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お茶会の旋風と、クッキーの魔法

学園に入学して数週間。この日は、貴族と平民の親睦を深めるための「交流お茶会」が開催されることになっていた。会場となる中庭のテラスには、白やピンクの花々が咲き誇り、きらびやかなドレスを纏った令嬢たちが華やかに笑い合っている。


(どうしよう……。やっぱり、私なんかがここにいてもいいのかしら)


慣れないフリル付きのブラウスを整えながら、ケイティは所在なげに立っていた。手元には、丁寧にラッピングされた籠がある。中身は、今朝早く起きて焼いたハウスベリー自慢のジャムクッキーだ。


「ケイティ、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」


隣から、涼やかな声がした。見ると、淡い水色のドレスを上品に着こなしたニナが、安心させるように微笑んでいる。


「ニナさん……。でも、皆さんあんなに豪華なケーキや、見たこともないお菓子を持参されているわ」


「ええ。でも、流行に敏感な私から言わせれば、今一番『価値』があるのはあなたのクッキーよ。自信を持って。ほら、あそこのテーブルへ行きましょう」


ニナに促され、ケイティはおずおずとクラスメイトが集まるテーブルへと向かった。


「失礼いたします。……もしよろしければ、これ、私の実家で焼いているクッキーなのですが、皆様でいかがでしょうか?」


勇気を出して籠を差し出す。一瞬、テーブルを囲んでいた令嬢たちの動きが止まった。


「あら、平民の……ハウスベリーさんだったかしら? クッキーですって?」


一人の伯爵令嬢が不思議そうに手に取った。真っ赤なベリージャムが中央でキラキラと輝くクッキーは、貴族の豪華なお菓子とは違う、どこか温かみのある美しさを持っていた。


「……まあ、いい香り」


彼女が一口、口に運ぶ。その瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれた。


「っ! 何かしら、この果実の芳醇な風味は……! 生地もサクサクしていて、こんなに美味しいクッキー、初めて食べたわ!」


「 私も一つ……あら、なんてこと。本当ですわ!甘すぎなくて、紅茶にぴったりだわ」


一人、また一人と手が伸び、ケイティの周りに「美味しい!」という驚きと感嘆の声が広がっていく。ニナが誇らしげに頷く中、ケイティの心はパッと明るくなった。


「光栄です。実家は、王都の小さなクッキー屋なんです。皆様に喜んでいただけて……とっても嬉しいです!」


照れたように、でも心からの喜びを込めて笑うキャロラインに、令嬢たちは一斉に優しく笑みを浮かべた。


「本当に素敵なお菓子だわ! ねえ、ハウスベリーさん、よかったら一緒に座ってお茶をいただきながらお話ししましょうよ」


「えっ……私なんかが、よろしいのですか?」


「ええ、もちろん! そのジャムの煮詰め方、ぜひ教えていただきたいわ」


平民という壁が、バターとジャムの香りに溶けていく。

キャロラインはニナと顔を見合わせ、初めてこの学園に「居場所」ができたような気がして、胸が熱くなった。


しかし、そんな温かな輪を、少し離れた場所から冷ややかに見つめる鋭い視線があった。


「……ふん。卑しい平民が、お菓子一つで取り入るなんて。浅ましいことですわ」


侯爵令嬢、ベアトリス。

彼女の取り巻きたちがざわめく中、ベアトリスは扇をパチンと閉じ、優雅に、けれど威圧感を持って一歩踏み出した。


その背後には、妹の振る舞いを眉をひそめて見守る、あの「堅物」な兄・ヴィクターの姿もあったのだが、今のキャロラインはまだ、彼らの存在に気づいていなかった——。

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