消えたレポートと、孤立無援の教室
事件から数日。学園内には、キャロラインが図書室に閉じ込められたのは「自作自演」だという心ない噂が一部で流れていた。
そんな中、さらに追い打ちをかけるような事態が起きる。
「ハウスベリーさん、少し話がある。放課後、教官室へ来なさい」
博物学の教官に呼び出されたキャロラインを待っていたのは、信じられない言葉だった。
「君が提出したレポートだが……先に提出されていた上級生の優秀論文と、内容が酷似している。これは、明らかな盗作だ」
「えっ……そんな、そんなはずありません! わたし、一から自分で調べたものです!」
「だが、現にここに証拠がある。君のレポートには、その論文にしか書かれていない特有の誤植まで、そのまま書き写されているんだ」
教官室での厳しい追及の後、教室に戻ったキャロラインを待っていたのは、冷ややかな沈黙だった。お茶会で仲良くなった令嬢たちも、ベアトリスの鋭い視線を恐れて、そっと目を逸らしてしまう。
ニナだけが「そんなのあり得ないわ!」と教官に詰め寄ってくれたが、提出されたレポートに「盗作の証拠」がある以上、状況は絶望的だった。
(わたし、一生懸命書いたのに……おばあさまの万年筆で、何度も書き直したのに……)
放課後、人気のない廊下でキャロラインが一人俯いていると、背後から落ち着いた足音が近づいてきた。
「……こんなところで、何を悲しんでいるんだい?」
「エリオット様……。あの、わたし、本当に盗作なんてしていなくて」
なにがあったか暗い声で説明するキャロライン。
「分かっているよ。……君がどれだけ熱心に、その万年筆を走らせていたか。一番近くで見ていたのは僕だからね」
エリオットは優しく微笑むと、キャロラインを連れて再び教官室の扉を叩いた。
「エリオット・ヴァン・グランツか。だがこれはAクラスの問題だ」
「いいえ、学園全体の規律に関わる問題です。教官、もう一度レポートを確認してください。キャロラインさんの万年筆は古いもので、ペン先に独特の『開き』があります。彼女が書いた文字には、顕微鏡で見れば分かるほど微細な二重の筋が入る。……ですが、後から付け足された『盗作の証拠』部分には、その特徴が全くありません。最新の、均一なペン先で書かれたものです。……誰かが彼女のレポートを盗み、後から最新の万年筆でわざと誤植を書き足した。そう考えるのが、論理的に自然だとは思いませんか?」
教官が慌ててレンズを取り出す。
「さらに、彼女がそのレポートを書き上げた夜、僕は図書室で彼女の隣にいました。彼女が自分の力で考察を導き出し、最後の一行を書き終えるまで、僕がこの目で確認しています。……僕の証言を疑う、というわけではありませんよね?」
エリオットの静かな、けれど圧倒的な圧力。学園一の秀才であり次期公爵である彼の「目撃証言」に、教官はぐうの音も出なかった。
教官が言葉を失う中、エリオットはチラリと、廊下の向こう側から様子を伺っていたベアトリスの取り巻きたちに視線を向けた。彼の静かな、けれど圧倒的な視線に、犯行に関わった生徒たちは顔を青くして逃げ出した。
「……君を守るって言っただろう? さあ、顔を上げて。ケイティ」




