ドンッ
会社のパソコンの電源を落とし、机の側面にかけていた鞄を手に取る。そして、私は仕事を終え、帰路に就いた。
商業ビルのロビーを出て、人通りの少なくなってしまった夜道を歩く。今日は残業が多く、夜遅くなってしまった。あの無能上司目。仕事を押し付けやがって…。
そう呪詛を内心でつぶやきながらコンビニに立ち寄り、今日の夕食を買う。偶然しょうが焼き弁当が安かったので、それと焼酎を買ってコンビニを出る。もうすぐ家に着くというところで…
唐突に異臭を感じた。腐敗集のような、ひどく辛い臭いだ。
周囲を見回す。すると、それなりに離れた場所に人影を見つける。しかし、不自然だ。動きが妙に鈍く、よたよたという祇園が似合うような足取りをしている。わずかに見える白いシャツはボロボロで、今にも脱げてしまいそうになっていた。
何より、周囲に漂う異臭はその男から放たれているように感じた。
私はものすごい嫌な予感を覚えた。心臓が早鐘を撃ち始める。そして、その嫌な予感は現実となった。
その人影が電灯に照らされた瞬間、私は悲鳴を上げた。
それはいうなればゾンビだった。皮膚ははがれ、腐った筋肉が露出している。白濁した眼をこちらに向け、半開きの口からは涎のような体液がこぼれていた。
胸には大きな棘が刺さっていて、間違いなく致命傷であることを示している。
しかも、その体は血まみれで、口元にも血がびっしりとかかっていた。
私は一目散に逃げだした。しかし、異臭は消えてくれない。途中で買ったしょうが焼き弁当の入ったコンビニ袋を投げ捨て、無我夢中で走る。
心臓が痛いほど拍動し、全身の筋肉も引きつったように動かしにくい。
それでも走り続け、自分の住む安アパートの影が見え始めた時、
「あああぁぁ…」
といううめき声が背後から聞こえた気がした。追いかけているのだ。まだあきらめていないのだ。私はそう思った。
1階の自分の部屋の扉に突進するように駆け込み、震える手で鍵を開ける。そしてできる限り素早く家の中に入ると、勢い良く扉をたたきつけ、後ろ手に鍵を閉めた。
ずるずると扉に背中を預けてしゃがみ込む。そして気が付いた。この腐敗集を発しているのは自分の服体と。どうやら臭いが移ったらしい。つまり、追いかけられていると感じたのは気のせいだったのだろう。
そのことにほっと息をついた瞬間、
ドンッ!!
と寄り掛かっている扉が強くたたかれた。
反射的に飛び上がり、足を震わせながら扉の窓から外をうかがう。そしてそこには…
闇が広がっていた。
何もなかった。…のだろうか?




