流行りの悪役令嬢
地雷系が流行るなら悪役令嬢系も流行るよね
パーティーの華やかな喧騒が一瞬で凍りついた。王子がエミの前に立ち、高らかに宣言したのだ。
「エミ!俺はお前と婚約破棄をする!」
周囲の貴族たちがざわめき、好奇の視線がエミに注がれた。彼女は一瞬、耳を疑った。コイツ急に何を言うんだ、と思いながら、冷静に理由を聞こうと口を開いた。
しかし王子は続けた。「俺は別の女性が好きになった。だから悪役令嬢のお前とは婚約破棄をする!」彼は得意げに、少し離れた場所に立つリナを指さした。「エミ、お前俺のリナをいじめたらしいな!さすが見た目からして悪役令嬢なだけある」
エミは目を見開いた。悪役令嬢?これは最近流行りの悪役令嬢ファッションとメイクなのに、何を言ってんだこの人は?
彼女がゆっくりと、王子が「いじめられた」というリナの方を見ると、リナも困惑した表情を浮かべていた。何故ならリナとエミは親友だったからだ。何ならリナだって、黒を基調としたレースのドレスに、少し挑発的な濃いめのメイクという、エミとそっくりの「悪役令嬢コーデ」でメイクをしていた。
最近、巷の小説で悪役令嬢ものが大流行しており、若い女性たちの間で、小説に登場する悪役令嬢のファッションやメイクが少しずつ流行っていたのだ。
リナがエミの隣に歩み寄り、ため息をついた。「王子様、それは誤解です。エミと私は親友ですし、このコーデは今流行りの…」
「何も言い訳は聞かん!」王子は胸を張った。「リナ、君は心優しすぎるんだ。こんな悪役令嬢みたいな女とは、もう関わらなくていい!」
エミとリナは顔を見合わせ、思わず笑いが零れそうになった。エミが一歩前に出て、冷静に言った。
「王子様、まず第一に、リナはいじめられていません。第二に、これは単なるファッションです。そして第三に——」
彼女はリナの手を取った。
「——私たちはこのコーデが気に入っているので、これからも続けます。婚約破棄については、了解しました。むしろ、リナのことを『自分の所有物』のように言う方に、私は関わりたくありません」
王子は呆然と口を開けたままだった。周囲からクスクスという笑い声が聞こえ始めた。彼が「救おう」と思っていたリナが、エミの手を握りしめ、にっこり笑っているのだ。
「王子様、ご心配ありがとうございました。でも、私の親友を悪役呼ばわりする方とは、お近づきになりたくありません」
二人は手をつなぎ、悪役令嬢のような(実際には流行の)ドレスの裾を翻して、王子を置いてパーティーの別の場所へと歩き出した。
後ろで王子が「待て!どういうことだ!?」と慌てた声を上げるのが聞こえたが、もう誰も振り向かなかった。
エミがリナに囁いた。「次はもっと派手な悪役令嬢コーデを試さない?」
リナは笑ってうなずいた。「そうね。次回のパーティーは、もっと『悪役』らしく行きましょう」
二人の笑い声が、音楽に包まれて消えていった。王子は一人取り残され、流行にも、女性の友情にも、まったくついていけないことを痛感するのであった。




