毒入りのクッキーと、騎士の決断
レポート事件の疑惑が晴れたものの、ベアトリスの焦燥は極限に達していた。
そんな中、第二王子エミールが学園を訪れる。彼は同級生のエリオットが密かに(そして独占欲を隠しながら)「友人の家の菓子だ」と勧めるハウスベリーのクッキーに興味を持ち、放課後のサロンで試食会が開かれることになったのだ。
「へぇ、これが噂のクッキーか。エリオットがこれほど勧めるなんて珍しい。いい香りだね、一口いただこうかな」
エミールが手を伸ばそうとした、その時。
「待て!!」
鋭い叫びと共に、ヴィクターがエミールの手首を掴んで止めた。
「ヴィクター? 急にどうしたんだ、怖い顔をして」
「……このクッキー、表面のジャムに不自然な変色がある。それに、微かにだが……マルグリッド家の領地でしか自生しない毒草、銀蛇草の香りがする。」
ヴィクターの言葉に、会場が凍りついた。キャロラインは青ざめて、自分の持ってきた籠を見つめる。
「そんな……わたし、いつも通りに焼いたはずなのに……」
「……キャロライン、君を疑っているわけではない。だが、この毒草を扱える人間は限られている。——ベアトリス」
ヴィクターは、サロンの隅で顔を強張らせている妹、妹を冷徹なまでに見据えた。
「……お前の鞄の中にある、その小瓶は何だ。……俺の目をごまかせると思うな」
「っ、お兄様! 何を……! わたしは、ただ……!」
言い逃れようとするベアトリスだったが、ヴィクターは一切の容赦なく彼女の手から小瓶を取り上げ、王子の前に差し出した。
「エミール殿下。我が妹が、貴方に対して、そしてこの無実の少女に対して、取り返しのつかない罪を犯しました。……兄として、そして騎士として、即刻彼女を拘束いたします。マルグリッド家への沙汰は、いかようにも」
ヴィクターは妹を兵に引き渡すと、キャロラインの前で深く頭を下げた。
「……すまなかった。私の監督不行き届きだ。お前の努力を、踏みにじらせてしまった」
エミールは静かに告げた。
「……ベアトリス嬢。君を私の婚約者候補から外すよう、父上に進言しよう。学園を汚した罪、重く受け止めるがいい」
ベアトリスは叫び声を上げながら連行されていく。サロンは冷たく静まり返った。
エリオットは震えるキャロラインを、誰の目も憚らずに、そっと抱きしめた。




