だいっ嫌い!!
「どうしたんだよ?」
「何でもない。あっちいこう。」
美央は俺をソファーにつれていくと、テレビをつけて「お兄ちゃん、仲直りしてくれる?」と呟いた。かき消されそうな消え入りそうな、そんな声だった。
「美央が俺のこと避けるのをやめたらな。」
「……意地悪だね、お兄ちゃん。」
「どこが。」
「わかった。じゃあ、仲直りして?」
差し出された手を握ると、しっかりと握り締められた。どうやら仲直りの握手、らしい。
「お兄ちゃん、甘えても良い?」
不意にそう言われ、俺は困惑したが、「どーぞお好きなだけ。」と言って両手を開いてみせた。
「ありがとう。」
美央は、そういうとポテッと俺の足の上に頭を落とした。髪の毛がなびいて光っている。
「美央、どうしたんだ?」
なんとなく美央の頭を撫でながらそう尋ねると、美央は、「私、ペットになりたかった。」と見当違いな答えが返ってきて、俺は困惑するばかりだった。
「ねぇ、お兄ちゃん。私のこと好きだって言ってくれたよね?今でも?こんな私でも?」
「当たり前だろ。」
「……そうだよね、兄妹だもんね。簡単に嫌いにならないよね?」
「……そう、だな。」
偽りの感情がぐらつく中、俺はひたすらに耐えていた。
「……やっぱり、私、ペットになりたかった。まだペットの方がよかったのに……。」
美央はそういって何も見たくないというように俺の足に顔を押しつけた。
「美央?」
今日の美央はわけがわからなさすぎる。
「お兄ちゃん……本当の事を聞かせて。恋愛対象で好きな人はいる?」
「……いる。」
「その人と結婚したい?」
「できるなら。でも無理だな。」
「……無理かなんてわからないじゃん。結婚後も私とも仲良くしてね……節度はわきまえるから……。」
俺はグッと堪えると、「美央はわかってない。」とだけ呟いて、テレビに視線を移した。美央と同年代くらいのアイドルグループが様々な色をまとってチカチカと笑っていた。だが到底美央には及ぶまい。
「……お兄ちゃん?」
ふと、顔をあげ、俺の目の前にきた美央を俺は考えなしに抱き締めた。
怒りとも、憎しみとも、悲しみとも似つかぬ感情だった。ただ、わかったのは、その感情が喜び、嬉しいなどの気持ちからきているわけではないことは、はっきりしていた。
「おに……っ!?」
美央は慌てたのか一度俺から離れようとした。だが、美央の力は弱く、俺の力にかなわなかったので、離れようとした事実すらなくなったように見えた。
やがて美央は落ち着くと、俺の肩に手を回し、ギュッと服をつかんだ。
「ずるいよ……お兄ちゃん……好きな人いるくせに。」
それらのセリフでなんとなく、俺にも今回の美央の言動がわかってきたかもしれない。もしかしたら美央も俺のことを……。
「いるよ。」
「もうやだ、やだ、やだ!やだよぅ!離してっ!」
美央は肩から手を離すと暴れはじめた。さっきよりも強い力で、俺がきつく抱き締めていても逃げられてしまいそうだった。
「美央。」
「何、もうやだ、苦しいよぉ……!」
「美央が好きなんだ!」
叫ぶ美央を前に、俺も出来る限りの声を振り絞った。美央は、ピタリと行動を制止すると、「嘘だぁ。」とくしゃくしゃになった顔で俺を見た。
「嘘なんて、俺がいつ言った?今まで言った?俺はずっと本気だった。」
美央は赤面すると、「ほん、とに?」と呟いて俺を直視した。
「嘘なんて言ってどうする。」
「体目当て、とか。」
「よーしよーし。よーくわかった。じゃあ今すぐ襲ってやろう。」
「や、ちょっと待ってよ!」
焦った美央に思わず苦笑すると、「俺が美央を襲うなんてそんなんいつでもできたんだよ。」と言ってまた画面に目を移した。
今度は色とりどりのカラフルな商品が並んでいて、お馴染みの女優やら男優やらがそれらの紹介をしていた。
「お兄ちゃん……私、お兄ちゃんのこと……ううん、敦くんのこと、好きになってもいいのかなぁ……?」
ふと、俺がテレビから美央に視線を戻すと、美央は顔を真っ赤にして俯いていた。
「……なっちゃいけねぇよな。本来は。義兄妹ならまだしも、俺らは同じ腹から生まれてきたわけだし……法律上は禁止……だよな。」
「もう、なら私にあんな事言わないでよ!好きになっちゃいけないなら、もう知らない!お兄ちゃんなんかだいっきらい!馬鹿!」
美央は怒ってソファーから立ち上がろうとした。
だが、俺は美央の手を掴むと、「本来、法律上は、の話だろ。俺だって苦しんだよ。でも無理なものは無理なんだ。俺は法律を破るような行為を美央としたいとも考えるような野郎だし、美央だって、法律が、はいそうですか、なんて引き戻せる位置に今いるのか?」と本音をぶちまけてみた。すると、美央は、またもや赤面して、「お兄ちゃんの馬鹿……。」と呟いた。
「まぁいいよ。美央が俺のことを嫌いになります、はいサヨウナラで終わるなら、今、俺の前からいなくなってくれても。」
俺はそう言うと、美央の手を離した。
すると、美央はギュッと手を握ると、「お兄ちゃんは、やっぱり意地悪だね。」と言って俺に抱きついてきた。
「今のを聞いて、帰る子なんているの?突き放さないでよ。法律が引き離そうとするなら、せめてお兄ちゃんだけは私をつかまえててよ……。」
抱き締め返すと落ち着いたのか美央は、ちょっと笑って「お兄ちゃんの彼女になるなんて不思議。」と言った。目の前に現れた笑顔に、思わず唇を重ねたくなったが、グッと堪えた。
だが、美央は真顔になって俺の顔を見ている。
クソッ誘ってんのか?そう思った時、美央の顔は数センチくらいまで近づいてきていた。
なんとなく目を閉じると、柔らかいものが唇に触れた。俺はソレを合図に何かが吹っ切れたらしく、美央の頭を手で支えると、少しばかり強引なキスをした。
もちろん美央はすぐに咳き込んでしまった。
問題こそまだ山積みなものの、俺は幸せだった。