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私と子犬な後輩  作者: 三笠 諒
一年目 春
19/21

子犬の考え、それはまさにアホ

大変長らくお待たせいたしました!本当にすみません……。



※前話の長谷川君の口調を訂正いたしました。こちらでは改訂後の口調で書いているので、違和感を感じてしまうかもしれません

 


 あの後ろ姿が、忘れられなかった。


 呼びかけたのに、振り返るどころか気にもとらえず、颯爽と去る少女の背中はひどく大きく見えた。彼女が去ってしばらくした後、やっと正気に戻って自己嫌悪に陥ったのは俺にとってまだ新しい記憶だ。彼女にとっては省みることみない一瞬の出来事だったのかもしれないけれど。


「……先輩、」


 また、お会いできますか?





 先輩についていろいろなことを考えた。


 名前だとか、立場だとか、誕生日とか、好きな食べ物だとか。

 彼女について二年生だということしか知らない俺はなんて不甲斐ないのだろう。それも勝手にタイで判断しただけであるし。

(もっと、知りたい)

 共有したい。その時にこそ、本当に彼女と一緒の場所に立てると思うのだ。

 それと同時に俺に対する先輩について考えてみた。

 好意を持っているようには見えなかった。きっと鬱陶しがっていたのだろう。

 先輩が『先輩』だとすると、俺は……『後輩』?

 ――後輩ってなにをすればよいのだろうか。

 絶対的な服従?……いや、争いや服従を求めるような人ではないと思うし、なにより舎弟を厭った彼女はそんなものはいらないはずだ。言われたら喜んでやるけど。

 パシリ?……いや、パシリになると言った時、彼女の表情はあまり慮しくなかった。――つまり、そういうことは嫌いなのであろう。格好いい。いっそのことパシリになりたい。仕えたい。


 もともと俺は先輩後輩関係の体験は無に等しい。


 そりゃあ、小学校卒業直後であるというものも理由のひとつではあると思うが、部活無所属に、なにより不登校だったという事実がチャンスを悉く潰してしまっていたのだ。

 先輩後輩の会話なんて聞いたこともないし、どうすればよいのかすら分からない。


(先輩のために俺がしてあげられることはなんだ…?)


 姉に聞くと、「ググれ!」と言われた。意味が分からなかったので、小学校の授業で使ったきりの真新しい辞書を開いた。

 先輩は、『同じ場所に先に入った人』としか書いていなかった(なんて適当な!神聖な熟語に!!)。後輩も『同じ場所に後に入った人』としか書いておらず、思わずぶんなげてしまったのは仕方のないことだと思う。

 姉にもう一度聞きにいくと、ドヤ顔でこんな事を言われた。

「…ッフ、よく聞きなさい。先輩後輩とは黄金の関係と(私の中で)比喩されるほどオーソドックスな関係よ。純情の裏に隠れる気持ち……嫉妬に愛情、ここまでおいしい関係ってそうそうないわ。

 でもよく描かれるのは“尊敬”が中心じゃないかしら?私的には物足りないんだけど、先輩後輩の関係はすっかり廃れてしまったみたいね……超えても恋どまりだし、逆にオーソドックスすぎて、あまりメインにはつながらなくなってきてしまったのよね。例えば幼馴染との恋のライバル的な先輩。ああいうの本当にイヤ。わざわざ先輩に愛されてんだから応えるのが礼儀ってモンでしょ!?

 だいたい変なオプションついてないのがいいのに、なんかSFとか魔法とか出てきちゃったり、あくまで派生の関係なんてお呼びじゃないのよ!使うならメイン!メインなのよ!学校でちょっぴり関係あって、それだけって……空気じゃない!しかもそういうのって不思議系少女とかツンデレ出てきて掻っ攫われるのよね!そんなに同級生がいいか!あぁ?

 そういうのって大抵先輩後輩の恋愛だけじゃうけないって勘違いしてるのよね。マジ勘違い乙。そしてそのまま滅びろ。無駄に他のこと出てくるとイラッとしてくるからやめてほしい。というかライバルとかでなくていいよ。ウザいだけだから…って、ああ――ごめんね?つい興奮しちゃった。


 ……――まぁね、和樹にそんな関係になれとは言ってないのよ?あんたにゃ後輩の器はないし、先輩の場合は全てを受け入れてくれるような優しくて癒し系の後輩が必要になるわ。そんな子滅多にいないし、それ以外と組まれてもあんまり嬉しくないわ。凹凸がぴったりとあてはまるような、パズルのピースがしっかりとあわさるような――そういう子じゃないと許せないタイプなのよね、なんか妙にあってるようであってない子連れてこられても困るというかさ、それならもういっそのこと絶対にあわないような子がいい。

 ……あぁごめんね!また脱線しちゃったわ!――で?どうすればいいかだって?」


 姉は一拍おいてから、にこっり笑って言った。


 ――そんなの決まってるでしょ?





 今日。

 朝、七時。

 時間厳守。

 校門前集合。


 その四単語が学校中の不良の頭の中を巡っていた。

 不幸にも間に合いそうにない生徒は顔を青を通り越し、真っ白に染め上げて全力疾走をしている。具合が悪そうな不良も文字通り血反吐を吐きながら学校へと向かっていた。

 しかし時間は無慈悲にその時刻を告げた。


 ピピピピピ


 携帯のアラームであろう、機械的な音が静まり返った校門付近へと響き渡った。


「……時間だ」


 その直後だった。


「はぁっ!ギリで間に合った!」


 とある処罰をおそれてこの前金髪を黒く染めた不良少年が校門を通り抜けた。息も荒い彼は助かった、と肩の力を抜く。


 只今の時刻、7時0分5秒23。


「……――遅刻、だな」


 彼に正義の鉄拳が振り下ろされるのは、あと何秒か。





「……なぁ、本当にコレなんなんだよ?」

「だから言ってるだろ。『決まってる』って」

「……」

 陽介は分からないが、和樹に詳しく問い詰めて、先程の彼の二の舞にはなりたくないと考えているのだろう。視線が先程俺に「説明しろ!!」と迫ってきてウザかったのでボコった屍に向いているから手に取るようにわかる。

 花道をつくるように左右に列をつくる。定規まで使って綺麗につくりあげた。姿勢や態度が悪い奴は、一発殴ったら落ち着いた。

(……先輩)

 和樹のこの行動は、姉の一言から名前すら知らない敬愛する先輩のためにやったことだった。


『毎日お出迎え!』


 ――本人は一人で(・・・)というのを前提としていたのだが、和樹の頭の残念さを見誤り――言い忘れてしまっていたのだ。その結果和樹は全校生徒の三分の一(・・・・・・・・・)でやろうとしてしまっていた。


(……んを?)


 校門のあたりに一般女子生徒が困ったように立ち尽くしていたのが見えた。


(……よし、)



「――おい、」



 和樹がわざわざ(・・・・)声をかけてやると一瞬ビクリとしてこちらを振り向く。その瞬間目を大きく見開いて、紅潮した顔を俯かせながら女は「なんですか……?」と聞いてきた。

「お前も並べ」

「……はぁ!?」

「――あぁ?もしかして俺のいう事が聞けねぇとかそういうことかよ?」

「う……はい、分かり…ました」

 少女は小走りで花道の奥の方へ駆けていった。

「和樹……一般生徒まで巻き込む…ってどういうつもり?」

「たくさんいる方がいいかなと思ったんだ」

「はぁ?」

 陽介はいい加減諦めたのか大人しく花道の一部となっていた。それを見習って俺も一部となる。

 登校してくる一般生徒と似たような会話をくりかえして、その規模は全校生徒の三分の二まで膨らんでいた。

 また新たな一般生徒が校門前で集まっていた。そこに説明をしていると、後ろの方で俺の話を聞いてなかった男子生徒(マジ死ね)が突然叫んだ。


「魔王来た――――――!」


 その一言に俺はだれかかっていた集団を睨みつけた。そして不良たちに、「いいか、あの人が入ってきたら「おはようございます、魔王様!」……だからな?九十度の礼は基本だ、しっかりやれよ」と言って花道に戻った。

 一般生徒もその空気の変わりように気づいたのか、走って花道の奥へ向かって行った。

 あの人の足音が近付く。乱れる様子のない完璧な足運びだ。

 ごくり、唾を飲み込む。


 彼女が、黒髪をなびかせて校門前に立った。次の瞬間、


「「「「「「「「「「「「おはようございます、魔王様!」」」」」」」」」」」」」」」」



 そろった。

 よくやったぞ、お前達。



 先輩も挨拶を返して下さった。とりあえずはお出迎え成功といったところか。

 先輩の前に跪きながらもう一度挨拶をする。朝らしく、爽やかに、元気良く。――先輩から返事はない。不思議に思って顔をあげると、

(女神様ぁぁあああ!)

 思わずにやけてしまう。自分でもキモいってことは分かってるが、顔が条件反射で勝手に動いちゃうのだ。

 先輩が徐に口をひらいた。

「…なに、これ」


 ……――分からないのだろうか?


 疑問に思ったが先輩を待たせるわけにもいかないのでさっさと答える。

「お出迎えッス!!」

 元気良く答えると先輩はその無表情を欠片も動かさずに続ける。

「……なん、で?」

「先輩というのは尊敬するものだと聞いたッス!なのでとりあえず敬意を表すためにお出迎えを計画してみたッス!」

 姉の発言の半分がわからなかったが、尊敬がどうとかこうとか言っていたことから、きっと先輩は尊敬するものだろう。

 ……しかし、ドヤ顔をしてみても、先輩はなにも変わりはない。すこし寂しい。嬉しいとか思ってくれてないのだろうか?

「…、お出迎え、の中…に、三年……いる、けど」

「俺の手下なんで、結果的に先輩の後輩ッス!」

 その言葉に、先輩は訝しげな顔をした。何故だろうか……まあ、きっと想像もつかないようなすごいことを考えているのに違いない。

 それにしても敬語というものは未だによくわからない。小学校ではオールタメであったし、使ったことがないので慣れない。とりあえず『す』をつけとけば敬語になるんじゃね?と陽介が言っていたので実践してみたが……なかなかによかったのではないだろうか!先輩もなにも言わなかったし!

 ――あ、そうだ!

「先輩っ!」

 まわりを見渡していた先輩がこちらを向く。期待を抑えきれない表情で俺は続けた。

「俺、お出迎え……しっかりできましたか?」


 ……――ああ、なんて褒められるのだろうか!


 自分自身でもなかなかに上手くやったと考えている。これはダメだしされる部分はないな、絶対!


 先輩が瑞々しい唇をゆっくりと開く。


 期待に胸が震えた。



「…ありが…とう、でも、たりない」



 前半でテンションがMAXになったが、後半のセリフで俺は愕然とした。

「……っ!!」

 あぁ、馬鹿な俺。

 先輩がこの程度の数でお出迎えされるほど器が小さいわけがないのに……なんでさっきまでダメだしされる部分がないとか考えられたのだろうか。羞恥で胸が一杯だ。唇を噛み締めて、後悔する。

 まわりの一般生徒たちも、先輩の発言の意味に辿り着いたのか、彼女の存在を畏怖している。不良たちでさえ驚愕していた。

(やっぱり……先輩はすごい!!)

 先輩はさっさと校舎に入っていってしまった。


 ――その時の先輩の背中は、やはり大きく見えた。


「……陽介、」

「…………ん、ああ――なんだ?」

「お出迎え、明日もっと増やすぞ」

「分かった――って、はぁ!?これ以上なんてほぼ全校生徒だろ!つーか和樹……知り合いなのか?」

「先輩は俺にとっての女神様だ」

「………………………もうなにも言わないさ。――人については掻き集めとく」

「頼んだ」





びっくり。

お姉さんのセリフで五分の一くらいの長さがある。

しかしたいして意味はない。というか偏見。



更新速度について


受験生であまり余裕がありません。

今年は更新が遅れてしまう可能性があるのですが、来年には一週間に一度くらいのペースで更新できると思います。


この小説をお読みいただいている方々、本当にありがとうございます。更新が遅くて本当にすみません。

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