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ランチルームの出会いと、秘密の呼び名

学園のランチルームは、高い天井から光が差し込み、まるで宮殿のような華やかさだった。


けれど、キャロラインにとってその場所は、自分の身分を突きつけられる場所でもあった。


(やっぱり、Aクラスは貴族の方ばかりね……)


成績優秀者が集められたAクラスは、幼いころから家庭教師などから指導を受けていた貴族がほとんどだった。


周囲からは観劇や避暑地の話題が聞こえ、まるで馴染めそうにない。そんな中、キャロラインは隅の席で、母が持たせてくれたジャムクッキーの袋をそっと抱えていた。


「お隣、ご一緒してもよろしいかしら?」


柔らかな、でも凛とした声に顔を上げると、知的な雰囲気を纏った少女が立っていた。


「あ、はい……どうぞ!」


「私、ニナ・ルイス。実家は雑貨の輸入商をしているの。」


「キャロライン・ハウスベリーです。」


「ハウスベリー……? まあ! もしかして、あの王都で噂の『ハウスベリーのクッキーショップ』の!? 私、家が商家だから流行には少し自信があるのだけれど、あそこのジャムクッキーは今、王都で一番手に入らないお菓子だわ!」


ニナは驚いたように目を輝かせ、丁寧に椅子を引いて座った。彼女は商家の娘らしく、相手の懐にスッと入るような明るい礼儀正しさを持っている。


「光栄です。実家がお店なんです」


「素敵だわ。……でもハウスベリーさん、平民でAクラスに選ばれるなんて、学園の有名人ですもの。こうしてお話しできて嬉しいわ」


ニナの飾らない言葉に、キャロラインの緊張が少しずつ解けていった。二人はそのまま家業や趣味の話で盛り上がり、共通点を見つけるたびに笑い合った。


「本当、ニナさんは物知りで凄いです。……それに比べて、ケイティは何も知らなくて」


「……ケイティ?」


ニナが不思議そうに首を傾げた。キャロラインは「あ!」と自分の口を押さえたが、もう遅い。


「ごめんなさい、私……家ではそう呼ばれているので、つい。小さい頃、自分の名前がうまく言えなくて『ケイティ』って聞こえていたみたいで。それを家族や近所の人が気に入って、ずっとそう呼んでいるんです」


「ケイティ……。ふふ、キャロラインさんよりも、ずっと貴女らしい愛称ね」


ニナは優しく微笑んで、茶目っ気たっぷりに小首を傾げた。


「でも、その可愛い呼び名、私にも呼ぶことを許してくださる? 家族とご近所さんだけの特権なら、私もその仲間に加えてほしいわ。……それとも、キャリーさんとお呼びした方がいいかしら?」


「えっ、あ、ニナさんさえ良ければ、ぜひ!」


「ありがとう、ケイティ。……あら、誰かが見ているわね」


ニナの視線を追うと、上級生用のテーブルで、一際輝くようなオーラを放つ少年がいた。


次期公爵、エリオット・ヴァン・グランツ。


彼はふと、こちらに視線を向けたような気がした。


「公爵家のエリオット・ヴァン・グランツ様よ。素敵だし、人気者なのも頷けるわね。」


その瞬間、ざわめくランチルームの中に、どこか懐かしく爽やかなベルガモットの香りがキャロラインの鼻先をかすめた。

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