揺れるベルガモットと、王子の婚約者候補
「……ヴィクターと、何を話していたんだい?」
渡り廊下の陰から現れたエリオットの声は、いつになく低かった。
さっきまでヴィクターと話していたキャロラインを見るエメラルドグリーンの瞳には、困惑と、ほんの少しの鋭い光が混じっている。
「エリオット様! いえ、あの、ペンを直していただいたんです」
「……彼に?」
エリオットは、キャロラインが大事そうに抱える万年筆を見つめ、小さく溜息をついた。
「君は、無防備すぎる。……ヴィクターは悪い男じゃないけれど、あんなに近くで話し込むなんて。正直、あまり気分が良くないな」
「え……?」
困ったように笑いながらも、どこか独占的な響きを含んだエリオットの言葉。
キャロラインがその真意を汲み取れず困惑して固まっていると、掲示板の方から鋭い叫び声が聞こえてきた。
「信じられない……! どうして、わたくしの名前があの平民の下にあるのですか!?」
中間試験の成績発表。
掲示板の最上段、Aクラスのリストの筆頭にはキャロライン・ハウスベリーの名前が刻まれ、そのすぐ下にベアトリス・マルグリッドの名前が続いていた。
「ベアトリス様、落ち着いてください……」
「落ち着いていられるはずがありませんわ! わたくしは、いずれ第二王子殿下エミール様の婚約者になるのですよ!? こんな、安っぽいお菓子の匂いをさせた女に負けるなんて、屈辱ですわ!」
ベアトリスの瞳に、暗い執念の火が灯る。
それは、純粋な努力で道を切り開こうとするキャロラインへの、明確な敵意だった——。




