閉じ込められた温もりと、ベルガモットの誓い
放課後の図書室。
中間試験で一位を取ったとはいえ、キャロラインに休んでいる暇はなかった。博物学の高度な理論を自分のものにするため、彼女は今日も一人、図書室の奥まった席でペンを走らせていた。
(……あら? もうこんな時間)
ふと顔を上げると、窓の外はすっかり濃い藍色に染まっていた。
急いで荷物をまとめ、出口へと向かう。けれど、真鍮の取っ手に手をかけた瞬間、キャロラインの背中に冷たい汗が流れた。
「……え? 嘘でしょう?」
ガチャリ、と無機質な音が響くだけで、扉はびくともしない。外側から重い鍵がかけられているのだ。
「誰か! 誰かいませんか!? まだ中に人がいます!」
何度も扉を叩くが、夜の図書室は静まり返り、自分の声が虚しく反響するだけ。
ふと、お茶会でのベアトリスの冷ややかな視線を思い出し、キャロラインは足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
(わたし……このまま朝まで、ここで一人きり……?)
一方で、女子寮の一室。
ニナは、いつまで経っても帰ってこない親友の席を見つめ、眉をひそめていた。
「ケイティ、遅すぎるわ。……まさか」
ニナは直感した。キャロラインの真面目さを利用して、誰かが良からぬことを仕掛けたのだと。彼女は迷わず寮を飛び出すと、まだ生徒会室の明かりがついている本校舎へと走った。
「エリオット様! ケイティが……キャロラインが戻ってこないんです!」
その名を聞いた瞬間、優雅に書類をめくっていたエリオットの動きが止まった。
「……彼女なら、いつもは図書室で自習しているはずだ。だが、あそこはもう閉館しているはずだが」
エリオットは即座に立ち上がり、カチャリと胸ポケットから鍵の束を取り出した。その顔からはいつもの余裕が消え、エメラルドグリーンの瞳には鋭い焦燥が宿っている。
「ニナさんは他の教師に連絡を。僕は心当たりを回る」
図書室の分厚い扉の前。
エリオットは迷わず鍵を差し込み、力任せに扉を押し開けた。
「ケイティ!!」
暗闇の中で震えていたキャロラインは、自分の名前を呼ぶ、切実な声に顔を上げた。
駆け寄ってきたエリオットが、彼女の肩を強く抱き寄せる。
「エリオット様……っ」
「……良かった。もしものことがあったら、僕は自分を許せなかった」
震える彼女を包み込む、強烈なベルガモットの香りと、彼の激しい鼓動。
キャロラインは、自分を抱きしめる彼の手が、かすかに震えていることに気づいて——。




