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元気にする店  作者: 喜文家症転(きぶんやしょうてん)


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第一話「不安を占ってくれる店」

「夜は不安を直視する」

「はぁー……」


 溜息が無意識に漏れた。


「はあぁー……」


 溜息は不幸の元と言うが、それでも止めることが出来なかった。不要な事実の直視に体が疲労感と不幸感に包まれている。俺はこれからどうすればいいのか、とそんな思考だけがグルグルと回っていた。


 明く暗い住宅街を一人でぼちぼちと歩く。なんの変哲のないアスファルトを警戒する気もないが、自然と顔と目線は落ちてしまう。

 そのせいで周囲の景色は目に入ってこないが問題は無い。なんせ通り慣れた道だ、多少視界が狭まったくらいでは道を間違えることもないだろう。



 が、この日は相当疲れていたらしい。家に帰っていたはずが、気が付けば見知らぬ暖かい光を漏らす店の前にっていた。

 言葉に表しきれない暖かさに惹かれるように、特徴的な木目の扉を開け中に入った。


「いらっしゃいませ」


 重厚でどこか頼りない広めのアンティークデーブルの向こうに座った、二十歳にもならなさそうな少女の落ち着き払った声が俺を出迎えた。


 俺は「どうも」と鳴き声のようなものを発して店内を見回した。


 摩訶不思議な見たこともない容姿の雑貨から、見慣れた雰囲気のある雑貨まで、様々な物が棚や地べたに所狭しと並べられていた。アンティークなものから最新式のシャープなものまで見境なく置かれており、部屋に統一感はない。たぶん、雑貨屋みたいなものなのだろう。


「貴方のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「名前?」


 少女の想定外の問に混乱し、思わず聞き返してしまった。もしやここは予約制の店だったのだろうか。それともここはただの個人宅で、俺を警察に通報するために情報を聞き出そうとしているだけなのか。


「ええ、お客様のお名前を教えていただくことでサービス向上に繋がります。ただし無理には聞きません。お客様が第一ですから」


「サービス?あっ、それならここはお店ということでいいんですよね?実は俺、看板も見ずにフラッと入ってしまったもので、個人宅だったのではないかとヒヤヒヤしていたんですよ」


 俺の質問を聞いて少女は、先程まで書いていた万年筆をペンスタンドに戻した。それから何か考えるように手を顎に当て、程なくして少女は再び口を開いた。


「ここは……、貴方にとっては占い屋です、はい。貴方には悩みがあるはずです、よければ占いますよ?」


 そう言って彼女は綺麗な黒い瞳でじっ、とこちらを見つめた。その何でも見透かしてしまいそうな瞳に見つめられ、背筋が少し、ひやりとした。


 俺は促されるまま、アンティークテーブルを挟んで彼女の向かいに座った。


「では、お名前と悩み事を簡単に教えてください」


 テーブルの上には球体の水晶とタロットカード、といういかにもなセットが用意されている。


「俺の名前は酒村(さかむら)浩司(こうじ)です。悩みは、ですね……」


「あぁその、なんといいますか妻との関係といいますか。それがあまりうまくいってないんです。どうすれば彼女は俺を好いてくれるのか、とか、最近はそればかりに気を取られて首が回らないんです」


「はぁ~なるほど。女性との……」


 そう言って彼女は水晶を端に寄せ、タロットカードを器用にシャッフルし始めた。


「カードをめくります。一枚目が貴方の現在の状況、二枚目と三枚目が待ち受ける運命、四枚目はすべき行動を暗示します」



 一枚目のカードがめくられた。一組の男女が神の前で手を繋ぐ絵。

 二枚目のカードがめくられた。絢爛で固そうな玉座に座る老いた男の絵。

 三枚目のカードがめくられた。巨木の枝に逆さまの状態で吊るされた男の絵。

 四枚目のカードがめくられた。反対から見た、甲冑を着た男が金属製の馬車を馬に引かせている絵。

 五枚目のカードがめくられる。反対から見た、ラッパを吹く天使に多くの人が手を伸ばす絵。



 所詮ただの絵札であるが、めくられた以上は気になってしまう。固唾を飲み結果の開示を待った。


「貴方はキレイな恋心を抱いてその女性を求めている。強い責任感と自信、的確な判断によって全てを得るか、辛い苦痛を伴いながらも望んだ成果の一部を得られる。貴方がすべきなのは混乱、迷いの中でも決して道を踏み外さない事。そうすればその女性との関りは都合の良いものとなるでしょう」


「五枚目のカードは何を表すんですか」


 最初に四枚と言っていたにも関わらず、さらにカードがめくられた。この意味を聞こうとしたが、彼女は柔らかな笑みを浮かべながら首を振った。


「このカードに意味はありません。勢い余ってめくりすぎてしまっただけですから」


「ならこれは……、いい結果と言えるのでしょうか」


「ええ、望外の結果であることは間違いないでしょう。貴方の不安は取るに足らない事であると言えます」


 その言葉を聞いて安心した。充足感を胸に抱き未来への希望を感じながら、暖かな明かりと不思議な少女を背に店を出た。



・・・・・・



 先程一人のお客様が退店した。この店を出ていく彼の表情は、入ってきたときと打って変わって明るくなっていた。それはこの店の存在意義を果たしたことの証明だろう。


 ここはお客様を元気にするための店。手段は多様、所要時間も千差万別、しかしこの店を出る人間の表情は決まって嬉しそうである。人間であれば誰でも、どんな性質の者でも関係ない。元気になった人間が、その後何を行うとしてもこの店は気にしない。

 元気になってもらうだけの場所であり、正しい存在意義など店主の格好をした少女にとっても未知なのである。

負恋人、負皇帝、負吊るされた男、正戦車、正審判


邪な恋心、傲慢で横暴な結果、苦痛の末何も得られない、考えのまま突き進む、待ち受けるのは凄惨な裁き

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