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私と子犬な後輩  作者: 三笠 諒
一年目 春
17/21

メール、それはまさに儀式

 

「…ただいまー」

「透子ちゃんおかえり!――あら、やけに嬉しそうじゃない?なにかいいことでもあった?」

 家に帰ると、明るい笑顔でエプロン姿の母は迎えてくれた。母はモデルのように美人だ。対して父はそこらへんにいる平凡顔で、透子は母の血を強く継いだのだろう。自惚れるわけではないが、自分の容姿が人並み以上なのは理解している。

「…実はね、お友達とアドレス交換したの」

「……………え?やっと?初めてよね?」

「……皆――クラスの人全員とアドレス交換している人も私だけ聞いてくれないんだー…」

「あら、その子ったら。ドジなのかしら?」

「……、」


 いや、その子はただ単に透子が怖くて聞けなかっただけだと思う。


 私は声に出さず自嘲して、自室に向かう。

 母と普通に会話できたのは、透子が人見知り(・・・・)であることも少し関係している。私は人見知りだ。そのため学校ではあんな風になってしまうのである。しかしそれは家族といった身近な人物には該当しない。まぁ、それは口下手なこととは関係ないので、口数は少なく、あまり自分から話しかけはしないが、日常生活を円滑に過ごすくらいは話せるのだ。

 【身近な人物】を増やせば、きっと私の生活は安定するだろう。しかし、その【身近な人物】になるには【知り合い】というステップが必要不可欠である。そのステップがなかなかに難しい。何故なら。

(なんで誰も話しかけてくれないの!?)

 そう。未だに強く根付いている透子のトラウマ。

 小学一年生の初めて入った教室で。


 透子はいきなりぼっちになった。


 それは緊張から発せられるオーラだったのかもしれない。無表情が怖かったのかもしれない。――どちらにせよ、幼い透子には話しかけるどころか、誰も近づきすらしなかったのだから。成長するにつれ、話しかけてくれる人はいたものの、透子の人見知りはしっかりと完成してしまい、そのチャンスは潰れた。

 中学生も似たような感じで、新しく友人関係をつくろうと入った顔見知りのいない私立でも、透子は教室の中央でぼっちだった。窓際の一番後ろとかだったら目立たなかったのに、よりにもよってワタナベさんが大量にいたせいで中央になってしまい、ぽつんと一人だけ席に座っているのだ。何故皆角に集まっているのだろう。中央に集まろうよ。

「はぁ……」

 ため息をひとつ。

『TOUKO』とボードのかかった扉をあける。この扉の先には某青いロボットがいたりして、某メガネのダメな少年のように助けてはくれないだろうかと想像してみるが、見えた光景は変わり映えのしない、いつも通りの部屋だった。

 制服から着替えて、ベットに寝っ転がる。携帯を開くと、清水先輩から着信記録があった。慌ててかけなおすと、低い声で「殺す」と言ったあと、明日の委員会についての連絡を伝えて、こちらの返事も聞かずに切ってしまった。

(……)

 大変だ。清水先輩は非常に不機嫌だ。

(明日……死ぬのかな)

 遺書を書くかどうか迷っていたところで、使ったことのないメールボタンが目に入った。

(…あ、メール、しないと)

 あまり慣れておらず、辿々しいスピードで文章を書く。まずは唯原先輩に送ることにした。

(…どのくらい書けばいいんだろう?)

 今まで透子は風紀の業務連絡に関しては、電話しか使ったことがなかった。親との連絡なんてしたことがない。だから『メール』というものは未知の領域だった。

 その時、本文記入欄の右上に『10000』という数値があったのが見えた。

(あぁ、これが制限ってことかな?)

 一万もの字数が載せられるということは普通メールとは相当な長文で書くのだろう。そんなもの、私に書けるだろうか?

(…がんばろう)



 しかし、私は数時間をかけても、8764文字しか記入できなかった。ちなみに文には、よろしくということやひどい態度をとってしまったことを詫びる旨を書いた。恥じる気持ちで、件名も制限ギリギリまで書いた後、震える指で送信ボタンを押した。

[メールを送信しています]

 携帯が初期設定のままなので、ひどくシンプルな画面だった。あまり気にしたことはなかったのだが、後で変えよう。きっと私は、これからたくさんメールすることになるのだから。

「透子ー。ご飯よー」

「はーい」

 そういえばお腹すいた。食後に陽介は送ろう。




 さて、次は陽介だ。しかし、下で面白いテレビを見ていたらすっかり遅くなってしまっていた。もう就寝時間も近いし、唯原先輩のようにはっきりした要件があるわけではないので、本当に申し訳ないが、半分くらいの5692文字で許してもらおう。友達だし、きっと許してくれるはず!

 ぽちりと送信ボタンを押す。

「……あ、」

 受信ボックスに一件、新着メールが入っていた。

(…!――唯原、先輩…)

 期待に震える指で、そのメールを押した。

(…………………………ん?)


「やけに、短文……」


 唯原先輩のメールは千と少しくらいの文章で、改行が多くあった。

(改行なんて機能、あったんだ...!!)

 その文には、こちらこそよろしくということと名前で呼んで欲しいということ、また、今日委員会を休ませてまでごめんなさいなどということが書かれていた。

(返信……しないと)

 そう思って返信ボタンを押そうとしたところで、新着メールが入った。

(…陽、介……!)

 そのメールは、ただ一言だけ書かれていた。


 〈おっそろしい長文だな!?〉


 ……。

(九千もいってなかったのに……)

 意趣返しをするつもりで、〈じゃあ何文字書けばいいの?〉と送った。すると返事はすぐ来て、〈長くて数百文字くらいじゃないか?なんか特別なものだったら話は別だけど〉


(……え?)


〈冗談とかじゃなくて?〉

〈…まさかお前、里奈にも長文送ったのか?〉

〈うん。恥ずかしいけど、8764文字だけ。〉

〈だけじゃないから!多い!多いよ!――普通メールは短文でいいんだぜ?〉

〈ふ、ふーん……。これからはそうする。ありがとう。じゃあね、また明日。おやすみ〉

〈おやすみ〉


 ふぅ、と息をついて、無言で唯原先輩への返信を始める。今度は〈分かりました。名前で呼ばせていただきます。こちらも名前で呼んでください。じゃあまた明日。おやすみなさい。〉とだけ送ることにする。

 するとすぐに返信がきた。

(は、速い…)

 唯原先輩はきっと毎日メールしているに違いない!!

 自身で言ったありえなさすぎることに思わず笑みを零してしまう。

(…ん?今度は短い……)

 〈嬉しいな!

 それにしてもあの長文ってギャグだった?付き合って結構長文かいちゃったけど(笑)

 じゃあまた明日ね!〉


 ……。


 考えてみれば、いちいち一万字近く書くわけないよね。みんな使わないよ、そんな面倒な連絡手段。


(あぁ、馬鹿だった……)


 そう思いながら、きたメールを全て保護した。

今回は透子だけが勘違いする話でした!


漢数字と数字がまざって読みにくかったかもしれません……。すみませんでした。

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