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私と子犬な後輩  作者: 三笠 諒
一年目 春
15/21

校舎裏、そこはまさに謎空間

 


(さ、榊君……もう裏庭にいるかな?)


 私は昨日下駄箱に入っていた果たし状を手に廊下を早足で歩いていた。

 四時半の待ち合わせは委員会をやっていたら抜けなくてはいけなくなる。「抜ける」と清水先輩に言える程私は勇者じゃなかったので、しょうがないし休むことにした。昨日加藤くんが病欠した分、私が仕事を二人分全て務めあげたので、今日私が休み、加藤君は私の分もやることになったらしい。結果的にはプラスマイナス0だけれど、やはりどこか心苦しい。ついでにだれかさん(清水先輩)につねりあげられた頬が痛い。

(……)


 ――仲直り、できるかなぁ?





 校舎裏に行くと、そこには女子制服を着た人が立っていた。寂れた校舎裏は、しきつめられた石畳に苔がはえていた。薄暗く、いかにもいじめがありそうな感じである。


(さ、榊君……!!)


 榊君はどうやら変装をといたらしい。間違いなく美人だ、美人に決まってる。

 人影に駆け寄ると 、その人は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

(…ん?)

 若干体格が違うような気がしたが、誤差の範囲内だろう。きっと榊君はシークレットブーツや肩パッドを使っていたんだ。

「あ、あの、北条さん」

 高い声。

 ……まぁ、いままでがんばって低くしてたんだろう。この綺麗なソプラノから榊君みたいな微妙に低い声がでるとは思わないけど、そうなんだろう!さっすが、榊君。


 それにしても。


(お、おおぉぉぉ……)


 さっきちらりと見えた榊君は美しかった。艶のある毛先がカールしたセミロングの茶髪にすこしたれ気味の瞳、ぷるんぷるんの唇。きめ細やかで丁度よいくらいに健康的にやけている肌。ちらりと見ただけでもこれだ。じっくり見たら思わず声をあげてしまうだろう。その変わり様は整形級だ。化粧とかでどうにかできる差じゃない。……じゃあ榊君はきっとそういうののすごい技術をもっていて、今までの平凡顏は偽物だったのだろう。

(…あれ、既視感?)

 愛しの榊君の顔は頭にしみついているけど、どうにも一致しないし、これで既視感は生まれないだろう。似ている人が知り合いに居たっけ?

「…何。」

 緊張のあまりろくに喋れない。あぁあ…せっかくの仲直りのチャンスなのに!すごく無愛想だ。顔もひきつってて、笑おうとしているのに笑えない。

「…あ、ああああの、榊たちのこと、本当にありがとう!」


 ……What?


 ――あぁ、本当の自分に気付いてくれてありがとうってことか。複数形なのはよく分からないけど。

「…別、に」

「……う、あ、ぇ……」

 榊君が奇声をあげだした。

(さすがだ、超人の考えは私には理解できない!)

「…ほ、北条…さん」

 おそるおそるといった風に切り出す少女。それを私は期待をこめて見つめた。

「…ぁ、」

「……?」



「あたしのっ!お姉様になってください!」



 ……What's(どう) the matterたの!?


 というか地味にデジャヴなんだが。

 数秒固まってしまった。

 次の瞬間。


「おい!里菜!!」


 校舎裏に響き渡る声。その声には聞き覚えがあった。

「陽介!!」

 榊君が男の名を叫ぶ。

 現れたのはオレンジ色の爽やか美形だった。

「……なん、でい…るの?」

「悪い、さっさと帰れと聞こえるのは俺だけか?」

 …いや、そんなニュアンスはこめていない。純粋に聞いているのだが。

「いや、お前はそんなことしないよな。疑って悪かった。

 ここにいるのはな……――単に好奇心だ」

 そう言って陽介はドヤ顔をする。

 ……よかった、誤解が解けて。


 しかし、次の瞬間私は信じられない言葉を聞いてしまった。


「ドヤ顔ウザい」

「あはは、悪い」

「キモイ」

「口悪いぞー…ほら、愛しのホウジョウセンパイの前でいいのか?」

 ニヤニヤと笑いながら私を指差す陽介。榊君は――さっきまで辛辣な言葉を吐き続けていた美少女は、すごい勢いで振り返って、なにやら呟いている。

「…っ!!……あ、あの、これは、その……」

 可愛いなぁ。可愛いけどなぁ。あれ見ちゃうと後ろに悪魔がいるようにしか見えないんだよなぁ。小悪魔とかじゃなくて、もっと怖い感じの、魂食ってそうな。……榊君のイメージは天使→悪魔みたいな感じ。

「…陽介」

 口を開くと、榊君の肩がぴくりと動く。……そんなに今の言葉が怖かったのだろうか。あれ?呼びかけたの陽介なのに。というか貴女がさっきから吐いてる言葉の方が恐ろしいよ。

「ん?」

「…里菜って、誰?」


 空気が、凍った。


「………え?は?」

 陽介の口から意味のない言葉が零れ落ちる。

「……」

 榊君は呆気にとられてこちらをただただ見つめている。さっきまでの焦りようが嘘のようだ。

「…里菜って、――そこの女の子だよ。目の前にいる。聞いたことぐらいあるだろ?つーか見たことあるだろ?唯原里菜。別名学園のマドンナ…ぷ、くく……」

「なに笑ってるの猛烈に不快。だいたいあたしがつけたわけじゃないし」

「そうだな、わりぃ。……く、」

「その口縫うわよ」

「分かった分かった!だから裁縫道具を出してくるのはやめろ!」


(この少女は、唯原里菜先輩?)

既視感はそのせいなのだと納得する。榊君のことで不安すぎて、思いつきもしなかった。


(じゃあ、あの果たし状は――)


 榊君からじゃ、ない?


 そう分かった瞬間、一気に脱力した。

 くるりと後ろを向いて歩き出そうとする。

「え?」

「…あ…」

 言い争いをしていた二人がこっちを見てるけど、気にしない。

 今はたった一人の親友との仲直りを考えなきゃならないから。こんなことしている場合じゃない。

「…待って!」

 後ろから肩をつかまれ、振りむかされた。

「…な、に」

「お、おお返事、を…」

 その言葉に首をふると、唯原先輩はきゅ、と唇をかみしめて、なにかをこらえるように下を向いてしまった。

 陽介がその様子を見て、信じられないとでもいうかのように大きく目を見開いた。

 やがて、唯原先輩はぽつりと話し出した。

「…そう、よね。元々、期待も半分だったけど」

 肩をつかむ力が弱くなる。

「榊達から助けられた時、あぁ、王子様が来たんだ…って、思った。それから、自然と目が姿を追いかけるの。なにか偉業をなしとげると誇らしく思えるし、失敗したときは、残念に思うわ。

 その時に思ったの。」


 一拍おいてから、唯原先輩はいままでの鬱々とした表情を消し去り、幸せ一杯の表情をした。



「――ああ、あたしは恋をしたんだなぁ、って」



 ……あぁ、いいなぁ。

 でもなぁ、それってなぁ。

「……それって、ただの憧れじゃね?」

 陽介が本音をこぼす。同じ気持ちです。

「…あこ、がれ?」

「ああ。恋情というよりそっち系なような……」

「……。……まあ、そんなことはどうでもいいのよ。


 北条さん、もしよければこれからも仲良くしてもらえないかしら?」


 ……。

 ――なにがどうしてそうなった?


(友達が増えるのは嬉しいけど)

「おいおい、どうした?」

 陽介が私の心を代弁する。非常に便利だ、こいつ。

「だって、仲良くしたいんだもん、お喋りしたいんだもん」

「……はぁ。――透子、いいか?」

 苦笑を浮かべながらそう問いかける陽介に、同じくかすかに苦笑を浮かべながら頷きかえした。

「いい、よ」

「……いやったぁあああああ!

 ――あ、これ連絡先。メールして」

 そう言ってから、「ごめん、用事あるの!」と去って行く唯原先輩。その後ろ姿は嬉々としたオーラがただよっている。

「……ふざけた奴だけどさ、仲良くしてくれないか」

「…今、了承…した」

「そうだけど!もし建前とかだったら嫌だし――……。あ、そうだ。俺たちもアドレス交換しようぜ」

(…!)

 そういえばアドレス交換は事務的なもの以外は、友達の儀式なのだ。やらないといけない。

「赤外線で送るぞ」

 わずか数秒で済んだ儀式。

 妙に感動を覚えた。

「……よし、大丈夫だな。後でメールしてくれ。

 俺も用事あんだ、またな!」

 陽介は爽やかに笑って去って行った。


 一方私は、中学入って最初の『またな』に感動を覚えて、その場につったっていた。





いろいろすみません!


更新めちゃくちゃ遅いこともそうですし、なかなかうまくかけないことも…

最近スランプかもしれない。


※ちなみに唯原先輩が透子に抱いているのは憧れ以外のなにものでもありません!禁断の楽園とかでてきません!


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