ランプ ~順番待ちの世界~
家のごたごたを片づけて合流した相棒は、三日経っても眠り続けている。
一体、なにがあったんだ。だから、目を離したくなかったんだ。
ふと、傍らに置かれた相棒の銃に目をやると、エネルギーゲージが吸い取られるように減り続けていた。
募る不気味さと苛立ちに耐えかね、部屋に入った時から鼻についていたランプを手で払った。
俺の知らない持ち物。忌々しい!
ガシャン!
硬質な音が部屋に響き渡り、胸がすっきりした。
死んだように眠っていた相棒が、ゆっくりと、その瞼を持ち上げた。
マイクは露店の前で足を止めた。
通りは夕暮れの喧騒に包まれているのに、その一角だけが妙に静かだった。人の流れがそこだけ避けているようにも見える。
並べられているのは、どれも古びた品ばかりだ。剣、壺、装飾品、用途のわからない機械のようなものまである。
その中に、ひとつだけ目を引くものがあった。
ランプ。きれいに磨かれていて、他の商品とは違って見える。
見ていると、視線が引き込まれるような感覚があった。
「それは、お買い得だ。安くしてある」と店主が言った。
マイクはランプを手に取る。
ずしりと重い。
「使えるのか」とマイクが言う。
「試してみな」と店主が火打石を差し出す。
マイクは火を灯した。
小さな炎が揺れる。
「……つくな」とマイクが言う。
「風情があるだろう」と店主が笑う。
「確かにな」とマイクも笑った。
マイクは少しだけ迷ったが、銀貨を置いた。
「貰っていくよ」とマイクが言う。
帰り道、この惑星の二つの月が上って来た。
宿に戻ると、マイクは部屋の扉を閉めた。
椅子に腰を下ろし、ランプを机に置く。
「さて」とマイクがつぶやく。
火を灯した。その瞬間、壁に影が浮かび上がった。
「……なんだ、これ」とマイクが眉をひそめる。
ランプには模様がない、それなのに壁に模様が映っている。
ランプを触るとかすかに凸凹がある。それが模様になっているのか?
光の屈折とかそんなやつってことか?
まぁいい。
ベッドに寝っ転がった。
気がつくと、マイクは知らない道を歩いていた。
「……は?」とマイクは立ち止まる。
トンネル?下も壁も白くてかすかに光っている。
胸の奥がざわつく。
危険だ。
だが、すぐに死ぬような気配ではない。
マイクは腰に手をやる。
銃の感触。
「あるな」とマイクが小さく言う。
エネルギーゲージは満タンを示している。
共に死地をくぐってきた相棒だ。
もう一人の相棒は五日後にやってくる。
しかめ面の整った顔が脳裏に浮かぶ。
早く会いたいと思って、あわてて打ち消す。
そのとき、前方から女性が走ってきた。
必死に走っているのだろう、息が切れている。
マイクの前で止まって息を整えている。
やがて、
「どこからきたの?」と女性が言う。
マイクは一瞬沈黙した。
「……どこから?」とマイクが言う。
「そんな服、見たことない」
「そっちの服もだ」
女性は少し目を見開き、興味深そうに見つめてくる。
「まさか、知らないの?」
「なにをだ」
「ここ」とあたりを示した。
マイクは彼女をじっと見た。
薄い布を幾重にも重ねた衣装。風に揺れるたびに色が変わる。
「……妙な服だな」
「似合ってるでしょ?」
「似合っていて、きれいだ」
やがて広場に出た。
そこには多くの人がいた。優雅な服を着た男女が、円卓のような場所で食事をしている。
だが奇妙だった。
全員が手づかみで食べている。
それなのに、不思議と下品には見えない。動作の一つ一つが洗練されている。
そして、妙に明るい。
周囲の会話が耳に入る。
「今日は、どこに?」
「北の五番にしようかと」
「わたしは南の八番に」
「では、またここで」
彼らは奇妙な目交ぜをして立ち上がった。
マイクは眉をひそめる。
「場所か?」
「そうよ」
「意味は?」
「そのうちわかる」
「そうか」
女性が腕を引いた。
「ここで食事をしましょう」
「そうだな」
「時間がないの」
中央の砂時計を指す。
砂が落ち続けている。
「あれが落ちきるまでしかいられない」
「なにが起きる」
「終わるの」
「曖昧だな」
「説明してる時間がない。食べましょ」
「そうか」
マイクは座る。
「……食うしかないか」
「そう」
「美味いな」
「そう思う? よかった」
「そうか」
食事が終わる。
女性が立ち上がる。
「さあ、行きましょう」
「どこへだ」
「東でいい?」
「ああ」
「こっち」
マイクは一瞬だけ迷う。
「戻れるのか?」
女性は首をかしげた。
「戻るってなに?」
マイクは言葉を飲み込む。
「……いや、いい」
しばらく歩いて振り返る。
広場は消えていた。
「消えたな」
「そういうものよ」
「そうか」
分かれ道。
人々が別れていく。
「別の場所に行くの。どこへ行ってもいいのよ」
「なるほど」
やがて止まる。
「ここは、東の三番」
「そうか」
女性がため息をつく。
「つまらない人」
「聞きたいことはある」
「なに?」
「ここはどこだ」
「東の三番」
「それ以外ないのか?国は?」
女性は首をかしげる。
「国? なにそれ」と女性が言う。
マイクは沈黙した。
「じゃあ、なんでここにいる」
女性は少し考えた。
「食べられる順番待ち?」
「……何にだ」
女性は微笑む。
「その時にわかる」
やがて、二人は歩いて広場に戻った。
そして、南へ行ったり、北へ行ったり、東へ行ったり。
繰り返した。
歩いて、好きな場所へ行く。
戻る。
食べる。
話す。
また、出かける。
繰り返した。
西の六番にいる時、空気が変わった。
重い、粘るような圧。
「来た?」
「なにがだ」
「順番が来た」
マイクは銃を抜いた。
「……待つだけのつもりはない」
女性が驚く。
「やめて」
「いいや」
黒い影が現れた。
形が定まらない。
「……あれか」
影がゆっくり近づく。
自信に満ちた足取り。
「格が違うな」
「逃げて」
「いいや」
銃口を向ける。
「最後の一矢。いや一閃か」
マイクは相棒を黒い影に向けた。
一射、二射。影はマイクを認識した。
マイクは影が近寄るのを待った。
その瞬間。
がしゃん、と音がした。
空間が歪む。
黒い影がくしゃと折りたたまれる。
「なっ」とマイクが声を上げる。
振り向く。
女性が手を伸ばしていた。
意識が引き戻される。
「……はん?」とマイクは自分の出した声を聞いた。
青い目がこちらを見ていた。
「目が覚めたか」
「……ここは」
「宿だ」
しかめ面に変わる。
「三日以上寝てたぞ」
「三日……?」
「夢か」とマイクがつぶやく。
「夢?」と男が聞き返した。
「悪いな」
しかめ面にちょっとだけ反省の瞬き。
「なにがだ?」
「手が当たって、ランプを落とした」
マイクは視線を落とす。
床に割れたランプの欠片が散らばっていた。
「……ああ。別にいいよ」」
「悪かったな」
「いいや」
マイクはゆっくりと目を閉じる。
「……名前、聞いとけばよかったな」
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