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いろんな人がいろんなところで

ランプ ~順番待ちの世界~

掲載日:2026/04/11

家のごたごたを片づけて合流した相棒は、三日経っても眠り続けている。

一体、なにがあったんだ。だから、目を離したくなかったんだ。

ふと、傍らに置かれた相棒の銃に目をやると、エネルギーゲージが吸い取られるように減り続けていた。


募る不気味さと苛立ちに耐えかね、部屋に入った時から鼻についていたランプを手で払った。

俺の知らない持ち物。忌々しい!


ガシャン!

硬質な音が部屋に響き渡り、胸がすっきりした。


死んだように眠っていた相棒が、ゆっくりと、その瞼を持ち上げた。

 

 マイクは露店の前で足を止めた。


 通りは夕暮れの喧騒に包まれているのに、その一角だけが妙に静かだった。人の流れがそこだけ避けているようにも見える。


 並べられているのは、どれも古びた品ばかりだ。剣、壺、装飾品、用途のわからない機械のようなものまである。


 その中に、ひとつだけ目を引くものがあった。


 ランプ。きれいに磨かれていて、他の商品とは違って見える。


 見ていると、視線が引き込まれるような感覚があった。


「それは、お買い得だ。安くしてある」と店主が言った。


 マイクはランプを手に取る。


 ずしりと重い。


「使えるのか」とマイクが言う。


「試してみな」と店主が火打石を差し出す。


 マイクは火を灯した。


 小さな炎が揺れる。


「……つくな」とマイクが言う。


「風情があるだろう」と店主が笑う。


「確かにな」とマイクも笑った。


 マイクは少しだけ迷ったが、銀貨を置いた。


「貰っていくよ」とマイクが言う。



 帰り道、この惑星の二つの月が上って来た。


 宿に戻ると、マイクは部屋の扉を閉めた。


 椅子に腰を下ろし、ランプを机に置く。


「さて」とマイクがつぶやく。




 火を灯した。その瞬間、壁に影が浮かび上がった。


「……なんだ、これ」とマイクが眉をひそめる。


 ランプには模様がない、それなのに壁に模様が映っている。


 ランプを触るとかすかに凸凹がある。それが模様になっているのか?


 光の屈折とかそんなやつってことか?


 まぁいい。



 ベッドに寝っ転がった。




 気がつくと、マイクは知らない道を歩いていた。


「……は?」とマイクは立ち止まる。


 トンネル?下も壁も白くてかすかに光っている。


 胸の奥がざわつく。


 危険だ。


 だが、すぐに死ぬような気配ではない。


 マイクは腰に手をやる。


 銃の感触。


「あるな」とマイクが小さく言う。


 エネルギーゲージは満タンを示している。


 共に死地をくぐってきた相棒だ。


 もう一人の相棒は五日後にやってくる。


 しかめ面の整った顔が脳裏に浮かぶ。


 早く会いたいと思って、あわてて打ち消す。




 そのとき、前方から女性が走ってきた。


 必死に走っているのだろう、息が切れている。


 マイクの前で止まって息を整えている。


 やがて、


「どこからきたの?」と女性が言う。


 マイクは一瞬沈黙した。


「……どこから?」とマイクが言う。


「そんな服、見たことない」


「そっちの服もだ」


 女性は少し目を見開き、興味深そうに見つめてくる。


「まさか、知らないの?」


「なにをだ」


「ここ」とあたりを示した。


 マイクは彼女をじっと見た。


 薄い布を幾重にも重ねた衣装。風に揺れるたびに色が変わる。


「……妙な服だな」


「似合ってるでしょ?」


「似合っていて、きれいだ」




 やがて広場に出た。


 そこには多くの人がいた。優雅な服を着た男女が、円卓のような場所で食事をしている。


 だが奇妙だった。


 全員が手づかみで食べている。


 それなのに、不思議と下品には見えない。動作の一つ一つが洗練されている。


 そして、妙に明るい。




 周囲の会話が耳に入る。


「今日は、どこに?」


「北の五番にしようかと」


「わたしは南の八番に」


「では、またここで」


 彼らは奇妙な目交ぜをして立ち上がった。



 マイクは眉をひそめる。


「場所か?」


「そうよ」


「意味は?」


「そのうちわかる」


「そうか」



 女性が腕を引いた。


「ここで食事をしましょう」


「そうだな」


「時間がないの」


 中央の砂時計を指す。


 砂が落ち続けている。


「あれが落ちきるまでしかいられない」


「なにが起きる」


「終わるの」


「曖昧だな」


「説明してる時間がない。食べましょ」


「そうか」





 マイクは座る。


「……食うしかないか」


「そう」


「美味いな」


「そう思う? よかった」


「そうか」




 食事が終わる。


 女性が立ち上がる。


「さあ、行きましょう」


「どこへだ」


「東でいい?」


「ああ」


「こっち」




 マイクは一瞬だけ迷う。


「戻れるのか?」


 女性は首をかしげた。


「戻るってなに?」


 マイクは言葉を飲み込む。


「……いや、いい」




 しばらく歩いて振り返る。


 広場は消えていた。


「消えたな」


「そういうものよ」


「そうか」



 分かれ道。


 人々が別れていく。


「別の場所に行くの。どこへ行ってもいいのよ」


「なるほど」




 やがて止まる。


「ここは、東の三番」


「そうか」


 女性がため息をつく。


「つまらない人」


「聞きたいことはある」


「なに?」


「ここはどこだ」


「東の三番」


「それ以外ないのか?国は?」


 女性は首をかしげる。


「国? なにそれ」と女性が言う。


 マイクは沈黙した。


「じゃあ、なんでここにいる」


 女性は少し考えた。


「食べられる順番待ち?」



「……何にだ」


 女性は微笑む。


「その時にわかる」


 やがて、二人は歩いて広場に戻った。



 そして、南へ行ったり、北へ行ったり、東へ行ったり。




 繰り返した。


 歩いて、好きな場所へ行く。


 戻る。


 食べる。


 話す。


 また、出かける。


 繰り返した。





 西の六番にいる時、空気が変わった。


 重い、粘るような圧。


「来た?」


「なにがだ」


「順番が来た」




 マイクは銃を抜いた。


「……待つだけのつもりはない」


 女性が驚く。


「やめて」


「いいや」




 黒い影が現れた。


 形が定まらない。


「……あれか」


 影がゆっくり近づく。


 自信に満ちた足取り。


「格が違うな」


「逃げて」


「いいや」


 銃口を向ける。


「最後の一矢。いや一閃か」


 マイクは相棒を黒い影に向けた。


 一射、二射。影はマイクを認識した。


 マイクは影が近寄るのを待った。




 その瞬間。


 がしゃん、と音がした。


 空間が歪む。


 黒い影がくしゃと折りたたまれる。


「なっ」とマイクが声を上げる。


 振り向く。


 女性が手を伸ばしていた。




 意識が引き戻される。




「……はん?」とマイクは自分の出した声を聞いた。


 青い目がこちらを見ていた。


「目が覚めたか」


「……ここは」


「宿だ」


 しかめ面に変わる。


「三日以上寝てたぞ」


「三日……?」




「夢か」とマイクがつぶやく。


「夢?」と男が聞き返した。




「悪いな」


 しかめ面にちょっとだけ反省の瞬き。


「なにがだ?」


「手が当たって、ランプを落とした」


 マイクは視線を落とす。


 床に割れたランプの欠片が散らばっていた。


「……ああ。別にいいよ」」


「悪かったな」


「いいや」




 マイクはゆっくりと目を閉じる。


「……名前、聞いとけばよかったな」





いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

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