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私と子犬な後輩  作者: 三笠 諒
一年目 春
10/21

喧嘩、それはまさに運命の出会い

長谷川和樹視点。

子犬な後輩さん。

 サボりにサボって久しぶりに来た学校。

 四月の終わりだというのに、これで入学式と合わせて二回目だからか(不良だっていってもさすがに入学式は来る。クラス発表もあるし。寝てたけど)、あまり雰囲気に慣れない。登校時間もよく分からず、相当早く来てしまった。現に、教室には人の姿はない。

 入学式で知った自分の席に座る。席替えしてないといいのだが。机にだらりと体を預け、寝る体勢になる。HRが始まったら教師が起こすだろう。

 暖かい春の日差しが俺を包む。出席番号では後ろの方で、窓際だったから、日当たりは最高だ。開け放った窓から入る涼やかな風が心地よい。ひらひらとピンクの花びら――きっと桜だろう――が教室で踊っていた。

(……学校も、いいかもしれない)

 そう思っていた。


 その時。


「おい、テメェ……ちょっとツラ貸せよ」


 穏やかな空間が音をたてて壊れたような気がした。


 億劫だったが、入り口の方へ視線を向ける。――するとそこには。

(――へぇ。榊佑人。)

 この町で三番目くらいに強い集団のリーダー。おもに四人組で行動しているらしい。その三人とは後ろの奴らで間違いないだろう。

「いいぜ?貸してやるよ」

(ただちょっとその言葉は古いと思うけどな)

 思ったことを思わずポロリなんてせず、挑戦的な笑みで言ってやった。勿論、先輩に対する尊敬や遠慮は欠片もない。それにこいつらは嫌そうに顔を歪めたが、なにも言わなかった。

「ついてきて、」

 郁屋桐真がそう言って、すたすたと歩き出す。やはり見覚えのない道だ、どこに行くのか検討もつかない。

(それにしても、)

 ――俺はなにかしただろうか。

 あの(・・)榊佑人に目をつけられるなんて。

 榊佑人はいいとこのボンボンで、滅多に喧嘩や呼び出し(そういうこと)をすることはない。なのに何故か学校に来るのが二回目の俺に目をつけたのだろうか?

(……いや、もしかしたらそれが原因か)

 サボりまくってる――そんな感じか。

 しかし腑に落ちない。

 あの榊佑人がそんなことごときで目をつけるか?――よりにもよってこの俺に。

(まあ、いつか分かるか)

 適当に思考を完結させ、さっきから残念なことをほざいている別の意味で有名な東山弘明の言動に耳を傾けた。





「ねぇ、長谷川ァ。君さ、調子のってるよね?一年のくせに」

 郁屋桐真が沈黙がおりていた空間を破り、睨みつけながら言う。しかしその童顔のせいであまり怖くない。……哀れな奴。

 他の三人は東山には触れないが、残りの二人は少し面倒臭そうだ。

(……ふぅ~ん、)

 だいたいの顛末がその一言とまわりの反応で予想できた。

 まず発端は郁屋桐真だろう。全然学校に来ない一年がやっと来たと思ったらキンキラキンに髪を染めてることにムカついた郁屋桐真(これは自身の身に起こった一昨日の事件も大きな原因であるが、この思考をしている長谷川和樹は知らない。)が榊佑人に制裁を持ちかけ(見た目を裏切らず集団行動が嫌いなのである。どこの女子だ)、それをそんな乗り気ではないが、郁屋桐真の癇癪が面倒臭かった榊佑人はそれを受理し、今に至るといったところか。――というか、

(“俺”がどういう立場か、知らないのか)

 まあ、それほど喧嘩をしていて本名は名乗らない。知らなくても仕方ないだろう。漫画じゃあるまいし。俺的にあの「俺の名前は○○だ!覚えておけ!!」ってノリ恥ずかしいと思うんだ。……え?古いか、コレ?

(……軽く匂わせておいて適当に退散させるか)

「センパイたちこそ調子のってるよなぁ?この俺に調子のってるなんてよ」

 そう挑発するように言うと、ぴくり、反応したのは榊佑人のみ。榊佑人はさすがと言ってもいいが、その榊佑人の反応にすら怒りで気づけない郁屋桐真と広瀬隆俊はあまり褒められない。反応せずただ無表情でカメハメ波を練習している一人には触れたくもない。

「っ!……なぁ、佑人。こいつボコろうぜ?」

 広瀬隆俊が顔をひきつらせて言う。榊佑人は先程の違和感をねじふせて、笑って答える。「元よりそのつもりだ。……いくぞっ!」

 四人(驚くべきことに東山の動きが揃ってた)が走りだそうとする。


 その瞬間。


「止まって」


 女神が降臨したのかとさえ思った。


 凛とした声が響き渡る。妙に耳心地がいい。どれくらいかというと、目覚まし時計の録音音声をすぐさまこれに変えて欲しいくらいだ。

 さあ、この素晴らしい声帯を持っている女神は誰だ、と声がした方を向くと、

(ふわぁぁぁあああ!!)

 美少女。

 さらさらと腰まで流れる黒髪は日光を浴びてきらきらと輝き、かいでみたらよい香りがしそうだ。すらりとのびる手足はバランスもよく、思わず触りたくなる白磁の肌だ。胸もけっして大きくはないが小さくもない。ちょうどいいくらい。好みだ。なによりその顔は陶酔してしまいたくなるほどの美しさをもっている。少しツリ目がちな黒瞳(こくどう)、形の良い鼻、ふっくらとしたピンク色の唇。清々しいまでの無表情がなんともいえない。ただ笑顔でも綺麗だと思う。どんな顔してても綺麗と言える自信がある。凛としているが儚くも感じる雰囲気が少女をさらに引き立てていた。

(女神様ぁぁぁああああ!!)

 あぁ、もう!この人がいるなら毎日来て見つめていればよかった!

 後悔していると視界に不思議なものが入った。

(……?)

 榊達がさっきまでの不良然とした悪どい笑みが嘘かと疑う程のひきつった顔をしている。その顔からは紛れもない恐怖が滲み出ていた。

「う、ううううう嘘だろ?まさか――【魔王】ぅぅうううう!」

 あののらりくらりとして怒ることはあれど滅多に怯え、叫ぶことはない広瀬隆俊が今にも泣きそうな顔で叫ぶ。――え?

 びくびくと震えながら、意味の分からないことを呟く四人は、女神の「……鬘、」の一言で退散した。――え、わけが分からない。なに、あいつら鬘なの?

 それはいいとして。

 この人はたった一言で暴力すら使わず喧嘩をおさめた。俺には到底できない。俺の心に生まれたのは、

(か、か、)

「かっけー……っ!」

 今まで人に向けたことのない、尊敬というものだった。

 呟く程度の音量だったから、女神に聞こえなかったようだ。

 こちらを一瞥すらせずに、帰っていこうとする。

(え、)

 なにも考えず思わず腕をつかんでしまった。

 不思議そうにこちらを振り返る女神にどう誤魔化すか迷ってうっかり欲望をいってしまった。


「あの、姐御って呼んでもいいスか!?」



自分で更新速度の遅さにびっくり。

……もっとがんばろ。

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