はピークを迎えていた。その時にやってきた『イベント』だ。食いつかないはずがない。

(よし――)

「おい、そこの」

 適当にそこらへんにいた赤髪にマイクを持ってくるように頼んだ。タイの色から三年だろうが、俺の部下だと思うのでまあいいだろう。そうじゃなかったとしても拳で従わせるだけだ。

 すぐに手に渡ってきたマイクを握りしめ、朝礼用の台に登る。



「黙れ」



 それ程音量は大きくなかった。


 しかし、そこは音一つなくなった。小声での囁き声すら聞こえない。 熱気だけが、興奮した雰囲気が名残のように残っている。


 それは、和樹の有無を言わさない声色だろうか。もしかしたら和樹の容姿に見惚れてかもしれない。現に数人の女子が顔を染め上げ、熱視線をむけてくる。……いや、なにより強いのは生徒の中に燻る高揚感で、早く始めたいからなのかもしれない。

 どの理由も作用して、この状況をつくりあげていた。


「チェンメ見たり、噂話とか聞いて――目的は既に分かってんな?

 そうだ、北条透子先輩――【魔王】様のお出迎えだ!!」


「「「うぉぉおおおおおおお!」」」


 雄叫びが返ってくる。言ってるのは男子のみで、女子は控えめに「おー……」と言っているだけだが、空気的には問題ない。

「よし。じゃあ、流れ説明するぞ。まずは――」





 かつん、校門あたりからローファーが道を踏みしめる音が聞こえた。かつん、かつん、――だんだん迫ってくるそれに俺は直感した。


 ぱん、


 手を軽く叩くと、周りの生徒は姿勢をただして校門に視線を集中させた。これはさっきの説明でそうするように指示をしておいたのだ。

 魅力的な黒髪を靡かせながら、彼女はそこに現れた。


「おはようございます、先輩!!」

「「「おはようございます!!」」」


 俺の言葉の後にほとんどの全校生徒の挨拶が続く。それに先輩はか細い声で返してくれた。――説明しただけでぶっつけ本番だったが生徒達はよくやってくれている。この学園の生徒はノリもいいし、最高かもしれない。 先輩からは驚きの雰囲気が感じられて嬉しくなった。

「先輩……今度こそ、満足してくれたッスか……?」

 その問いに先輩は無反応だった。徐々に不安がうまれてくる。 ――足りない、のか。校外からなんて無理だ。校則で他学校の生徒が学園敷地内入ることは禁止されているし、俺自身が校則を破ることに抵抗はないが……風紀委員の先輩はきっと看過できないだろう。

(どう、すれば――?)

 焦りのあまり目元に熱が集まる。久しぶりの感覚だ。泣きそうになるなんて何年ぶりだろう……?下らないプライドで泣き顔を見られたくなくて、顔を俯かせる。目の前の地面はやけに無機質だった。


「…ありがとう、」


 しかしその熱は雲散霧消し、代わりに口元が綻ぶ。

 驚きで顔をあげると先輩はかすかに頬を緩めていた。それはとても綺麗な微笑で――……俺が今まで求めていたものだった。

「やっと……喜んでくれたッスね」

 形容し難いなにかがこみあげる。

 暫しの幸せな時間は早くに終わりを告げた。


 ――それは突然だった。


「――おい、」


 ひどく落ち着いた声だった。しかし、それはどうしようもなく恐怖を煽って。


「この騒ぎはなんだ?……北条、俺等よりも早く来てんだからわかるよなぁ?」


 金髪を靡かせて、そいつは言う。


「――風紀、委員長……」


 その呟きは誰が言ったのだろうか。しかしそれを確かめることは不可能だった。和樹自身、校門から目をそらすことができなかったからだ。恐怖心なんてものではない。それは、強制力。周りの雰囲気。世界全てがそうしろとでもいっているように呆然と見つめてしまった。



 そう、冷ややかな表情とこの凍りついた雰囲気に似合わぬ無邪気な笑顔と――『暴君』の名に相応しい怒気をかきたてる無表情を。




きりのいいとこできっちゃいました。


次回はギャグ路線突っ走ります。




作者にとって、和樹と委員長は混ぜては危険!なキャラです。……なぜかって?それはね、和樹の先輩以外仕様と委員長の口調が混ざるからです( ´ ▽ ` )ノ

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