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9/12

閉じ込められた温もりと、ベルガモットの誓い

放課後の図書室。

中間試験で一位を取ったとはいえ、キャロラインに休んでいる暇はなかった。博物学の高度な理論を自分のものにするため、彼女は今日も一人、図書室の奥まった席でペンを走らせていた。


(……あら? もうこんな時間)


ふと顔を上げると、窓の外はすっかり濃い藍色に染まっていた。

急いで荷物をまとめ、出口へと向かう。けれど、真鍮の取っ手に手をかけた瞬間、キャロラインの背中に冷たい汗が流れた。


「……え? 嘘でしょう?」


ガチャリ、と無機質な音が響くだけで、扉はびくともしない。外側から重い鍵がかけられているのだ。


「誰か! 誰かいませんか!? まだ中に人がいます!」


何度も扉を叩くが、夜の図書室は静まり返り、自分の声が虚しく反響するだけ。

ふと、お茶会でのベアトリスの冷ややかな視線を思い出し、キャロラインは足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。


(わたし……このまま朝まで、ここで一人きり……?)


一方で、女子寮の一室。

ニナは、いつまで経っても帰ってこない親友の席を見つめ、眉をひそめていた。


「ケイティ、遅すぎるわ。……まさか」


ニナは直感した。キャロラインの真面目さを利用して、誰かが良からぬことを仕掛けたのだと。彼女は迷わず寮を飛び出すと、まだ生徒会室の明かりがついている本校舎へと走った。


「エリオット様! ケイティが……キャロラインが戻ってこないんです!」


その名を聞いた瞬間、優雅に書類をめくっていたエリオットの動きが止まった。


「……彼女なら、いつもは図書室で自習しているはずだ。だが、あそこはもう閉館しているはずだが」


エリオットは即座に立ち上がり、カチャリと胸ポケットから鍵の束を取り出した。その顔からはいつもの余裕が消え、エメラルドグリーンの瞳には鋭い焦燥が宿っている。


「ニナさんは他の教師に連絡を。僕は心当たりを回る」


図書室の分厚い扉の前。

エリオットは迷わず鍵を差し込み、力任せに扉を押し開けた。


「ケイティ!!」


暗闇の中で震えていたキャロラインは、自分の名前を呼ぶ、切実な声に顔を上げた。

駆け寄ってきたエリオットが、彼女の肩を強く抱き寄せる。


「エリオット様……っ」


「……良かった。もしものことがあったら、僕は自分を許せなかった」


震える彼女を包み込む、強烈なベルガモットの香りと、彼の激しい鼓動。

キャロラインは、自分を抱きしめる彼の手が、かすかに震えていることに気づいて——。

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